76.雪山遭難
俺は夏休みの大イベントを消化した。
海に行った日から数日経ち、既にお盆。
俺はリビングに大の字で寝転がってる。
「葵、俺はもうダメかもしれん」
「…知ってるよ」
「……それなら話が早い」
俺は大の字のまま、顔だけ葵に向ける。
「女子と海に行くのは4年に1回くらいじゃないと心が持たない」
「……」
オリンピックかよ!と言ってくれ。
俺は起き上がり、アイスでも食べようと冷凍庫を物色していると、両親が買い物から帰って来た。
「神奈川の夏は暑いなぁ…」
「愛知の方が暑かったわよ」
親父も母さんも帰ってきて早々、暑い暑いとしか言わなくなった。
「おかえり」
「相馬、起きたか」
俺は今日、昼前まで寝ていた。
夏休み最高。
「夏休み、結構遊んでるみたいだな」
「まぁね…ダメか?」
「いや、ダメってことじゃない」
なんか歯切れが悪いな。そう思い親父の話を聞いていた。
母さんは買ってきたものを、冷蔵庫にしまいながら話す。
「相馬は女の子と遊んでるらしいから、気が気じゃないんだってさ」
「いや、そんなんじゃないからな…本当に」
親父にも母さんにも、そんな心配をさせていたとは。
それを聞いていた葵も参戦する。
「さっきお兄は、女子と海に行くのは4年に1回くらいじゃないと心が持たないって言ってたよ」
「おい!」
「いや、オリンピックかよ」
親父…!ありがとう。
でも、そうじゃない。
「相馬、女子と海に行ったのか」
「あれ、女の子と行ったんだ。友達と行くって聞いてたからてっきり男の子だと思ってたわよ」
俺は母さんにだけは流石に伝えてあった。
まぁ、友達ではあるから嘘はついてない。
「葵はそういう人いないのか?」
俺は自分の話題から、葵に無理矢理持っていった。
「……」
無視…。
「まぁ、相馬。そのうち家にも呼んでいいからな」
「本当にそういうのじゃないから」
葵は俺の事をジト目で見てくるし、母さんはニコニコだし、親父は勘違いしてるし。
困った家族達だ。
お昼ご飯を母さんが作ってくれて、みんな揃って食べている。
普段帰りが遅い両親もお盆休みはあるみたいだった。
「休み、いつまで?」
葵が聞いていた。
「すまないな、明日までだ」
「っそ」
素っ気ないやりとりだった。
親父と葵はいつもこんな感じだ。
あんまり喋ってるのを聞かない。
父と娘、こんなもんなんだろう。
俺はちょっとだけ冷えた空気を変える。
「母さんはいつまで?」
「私は明後日まで、ごめんね」
「そうなんだ、忙しいんだね」
「祝日が休みなだけまだ、マシな方なんだけどね…」
社会人の怖さを両親から学ぶ事になるとは。
でも葵が親父に聞くって事は、旅行とか行きたいのかもしれないな。
「俺北海道旅行行きたいかもな」
「急には無理だ」
「今年の冬…か、来年…は葵の受験だから…それが終わった後とか?」
「考えておくよ」
場所はどこでもいい。
今後葵が行きたいところに変更すればいいし、また近くなったら俺が話題を出せばいい。
葵は一瞬俺を見たが、すぐ目を逸らした。
俺は部屋に戻り、ゲームをしようと電源を入れる。
コントローラーを持とうとした時、珍しくノックされた。
「はい!」
「お兄入るよ」
と返答と同時ぐらいで入ってこられた。
「それ、ノックの意味ないじゃん」
「ねぇ、今日の旅行のやつ何?」
「ん?俺が行きたいなって思ったから言っただけ」
「はぁ?絶対気使ったでしょ。私旅行なんて行きたくないし」
「じゃあ何がしたいんだよ」
「……別に、なにも」
「じゃあいいじゃん。俺は旅行がしたい。福岡もいいし、沖縄でもいい、長野とかでもいいかもな」
「あっそ、勝手にして」
妹は部屋を出ようとするが俺が止める。
「待て、言いたい事あるなら言ってくれ」
「無い!」
ドアを勢い良く開けて出ていく葵を目で追った。
俺はゲームをする気分じゃなくなってしまったので、今日は外出する事にした。
場所は……図書館。
図書館がいいかもな。
この間みたいにミステリー読む時間があってもいい。
俺は前に行った図書館へ向かう。
俺は入館し、ミステリーコーナーへ向かう。
記憶を頼りに俺は本棚を探す。
すると、見覚えのある人を見つけた。
常盤 栞。
常盤さんが図書館にいた。
俺は声を小さくして話しかける。
「常盤さん久しぶり」
「っ!」
図書館はお静かに。という流れでこっそり喋ったが怖がらせてしまったかもしれないと後悔した。
「来てたんだ。月城くん」
「ここ家から近くて、常盤さんもミステリ?」
「うん、この図書館本多いから、よく来る」
「そうなんだ。いたからビックリしたよ」
「いや…こっちがびっくりしたけど」
そりゃそうよね、本を探してる時にこっそり声かけられたんだもんな。
「ごめんね」
俺は手を振り、ミステリを探す。
前回は遺産相続系のやつを読んだから。
今回は雪山遭難系にしようと思い、手に取る。
「もう1個隣の方が面白い」
常盤さんが指を差して教えてくれた。
「じゃあそっちにしよう」
俺は手に取った本を戻して、常盤推薦の雪山遭難系に変更した。
「ありがとね」
俺は感謝を伝え、席についた。
話の内容はこうだ。
大学生グループ6人が雪山のコテージに宿泊。
貸切なので、それ以外には誰もいない。
吹雪で、外に出られず密室の中で事件は起きた。
そのうちの1人が死亡し、騒ぎとなる。
全員それぞれ因縁を抱えており、誰が犯人でもおかしくない。
そんな話だった。
こういうの実は第3者がいるとかってパターンが1番面白くないんだよな。
俺は頭で推理しながら読み進めていると、思った通り第3者の登場人物が登場。
しかし、その人も殺されてしまった。
…なるほど。面白くなってきた。
それから読み進めた。
結末としては犯人は2人いた。
1人は実行犯、もう1人は協力して証拠隠滅を図っていた。
しかしそれがわかった時には既に遅し。
2人以外の全員が殺されてしまうという、大事件で幕を閉じた。
いや、そんなのありかよ…。
話の本筋は面白かったが、後味が悪い感じがした。
好きな人は好きなんだろうし、読みやすかった。
俺は時計を見て、結構時間が経っていた事に気づく。
そろそろ帰ろう。
俺は本を返してから図書館を出ると、後ろから声をかけられた。
「月城くん、どうだった?」
「全部読んだよ」
「大丈夫だった?」
「うん?何が?」
「…結構人死ぬから」
「あぁ、まぁ確かに。後味は悪かったな」
「…ごめんね」
「いや、面白かったよ!」
常盤はお薦めした手前、面白かったかどうか気になるみたいだ。
「第3者がやってました。ってパターンが1番面白くないと思ってたし、実は犯人が2人いたっていうのもミソだな」
「うんうん」
「いい感じにミスリードを誘う。いい作品だったと思うぞ」
「よかった」
俺はまたな、と常盤に言って帰路についた。
図書館は程よく、静かで、誰かがいる。
という状況が心地いい。
最近そう思うようになってきた。
いや、まだ2回しか利用してないけど。
俺は家に帰ったら妹になんで声をかけよう。
そう思いながら歩く事にした。




