64.見えてきたもの
俺が練習を見始めてから数日。
今日も葵と、彩葉は来てくれていた。
岩本先生にノックを任されるようになり、俺はバットを握り久しぶりに球を打つ。
いろんな方向に打ち分け、選手達の動きを見る。
俺はこの数日で、なんとなく課題が見えてきた。
守備位置、サインプレー、打撃。
この辺りは悪くない。
というよりかなり良い感じだ。
でも。
俺はみんなを集め、また話をする。
「みんなに一個聞いていい?」
相馬がみんなを見る。
「9回裏。ノーアウト、ランナー2塁。1点取られたら負け。バッターは3番。みんなならどうする?」
「長打狙います」
「うん。ありだね」
「俺はバント」
「それもあり」
「じゃあ逆に、守備はどうする?」
少し考えてから、相沢が答える。
「……俺なら、バント警戒します。外野も前に出します」
「その理由は?」
「どのみち外野に飛んだら負けだから。だったら、1点を絶対に取らせない方を優先します」
「なるほど」
俺はみんなを見る。
「じゃあ、それでいこうか」
「え?いいんですか?」
「相沢がそう判断したなら、それを全員でやる。途中で『やっぱ違うかも』って思っても、自分たちで決めたことをやってみる」
「でも、間違ってたら……」
「間違ってるかもしれないな」
俺は笑う。
「だから野球は面白くて、怖いんだと思う」
「大事なのは、考えずに誰かの言ったことをやるんじゃなくて、自分たちで考えて決めること」
「練習も同じ。試合でどうするかを考えながらやってみて」
俺はもう一度みんなを見て、確認する。
「この判断に異論ある人いる?」
と周りを確認する。
全員が首を振り、同じ気持ちなのを確認する。
「相沢くん。厳しい事をいうみたいだけど、その判断をした君に責任がある」
「外れてもいい。でも、自分で決めたならその判断と、チームメイトを信じて最後までやってみて」
「はい!」
俺はグラウンドに戻っていくみんなを目で追う。
2週間しかいない俺から、1個でも何か得ようとしている。そんな感じがする。
岩本先生から声をかけられる。
「なかなか、手厳しいんだね相馬くんは」
「…まずかったですか?」
俺は少し申し訳なく思う。
「いやいや、そうじゃなくて。年々教師というのは思ってる事が言えなくなるもんなんだよ」
しがらみってやつだよ。と補足する。
「だから、君の意見は眩しい。自分までチームの一員だった事を思い出すよ」
と、岩本先生は帽子を被り直していた。
練習が終わり、岩本先生の周りにみんなが集まる。
「来週の練習試合だがーー」
約束の2週間。その最終日に練習試合をするとの事だった。
相手は俺が始めて優貴くんと出会った日に負けたチーム。印象はザ強豪校という雰囲気だった。
「お疲れー!」
「お疲れっしたー!」
とみんなに見送られ、俺は葵と一緒に帰る。
「なぁ、葵。本当に練習見て面白いか?」
試合じゃなく練習見ても、そんなに面白くないだろ…。と、俺は思っている。
「お兄は、今日言ってた事みたいなのを考えながら野球してたの?ずっと」
今日って…相手が何するかってやつか。
「そりゃ、考えてたな」
「毎回?」
「まぁ、毎回…というか、全員?」
葵はそのまま黙って歩いていた。
なんか変な事言ったかな…。葵はなんとなく言葉が少ない感じがして、俺でも真意が掴めない時がある。
「…ちゃんと、葵の事も考えてるぞ?」
「いや、そういうのじゃないから」
違ったらしい。
「マジで…すごいじゃん」
「え?」
「お兄は色々考えて、責任抱えて、いつも監督に怒られてて。ずっと頑張ってたのに……」
その先を葵は言わなかった。
流石の俺でもわかる。気を遣われた。中学で肩を壊さなければ今も続けていただろうな。
でもこれだけは葵に言いたい。
「俺は野球を辞めた事をもう気にしてないよ。そりゃ今も続けてたらとかさ、過去の話をするのはすごい嫌だったりするよ」
「いい経験だったよ。俺にとっての野球は」
だから、葵も気にしないでほしい。
「俺はもう、落ち込んでない」
むしろ、
「今、コーチができて楽しいぞ」
それだけを伝え、2人で一緒に家に帰った。




