57.【EX】妹の体育祭
『ピッチャー第1球を投げました』
カキン!
『ホームラン!入りました』
蝉の鳴く声が聞こえる中、俺は野球をしている。
「お兄どいて」
俺は画面から目を離さず、ソファから起き上がる。
「悪い」
夏休みの俺はリビングで、携帯ゲーム機で野球ゲームをしながらゴロゴロして怠惰を貪る。
「やっぱりエアコンの効いた部屋でゴロゴロは最高だな」
そう妹に話しかけたが、返答は返って来なかった。
俺は夏休みがきたという嬉しさ。
休みという貴重な体験を享受する。
そんな、夏休みに入る少し前の話。
妹の体育祭を見に行った時の話だ。
妹の体育祭は、俺の高校の体育祭の1週間後。
妹の頑張っている姿を見たい。というのもあるが、転校してきた妹が、学校に馴染めているかも気になる。
もし、いじめでもあってたならお兄ちゃんはお兄ちゃんではなくなってしまうかもしれない。
そんな事を考えながら、俺は妹を撮るためのカメラを準備し、着ていく服をどれにしようか悩んでいた。
「う、うーん…」
妹に確認してみよう。
「今日俺、どんな格好で行けばいいと思う?」
「普通で来て。……というか来ないで」
と言われた。
よし、普通にしよう。
準備ができたところで親父から声をかけられる。
「そろそろ行くぞ相馬」
「ん!今行く」
大きなバックを持った親父と、日差し対策をしている母さん。そして、大きくはないが一眼のカメラを持参する俺。
今日は両親共揃っているので、一緒に妹の学校へ向かう。
駅を降りて、少し歩くと妹の中学が見えてくる。
「おぉ、ここが葵の中学か」
俺は神奈川に引っ越して中学の校舎を見るのは初めてだ。
前に、優貴くんの試合を見た第2グラウンドからは少し距離がある。
新鮮さを感じながら校門をくぐる。
受付で、葵の家族である事を伝え、入場し、
俺達は観覧席を目指す。
「相馬、普段葵から学校での事とか聞いてるか?」
親父から話しかけられる。
「いや、特には聞いてないよ。」
「どうなんだろうな。学校生活」
「いや、俺に聞かれてもな…。でも普通にやってるみたいだよ」
「そうか」
普段、帰りが遅かったりする分、あまり会話をする事は多くないだろうな。
というより、年頃のJCが父親と話す事は少ないと思う。
「まぁ、何も言わないってことは上手くやってるわよ」
と、母さんがフォローしている。
俺達が観覧席に着いた時、親御さん達はかなり集まっていた。
その中で見覚えのある顔を見つける。
「相馬じゃん!!」
「おう、柳。来てたんだな」
柳と、そのご家族らしい人達が周りにいた。
紹介しろ。という圧を両親から感じながら、柳を紹介する。
「こちら、柳彩葉さん。高校の同級生で同じクラスです」
こちらは両親です。
なんてやりとりをする。
すると、柳のお父さんが丁寧に挨拶を返してくれた。
「いつも彩葉が迷惑をかけてるでしょう。相馬くん」
「いえ、そんな事ないですよ。彩葉さんにはお世話になっております」
ハッハッハッと笑い、
「彩葉が世話になってる方だと思うので、まぁ、仲良くしてやってください」
と、肩を優しく叩かれた。
柳はというと、なんともむず痒そうな顔をしていた。
いや、わかる。なんかこういうの恥ずかしいよな。
俺達は、柳家のご厚意で、隣にスペースを作ってもらった。
「柳も見に来てたんだな」
「当たり前じゃん…。結構盛り上がるんだよ?この体育祭」
教師陣営や学校が力を入れているらしく、結構しっかりと体育祭するらしい。
俺は柳が青色の鉢巻をギュッと結ぶ所を見る。
「まぁ頑張ろうなお互い」
俺は赤色の鉢巻を結ぶ。
「まさか、相馬…敵か!?」
葵と優貴は別クラスだから、敵同士なのだ。
俺たちはお互いにグータッチをして、開会式を待った。
開会式が終わり、競技が始まる。
両親は、俺のカメラやスマホで、写真を撮ったり、動画を撮ったりしている。
「がんばれー!葵ー!」
「っしゃ!いけー!優貴!」
俺達は、それぞれの妹と弟に応援をする。
葵は競技をしながら、友達と話をしたりしている。
どうやら、学校にはちゃんと馴染めているみたいだ。
ちらっと親父を見る。
さっきより、葵を見る親父の表情が少しだけ柔らかい。
まぁ、心配してたんだろうな。
『続いては、借り物競争です』
というアナウンスの後、選手達が整列していく。
その中に葵の姿があった。
「優貴頑張れよ…」
という柳の呟きで、優貴くんもいたことに気づく。
パン!とピストルが鳴った後、葵と優貴くんが走り出し、借り物が書かれた紙を確認する。
優貴くんは、確認した後、すぐにこちら側に向かってくる。
葵はというと、少し迷ってから、こちらに向かってきた。
「ッ!姉貴来てくれ!!」
息を切らせながら優貴くんが、柳の手を引いて走り出す。
「わ、わかった!ちょっ…」
と言いながら柳はドタドタと走り出していく。
その後、葵が俺に近づいてきた。
「っ…!お兄!!」
俺は葵に腕を掴まれ、引きずり出される。
「お、俺か!」
無理矢理グラウンドに引きずり出され、俺は葵と一緒に走り出す。
準備運動とかはしてないけど、俺の方が速い。
勝つためには俺が引っ張っていくしかない。
そう思い、葵の手を握り、走る。
俺はいつぶりだろうか。葵と手を繋ぐのは。
幼稚園?小学生?そんな事を思いながら、一緒に走り、ゴールテープを切る。
「はぁ、はぁ…はぁ…」
結果は…
2位だった。
柳達は既にゴールしていたみたいだ…。
「姉貴ッ…!1位ナイス!…」
「まかせてよ…!」
と息を切らす柳姉弟の2人を見る。
「優貴…なんて書いてあったん?」
と柳が優貴に聞いているが、答えようとしない。
「ええと…」
困っている優貴の紙を、ひょいと取り上げる柳。
「あ!」
『1番声の大きい人』
「なんでこれ私なの…」
そういうお題もあるのか。
俺は葵に確認する。
「俺のはなんだったんだよ…」
「……」
葵はそそくさと紙を運営に渡し、運営の人と俺は目が合う。
「……内緒」
「え?」
「…でも、走ってくれてありがと」
俺はそう言われ、解放された。
きっと、自分より背の高い人。とか、だろうな。と勝手に結論づけた。
ーーーーーー
ピストルが鳴って私は走り出す。
紙を確認する。
「……まじで」
私は咄嗟に脳内で1人の人物を想像して、いるかどうかを確認すると同時に、走り出す。
その人の驚いた顔を見ながら、声を出す。
「っ…!お兄!!」
説明してる暇はないので、腕を掴んで走らせる。
私より足の速いお兄は、私の手を掴んで引っ張る。
「…っ!速っ!」
私は必死に、足を動かして追いつく。
既に優貴達がゴールしていたので、私達は2位だった。
「俺のはなんだったんだよ…」
とお兄に聞かれるが、私はすぐに係の子に紙を渡して確認してもらう。
私が貰ったのはーー
『 』
こんなのをお兄には見せられない。
その後、私たちは打ち上げという名のお疲れ様会がファミレスであった。
「いやー、疲れたね葵ちゃん」
「大変だった…」
「で、で、借り物競争の時の彼は彼氏??」
「いや…んなわけない。お兄」
「え!めっちゃイケメンじゃん」
「すごいかっこよかったね!手を引いて…騎士様!みたいな」
「本当にやめて… 全然そんなんじゃないよ」
「あれ、なんて書いてあったの?」
「…」
私はなんで答えようか咄嗟に考える。
「…ラーメンが好きな人って書いてあった」
「そんなピンポイントなお題あったんだ…」
なんて話で誤魔化した。
正直に言うのは恥ずかしすぎる。
だって、
私が実際手にしたのは。
『憧れてる人』
だったから。
そんなお兄も今は夏休み。
家で空気の抜けた風船みたいにゲームをやってる。
「ねぇお兄」
「ん?」
「野球好き?」
「変な質問するね 好きだよ」
「そっか」
私の憧れは、野球をしていた兄。
また、お兄が野球をやる姿が見たい。
けど、もうそんな機会はないんだ。
と思っていた。




