62.また明日
その日の練習は終了になった。
俺はキャッチャーの子に近づく。
「相沢くん?だよね」
「はい!そうです」
相沢 大和
優貴くんと同じ2年生で正捕手だ。
「キャッチャーミット見せてもらっていい?」
綺麗なグローブだ。ちゃんと手入れもされている。
懐かしい…。
「……?なにかありました?」
「ああ、いや、そういうのじゃなくて。懐かしいなって思ってさ」
「キャッチャーだったんですよね、俺知ってますよ伝説」
「いや、伝説ってほどじゃないだろ」
「同世代で知らない人いないと思いますよ…。確か、新聞とか出てましたよね?」
確かにあったな…そんなん。
当時は全然興味がなかったけど、インタビューとかされた気がする。
「そうか…。でも今とその時は違うからな」
「わかってます。俺の方が上手くなりますよ」
「いいね…楽しみにしてる」
そんな雑談をしていると、みんなが声をかけてくれる。
「相馬先輩ありがとうございました!」
「明日も来るから、よろしくね」
「相沢くんも今日はありがとうね」
「いえ、思ったことあったらどんどん言ってください」
と言い、離れていった。
続いて、柳に声をかける。
「柳!」
「はい!」
「なに?」
2人振り向いてしまった。
「ごめん、姉の方」
優貴君は照れくさそうにしていた。
「やな…いや、彩葉…さん」
柳がブルブルと身震いの真似をした。
「いや、さん付け鳥肌なんだけど」
「じゃあ彩葉」
「……はい」
「明日は別に無理して来なくても大丈夫だからな」
「ん!なんでよ」
「俺に頼んだ義理があって来てるなら、そういうのは気にしなくていいって思ってさ」
彩葉は腕を組んで言う。
「いや、別にそういうのじゃないし!」
「そうか?」
「私も見たいんだもん」
「それならいいけど、でも本当に気にしないでくれよ」
わかってるよ!と言いながら帰り支度をしていた。
やりとりを見ていた岩本先生が声をかけてくる。
「今日ありがとうね相馬君」
「いえ、本当に気にしないでください」
「僕は歳も歳だし、ノックとかは僕が見てるから明日からやってもらっても構わないんだけど」
と言ってきた。
「ノックですか?やっていいんですかね?」
岩本先生は笑いながら答える。
「僕が見てる時なら大丈夫だよ。いない時はやめておこうか」
それなら安心だ。
俺も気兼ねなく打てるし、もしものとかは先生がいてくれるしな。
「わかりました、明日のノックは俺がやります」
助かるよ。と感謝されてしまった。
先生は、聞いていいのか迷っていたが、と続けて
「投げるのは厳しいんだよね?」
と聞かれる。一応優貴君から説明はしてもらっているらしいが、説明してなかった。
「はい、普通に肩を動かす分には問題ないんですけど、本気で投げる事はできません」
「わかったよ。それは全員に伝えてもいいんだよね?」
「もちろん大丈夫です。俺の方こそ報告遅れてすみません」
というやりとりをして、岩本先生は職員室に向かっていった。
俺達も帰るか。
「葵、大丈夫か?」
「何が?」
「いや、暑かっただろ…」
「スポドリ持ってきてるし、ベンチだし、平気」
「そっか。葵も明日は無理しなくてーー」
「来る」
葵の真剣な表情を見て、それ以上何も言わなかった。
それは好きな人とかそういうのじゃなく、ただ真面目に。
野球をしている、俺を。




