70.夏休み、少しだけ未来の話
次の日も同様に、見学会は無事終了する事ができた。
俺達は体育館で椅子の片付けをしている。
「橘会長、お疲れ様でした」
「月城くんもお疲れ様、ありがとね2日とも」
この2日間、俺は特に質問や話をする事はなかった。
でも、憂華は違う。
中学時代の後輩やそれ以外の生徒からも声をかけられており、大変そうだった。
それよりも2日間で意外…と言ったら失礼かもしれないが。
「佐藤先輩」
「ん…?」
「後輩に人気で良かったですね」
「……?」
佐藤先輩は結構後輩人気が高くて、色々聞かれていた。綺麗な先輩だし、寡黙ではあるけど、それが逆に中学生にとっては話しやすかったのかもしれないな。
よし、今日は疲れた。
俺が帰ろうとしていると、橘生徒会長が話しかけてきた。
「月城くんちょっといいかい」
「はい、なんでしょうか?」
体育館から、生徒会室へ移動し2人きりになる。
橘会長からは少し重い雰囲気を感じる。
「その、だな。」
俺は会長が話し出すまで待つ。
「私は文化祭が終われば、実質生徒会は終わりだ。」
「だから、君には」
「来年副会長をやってもらいたい」
いや、それは無茶だ。来年も生徒会をやる。
佐藤先輩と最後まで体育祭をやり切る。
そう約束もしたし、俺もやり切りたい。
だけど。
「理由は…なんでしょうか?」
もし、現在の1年から選ぶのであれば適任は憂華だ。
「生徒会長には、おそらくだが佐藤がなる。」
「濱田先輩にはならないと?」
「濱田は、生徒会長になったら月城を任命しないと言っている」
もちろん半ば冗談だろうけどね、と続けた。
「なるほど、冗談だとしても佐藤先輩が生徒会長選挙に出ないといけなくなったわけですね」
「そうだ。もし、佐藤がなったら」
「天沢より月城。君が適任だと思っている」
「……」
憂華でも上手くやれると思う。が。
「確かに…そうですね…。でも任命は佐藤先輩に権利があります。先輩がどう判断するか、じゃないですか?」
橘会長が頷く。
「もちろんそうだ」
会長は椅子から立ち上がる。
「覚悟……とまでは言わないけど、考えておいた方がいい。あと、冴島のやっている事なんかも見ておくといいぞ」
俺は会長に聞きたい事がある。
「会長は俺のことどう判断していますか?」
「ん?どう、とは?」
俺は考えながら、言葉を選ぶ。
「俺が、天沢より先に副会長になってもいいんですかね?」
橘は子供のような笑みを浮かべる。
「君はずっとそういうことを気にするね」
「私はクラスでの様子や、君たちの評判なんて知らないけど」
「副会長なら君が適任だよ」
なるほど、支える側。補佐。
俺にはやるだけの理由。やってみたいと思える気持ちが少し生まれた。
「わかりました。考えておきます」
「うん、期待してるよ。未来の副会長」
俺の肩に手を添えて、会長は生徒会室を後にした。
その後、体育館に戻ると憂華が声をかけてくる。
「相馬くん、お疲れ様」
「お疲れ、憂華」
「今日、結構疲れたね」
「俺はほとんど質問されなかったけどな」
「でも、ちゃんと案内してたじゃん」
「憂華は大変だっただろ。ずっと質問されてたし」
「うん。ちょっと大変だったかも」
「珍しいな。憂華が弱音吐くの」
「……私だって疲れるよ」
憂華はそのまま帰ろうとしている。
俺はどことなく、憂華がいつもより疲れている感じがした。
「なぁ、憂華」
「ん?」
「なんか飲み物買いに行こう」
俺の奢りで、と付け足して自販機に向かった。
1階の渡り廊下に設置された自販機。
夏休みでも、運動部が使っている為かスポーツドリンク系は売り切れだった。
「なんでもいいよ」
「いいの…?じゃあミルクティにする」
俺はコーヒーの微糖のやつを買い、封を開ける。
「いただきます」
「おう」
2人で渡り廊下の日陰に立ち、時間を共有する。
セミの鳴き声と、運動部の声が校舎を隔てたグラウンドから聞こえてくるのをBGMにし、俺は何を話すでもなくただ、遠くを見てた。
「……ねぇ、相馬くん」
「うん?」
「私は、仮面を使い分けてるの」
仮面?顔を隠す仮面のことか?
と思っていると、話を続ける憂華。
「人前に出る時とか、緊張する人と話す時とか、無意識にスイッチが押されたみたいに。仮面をかぶってしまうの」
「……でも!猫かぶってるとか、二重人格、とかそういう話じゃないからね?」
「その仮面……を使いすぎて疲れたのかも」
なるほど、昨日と今日は中学生にその親御さん。
憂華はかなりの人数と話していた。
しかも、いつでも見られている。という状態だ。
心が疲れないわけがない。
「誰だってあるよな、そういうの」
「……相馬くんにもあるの?」
「そりゃあるよ。キャッチャーの時なんて、自分を殺してたからな。感情を出したらダメ、動揺したらダメ、大差で負けてても腐っちゃダメとかさ」
俺は憂華を見ず、遠くの方を見ながら話を続ける。
「でも、それは試合が終わればスイッチが切れる」
「昨日と今日の憂華はずっと仮面つけっぱなしだったもんな、そりゃ疲れるさ」
「……相馬くん、私…どうしたらいいのかな」
俺は考える。
仮面、つまり外用の自分を使うこと。これ自体は悪いことじゃない。
でも、ずっと被り続けるのは疲れる。
「俺は最近、生徒会でもそうだけど、憂華と接するようになって色々助かってるんだぞ」
俺は続ける。
「でも、助けられすぎていたのかもしれないな」
「今度、疲れたら俺が変わる。俺が憂華と同じように仮面を被って肩代わりする」
「俺が疲れたら、その時は交代してくれ」
そのくらい。そのくらいしか、今の俺では憂華に返せるものがない。
「えへへ…」
憂華は少しだけ、目に涙を浮かべているが、見ないようにする。
「嬉しい…」
俺は憂華が落ち着くまで、また遠くを見る。
今はそばにいるだけでもいいはずだ。
青空に大きな入道雲が浮かんでいる。
その空を見上げて、俺達は飲み物を飲み干した。




