82.新しい席、新しい日常
予鈴が鳴り、ホームルームが始まる。
青山先生が小さな箱を持って、教室に入ってきた。
「みんな、運命の席替えです」
先生はニコニコしながら、箱を振る。
「1から40番まで入っているので、引いた番号の席に移動してくださいね」
いつも、いきなりな青山先生だ。
隣の席の夕が声をかけてきた。
「席が離れても、私の事忘れないでね?」
「何言ってるんだ。当たり前だろ」
夕はふざけて言っているので、俺は適当に返す。
順番にみんなが引いて、俺の番になった。
俺は箱に手を突っ込み、たくさんの紙の中から1枚を選ぶ。
これだ!
『40』
おぉ、40番か。
教室の1番後ろ、右端の席だ。
正確には右側の席が2つないから、端から3つ目になる。
俺は鞄を持ち移動する。
俺の左隣の席は水野さん。
水野 沙季さん。確か吹奏楽部だった気がする。そのくらいの情報しか持ってない。
「よろしくね」
「よろしくー」
と返されるくらいの関係性だ。特に弾む話は無し。
そして俺の目の前には…。
「よろしくね、相馬くん」
天沢憂華が俺の前の席に座る事になった。
「廊下からの脱出おめでとう」
「ありがと。後ろが相馬くんなら安心だね」
「どういう意味だよそれ」
憂華は笑っていた。
青山先生は全員が移動し終わるのを待つ。
「よし、席替え終わったね」
俺も教室を確認する。
まるで、別のクラスにきたみたいな感覚に陥るが、顔ぶれは当然変わってない。
彩葉は前から3つ目窓側から3つ目の席。
夕は廊下側の前から5番目となった。
1学期は、夕が隣の席で良かったなと思う。
入学した俺に声をかけ、ラーメン屋やゲームをする仲になったのは、夕が隣の席にいたからだと思う。
また、声をかけておこう。
「じゃあ、この席で2学期はよろしくね!」
青山先生は席替えを終わらせ今日のホームルームは終了となった。
俺の席に夕が近づいてきた。
「相馬ー…」
「夕、今までありがとうな。感謝してる」
「いや、その別れみたいなの、より悲しさを増すからやめてよ」
俺の隣から離れて悲しい。そう思ってくれるだけで十分だ。俺は嬉しいよ。
彩葉も近づいてきた。
「夕とも憂華とも離れちゃったよー」
「仕方ないね…でもあんまり変わらないから安心してよ」
憂華が2人をフォローしてる光景を眺めている。
席が変わっても関係性は変わらない3人……。いや4人だと感じるようになった。
昼休み、また憂華たちは食堂に向かった。
俺は焼きそばパンを出し、机で食べ始める。
隣の席の水野さんは、豊崎さんと一緒にお弁当を食べている。
俺はスマホを眺めながら、焼きそばパンを食べ始める。
「沙季ちゃん、今日通しの練習あるだって」
「そうなんだ、結構長くなりそうね」
2人のやりとりをなんとなく聞く。
2人とも吹奏楽部の話をしている。
あまり聞き耳を立てるのも悪いので、自分の放課後について考える。
久しぶりに生徒会の招集がかかった。
会長から全体に、集合連絡が来ていた。
俺はタブレットで、2学期の学校行事の予定を見る。
『文化祭』『クリスマス会』
この2つが主な行事だろうか。
11月には生徒会選挙がある。3年は実質、文化祭で活動を終える事になる。
副会長。
もし、副会長をやる事になるのであれば、冴島副会長の仕事を今からでも見ておく必要がある。
「難しい顔してんな、月城」
芦屋が声をかけてきた。
「これからの学校行事見てた」
「面白いもんでもあったか?」
「文化祭くらいだな」
芦屋はあまり興味なさそうに聞き、「ところでさ」と、話をぶった斬ってきた。
「玲奈さんに誘われてバイトするってマジか?」
「ん…まぁ、元々やりたかったしバイト。学校から近いしな」
「って事はロイポだろ?」
「そうだよ。面接終わって、制服来るの待ってる所」
そんな話をしてると、隣の水野さんが話に入ってきた。
「え、月城くんロイポでバイトするの?」
「ああ、先輩の紹介で働く事になった」
「そうなんだ…」
水野さんは少し、微妙な反応を見せた。
「…なにか、まずい事でもあったか?」
「いや…あそこの店、結構面接で弾かれてるって聞いたからさ、よく受かったね」
なんで君が受かるんでしょうか?
という意味が入っていそうだが…定かではない。
「紹介があったからだと思うけどね…」
俺が首を傾げながら、答えると、芦屋は肩を組んできて、話しだした。
「こいつはすごいんだぜ水野。海の家でバイトしてた時とんでもない速さで客捌いてたんだから」
「へぇ、すごいんだ月城くん」
「いや盛られてるよ、それ」
そこまで聞きに徹していた、豊崎さんも話に加わってきた。
「…月城くんってなんかできそうな雰囲気あるもんね」
「どんな雰囲気だよ…」
俺の周りに、新しい空気感を感じながら話す。
水野さんは、もっと静かな人だと思っていた。
豊崎さんは、ほとんど話したことがなかった。
人の印象なんて、話してみないと分からないものなんだな。
そんなことを思いながら、昼休みは終わった。




