66.練習試合、その結末
俺はみんなの練習を見るようになり、今日でちょうど2週間。
つまり、練習試合が始まる。
場所は中学、第2グラウンド。
俺は家でユニフォームを着る。
「ちょっとブカブカか…?」
葵に確認してもらう。
「いいんじゃない?というか写真撮っていい?」
お好きにどうぞ。と言いポーズをキメる。
「……いや、普通にしてて」
今日は土曜ということもあって両親共家にいた。
「相馬のユニフォーム姿見るのすごい嬉しいわぁ」
「そうだな。俺も写真撮っちゃおうか」
と、母も父も感動している。そんな良いもんじゃないと思うけどな。
ちなみにこのユニフォームは、昨日岩本先生から
「明日はベンチに入ってほしい。おじさんのでよければユニフォーム貸すよ」
と言ってくれた為、着ることになった。
「葵は今日も見に来るのか?」
「うん、観客席から見てるよ」
「了解。勝てるといいな今日の試合」
「応援してる」
俺たちは荷物を持って、玄関に向かう。
「2人とも気をつけてね」
「行ってらっしゃい」
と、両親に見送られ出発する。
俺達が到着した頃には、1年生達はグラウンド整備や、ライン引きを行っていた。
俺は1年に挨拶をして、岩本先生が来るのを待つ。
「おはよ相馬」
「おう、おはよ彩葉」
「今日で終わりか… あっという間だったね」
「そうだな、あんまり教えたという実感ないけどな」
「ちゃんと出来てたよ。私見てたからね」
「ありがとう彩葉」
彩葉は俺に野球はやることだけじゃなく、見ることの楽しさや思い出させてくれた。
これに報いたいと、そう思う。
「おはよう相馬くん」
「おはようございます」
岩本先生が声をかけてくれる。
「今日はベンチ入り大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「でも、柳さんと、葵さんは流石に入れてあげらなれなくて。ごめんね」
後ろで聞いていた2人は「問題ないですよーー」と言っていた。
2人はなんだかんだで仲がいいし、安心だ。
「よし、じゃあ今日は頼むね相馬くん」
「はい!」
今日俺ができる事。やるべき事は最後までちゃんとみんなを見る事だ。
そう思い練習試合に臨む。
全員が集まり、敵チームも揃った。
岩本先生は、敵チームの監督と話をしに行った。
こちらのチームの様子はというと、
適度に緊張。でも試合前のわくわく感。
そんな所だろうか。
「相馬先輩」
優貴が不安と期待を両立させた顔で俺を見てきた。
「どうした?」
「勝てますかね…?」
「どうだろうね。前戦った時はどんな印象だった?」
「んー…」と、思い出しながら答えてくれる。
「打たれるけど、こっちは打てないみたいな感じでした」
なるほどね。投手の力比べみたいになっちゃってるのか。
中学野球は高校と違って、エースがいたら勝ててしまう。そんな展開も全然ある。
「そんな時は前半で勝負じゃなく、後半に目を向けるんだよ。前半で情報を奪う。そして後半で勝負するんだ」
「うっす!!そうですね!最後まで諦めないっすよ!」
「その息だ」
その後監督が戻ってきて、チームを集める。
打順を発表し、みんなに声をかけ、試合が始まる。
「プレイボール!」
俺は久しぶりに、この景色を見る。
みんなの背中は小さく感じるが、頼もしくもある。
「頑張れよ…みんな」
試合は0-0のまま続いている、ピンチにはなっているが、なんとか切り抜けている。
「マジで打てない…」
「球速すぎだろ…」
「今当たってるのって相沢だけか」
敵のピッチャーは球速が速く、なかなか苦戦しているみたいだ。ヒットを打てているのは5番相沢のみ。
「相馬くん」
「はい」
「君ならどう攻める?」
岩本先生はピッチャーを見ながら、俺に聞いてきた。
「そうですね…。みんな球速にはそろそろ慣れてきましたから、バントを多用しますかね」
「そうしてみようか」
岩本先生はサインを出し、バントを指示。
バント成功でランナーは2塁に進む。
そして、バッターは4番、柳優貴くん。
先生は柳を信じて、サインを出してない。
すると、柳はバントの構えをして、バントする。
4番のバンドは意表を突いたみたいで、無事成功。
2アウトランナー3塁。
バッターは5番相沢大和くん。
「彼の判断…ですか」
「がむしゃらな子だと思ってたんだけどね、考えてみたいだ」
「いけー大和!!」
「打てーー!」
相沢くんが打席に入り、ピッチャーを見る。
投球動作に入り、球を投げる。
バットを振る。
カキンッ!
と快音を響かせ、均衡を破った。
1-0。
「よっしゃー!ナイス!!大和!」
「ナイスバッティング!」
優貴は相沢くんを信じて、バント判断り
そして大和くんの選球眼で勝ち取った1点。
これはこのチームに取っての大きな1点。
そう感じることができた。
さて、最終回。この回を守れば勝ちだ。
さぁ、守ってこい!!
状況は、2アウト、ランナー2塁。
相沢が外角低めにグローブを構える。
…そうか、それがお前の判断か。
俺はベンチからグラウンドを見る。
打者が構える。
カキンッ!
打球は外野へ飛んでいく。
そして、柵の奥へと吸い込まれていった。
サヨナラ2ランホームラン。
試合は終わった。
結果は1-2。
試合が終わり、みんなの片付けが終わり、
ベンチに集合してきた。
「すいません!!相馬先輩!!」
「ごめんなさい打たれました…」
「悔しい…っす!!」
みんなが悔しそうに俺を囲む。
「2ランホームランは仕方ない。細かい事を言えば仕方なくないんだが…、でもよく頑張ったと思うぞ」
「相馬くんの言うとおりだ、このチームに課題はあるが、前回6点取られた相手だ。こちらは1点も取れなかった。」
成長をしているんだぞ、と岩本先生は続ける。
「そして、この2週間。相馬くんにはお世話になりました。最後に相馬くん、チームに一言お願いしていいかな」
俺は、何を話そうか。
俺が野球を通してみんなに教えたこと。
『考えてやる』
これはみんなもうできているはずだ。それなら俺が言う事は決まってる。
「みんな、まずは2週間見せてもらってありがとう。とても楽しかったです」
俺はお辞儀をする。
「今日は負けて悔しいだろうね、でもここからだよ」
「今日の反省会をみんなでも、それぞれ個人でやるでもいい。絶対にやるんだよ。これは勝っても同じだ」
「そして、楽しむ事を忘れないようにね。辛い時も勝った時の事を思い出すんだ。そして、大会で優勝する姿をみんなで想像する」
「今日みたいに負けることもある。上手くいかないこともある」
「それでも、次はどうするかを考える。それを忘れないでほしい」
俺は、最後の挨拶をしたと同時に、練習試合。もとい、俺の2週間の野球が幕を閉じた。
俺が帰る準備をしていると、柳姉弟と葵が近づいてきた。
「お疲れ相馬」
「おう、負けちゃったな…」
彩葉は首を振る。
「めっちゃいい試合だった」
隣にいる優貴くんも頷く。
「本当にありがとうございました!コーチ引き受けてくれて」
「いや、少しでも力になれたならよかったよ」
と優貴くんと握手をし、また見に来るよ。と伝え、帰ることにした。
俺は葵と駅まで歩く。
「負けたぁ…めっちゃ悔しいわ」
「でも、いい試合だったよ」
「いや、ダメだ… 俺が頭で反省会しちまう…」
もっと動いてれば、サインプレーするタイミングや、配球。全部考えてしまう。
「…ふふ」
「…何笑ってんだ」
葵はくすくす笑いながら、
「1番悔しそうなのお兄だよ?」
「そりゃそうだろ…勝たないと意味ない」
けど、
「まぁ、勝つよりも意味のある負けだったかもしれないね」
俺は人を教えて初めて気づく。
負ける経験も悪くない。
むしろ成長する、いいきっかけになる。
俺も失敗や苦戦していいんだ。
その経験が未来の俺を強くするはず。
「お兄、今日はラーメンが食べたい」
「いいね!食べて帰ろ」
兄と妹は2人で笑いながら、話をする。
昔に戻ったような感覚を覚えながら、2人で一緒にラーメンを食べて帰ることにした。




