77.夏の海、再び
俺は自室でゴロゴロしながら、スマホを見ていた。
海で撮った写真が、みんなから送られてきていた。
俺がビーチパラソルを建ててる写真もある。
…いつの間に撮っていたのだろうか。
特に、みんなで撮った写真。
そして、憂華と2人で撮った写真。
この2つは俺の中でもかなりのインパクトだ。
そう思い、俺はじっと見ている。
『ピピピピピ』
とスマホが鳴り、
画面には『芦屋』と表示されていた。
びっくりしたぜ…。
「どうした芦屋」
『悪い!夜遅くに』
「おう、構わないけど」
『明日暇か?』
「……内容による」
『実はだなーー』
芦屋は兄の手伝いで、海の家でバイトしてるらしい。
明日だけ、急に人が不足してかき集めているらしい。
『頼む!来てくれ!』
「そのくらいならいいけど…。俺、バイトとかした事ないけど、いいのか?」
『いいに決まってる!お前ならやれる』
何を基準にそう言ってるのかわからなかったが、まぁ予定もないし、行く事にした。
『お盆も過ぎて、そんなに人もいないと思うし、大丈夫だと思うから』
そう、芦屋は言っていた。
俺は時間通りに早朝、憂華達と来た海に到着。
海の家では、朝から仕込みがあるらしい。
「ありがとう、月城くん」
俺を迎えてくれたのは、芦屋のお兄さんだった。
大学生で、海の家で短期バイト中らしい。
俺が焼きそばを買った時、いた人かもしれないな。
顔をしっかり見たわけじゃないから、わからないが…多分そうだ。
「頼むぞ月城!」
「で、俺は何すればいいんだよ」
お兄さんと同じような格好をして、俺の背中をバンバンと叩く芦屋。
仕事内容についてはお兄さんが説明してくれた。
海の家は持ち帰り用の窓口と、イートインスペースがある。
「月城くんにはイートインスペースで料理を運んでほしい」
「わかりました。注文も取ればいいですね?」
「いけるかい?」
「たぶん。やった事はないですけど、大丈夫だと思います」
助かるよー。と言われながらお兄さんは仕込みに戻っていった。
「俺達は掃除から始めるぞ」
「了解」
俺達は、床を掃いたり、机を拭いたりしている。
前日の忙しさが伝わるくらい汚れていた。
芦屋のお兄さんが料理を作り、芦屋が補助。
俺が注文を聞きながら料理を運ぶ。
「なぁ、運ぶの俺だけ?人少なくね?」
俺は机を拭きながら、芦屋に聞く。
「もう1人はもうちょい後に来るはず…。そこまでは俺も手伝うからな」
芦屋は時計を確認しながら、適当に掃き掃除をしていた。
「サッカー部のやつか?」
「…あいつらは呼んだけど誰も来ないぞ」
「…そうなのか」
思ったより、芦屋は人望がないのか、それとも理由があるのか。
「まぁ、なんで来ないかは後でわかる…」
「いや、怖い事言うなよ」
そんな話をしていると、お兄さんがこっちに来た。
「よし、そろそろ開けるから。頼むぞ2人」
「はいよー」
「わかりました」
時刻は9時。
もう既に、お客さんが待っている。
俺はすぐに後悔する事になる。
なぜサッカー部が来なかったか。
なぜ人手不足になったのか。
「はい!ビールお待たせしました」
「こっち、焼きそば!」
「はい!少々お待ちください」
「あ、お兄さん、たこ焼きってまだ?」
「もう少し待っててくださいね!」
まだ10時にもなってないのに、人の量が結構多い。
俺が海に来た時も混んでいるなとは思ったが、イートインがこんな事になってるとは思いもしなかった。
俺はそれから芦屋に助けを求めたりして、なんとか耐える。
時間は11時。
俺がそろそろ限界だと感じていた時、救世主が現れた。
髪を金に染めた大学生くらいの女性。
上は水着を着て、エプロン。
下はショーパンを履いていた。
「すいません…遅れましたー」
「いや、遅いよ玲奈ちゃん」
芦屋のお兄さんは焼きそばを焼きながら、玲奈さんと呼ばれる人に向かって話していた。
「その子、月城くんを手伝ってあげて」
「おけー、注文取るの私やるよー」
と眠いのかだるいのか、適当な返事を返していた。
注文を取ってくれる玲奈さん。
俺は料理を運んだり、片付けに専念できた。
もちろんお互いがカバーしていたが、徐々に対応も落ち着いてきて、やっと会話できるくらいになってきた。
「玲奈さんありがとうございます」
「いや…私9時に来る予定だったんだけど、2日酔いで寝てたから…ごめんねー」
頭を少しだけ押さえて話すのを見て、まだ2日酔いが残ってるんだろうなと判断した。
「月城くん、そろそろ昼休憩にしよっか」
少し席も空いてきて、交代で休憩時間となった。
好きなもの食べさせてくれるらしい。
「いいんですか?」
「もちろん、バイト代とは別だから好きなのにしてよ」
俺は焼きそばとイカ焼きをお願いした。
前来た時と同じセットになってしまったが、これが美味いんだよな…。
俺は空いた席に座り、焼きそばとイカ焼きを食べる。
「乾杯〜」
ビールを片手に玲奈さんが俺の対面に座ってきた。
「お疲れ様です。玲奈さん」
「まぁ、まだ私休憩じゃないけどいいよね?」
「いや、俺に聞かれても…。あと、2日酔い大丈夫ですか?」
「大丈夫だよー」
俺の目の前でグビグビとビールを飲んでいる。
「それより、結構動けるじゃん君」
「そうですか?俺、バイトとかした事ないですよ」
「向いてるよ。よかったらバイト紹介するから連絡先交換しようよ」
……これは交換していいのか…?
なんか、違法なやつじゃないか?と疑っていた。
「嫌だった?」
「いえ、そんな事をありません」
俺はスマホを取り出して連絡先交換した。
「ありがと、イカ焼きうまー」
俺のイカ焼きが!
またしても食べられた。
「美味しいですよねイカ焼き」
「良いおつまみだよねぇ」
俺にはまだ、わからない事だけどな。
玲奈さんと、その後も話が弾んだ。
名前は佐伯 玲奈。
大学2年で、芦屋兄と同じ大学に行っているとの事。
今まで来てくれたバイトの中で、1番動けてるらしい。
好きなものは酒で、普段はファミレスでバイトしてるらしい。
「うちのバ先、人いないから来てよー」
「考えておきます」
「えーフラれた〜」
と、机に伏せていた。
いや、考えておきますと言ったんだけどな…。
否定はしていない。
焼きそばとイカ焼きを食べ終わり席を立とうとした時、ふと見覚えのある2人を見つけた。
橘生徒会長。
冴島副会長。
「え?」
俺は見間違いかと思ったが、間違いなく2人だ。
2人は持ち帰り窓口で焼きそばを受け取っていた。
俺は気づかれないよう身を潜めた。
「なにー?元カノでもいた?」
「いや、そんな人いないですよ」
玲奈さんは窓口を見ていた。
「知り合い?」
「生徒会の先輩です…」
「え!生徒会なの相馬くん。意外と真面目だねぇ」
幸いバレなかったみたいで、2人はどこかに行った。
2人も誰かと来ていたのかな…。
あんまり海とかのイメージが無かったから意外だった。
「まぁ、会長達も海くらい来るか」
そう思い、納得した。
その後、夜まで働き俺達は業務を終了した。
「いや、本当にありがとう月城くん」
「いえ、全然問題ないです」
「はい、今日の分。給料っていうと正式な感じになるから、今日はこれで」
芦屋兄はいくらか俺に渡してくれた。
ありがたく、頂こう。
「ありがとうございます」
「明日も来てよー」
「玲奈さん、明日は人いるでしょ?」
芦屋が玲奈さんにまぁまぁとジェスチャーしながら答えていた。
海の家で1日だけとはいえ、人生初バイトだった。
そして新しい出会い。芦屋のお兄さんと、玲奈さん。
そして、幻じゃなければ生徒会長と副会長。
俺の初バイトは幕を閉じた。




