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普通の高校生の、特別な日常  作者: しゃー
1章 一学期編
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52/105

52.少しだけ、先輩を知る

俺は、ベッドに座りながらスマホを眺めている。


佐藤先輩と表示されたトーク画面に、なんて送ろうか考える。


天沢に、

『佐藤先輩って駅近くの猫カフェ行ったことあるのかな?相馬くん誘ったら?』


と言われ、少し良いかもなと思ってしまった。


猫のキーホルダーを見た時、猫カフェに行きたいと言っていた。


言っていたから、誘うだけなんだ。

俺は自分にそう言い聞かせて、文字を打つ。


『土曜日、駅近くの猫カフェ行きませんか?』


送信。


既読。


普段なら、既読がついてから数分後に返ってくる。


しかし今回は違った。


すぐに返信が来る。


『行く』


短い一文。そして、


『11時に予約していい?』


「……早」


思わず声が出た。


俺は少し笑いながら、


『じゃあお願いします』


と返した。


それだけのやりとり。


なのに、妙に楽しみになっている自分がいた。




そして土曜日。

猫カフェ近くの駅で待ち合わせだ。


時間より少し早く着いたつもりだった。


……が。


すでに佐藤先輩がいた。


「……いや、いつからいたんだ」


俺も時間より前に来ている。

それなのに先輩は、もっと前からいたように見える。


俺は少し駆け足で近づいた。


「すいません、お待たせしました」


「ううん。今来たところ」


絶対嘘だ。


楽しみすぎて、早く来て待っていたに違いない。


俺は私服姿の佐藤先輩に新鮮味を覚え、見てしまう。

今日の先輩は、いつもより少し違って見える。


白のブラウスに黒のロングスカート。


別に正装というわけではない。


けれど、普段からの立ち振る舞いもあって、なんとなくそう感じる。


「行こう」


「はい」


先輩が歩き出す。


……いや、先輩。歩くのが早い。

そんなに急いでも猫カフェは逃げないですよ。


俺は歩きながら、猫カフェのシステムについて聞いた。


俺は猫カフェに来るのが初めてなのだ。


先輩は慣れた様子で説明してくれた。


時間制であること。

猫を追いかけ回してはいけないこと。

触る時も猫の様子を見ながらにすること。


そして最後に、


「存分に愛でる」


と締めくくった。


……そこだけ妙に力が入っていた。



話をしながら歩いていると、いつの間にか猫カフェへ到着。


受付を済ませ、少し順番を待つ。

その間も、先輩は店内の様子をちらちら見ている。


表情はいつも通り。


……いや。


ほんの少しだけ、頬が緩んでいる気がする。

楽しみなんだろうな。


やがて俺たちの入場時間になった。


扉を開ける。


猫。


猫。


猫。


猫だらけだった。


走り回っている猫。

高いところからこちらを見ている猫。

丸くなって寝ている猫。

我関せずという顔で毛づくろいをしている猫。


「……すごいな」


思わず呟く。


普段、猫を見る事はあれど、たくさんの猫が一箇所にいる光景というのはあまり見る事がない。


隣を見ると、佐藤先輩はすでに猫を目で追っていた。


「……かわいい」


「ええ、可愛いです」


「よかった」


「はい」


俺も目の前の猫を見る。

先輩は1匹の猫に近づき、そっと撫でる。


「先輩、猫カフェどのくらい来るんですか?」


先輩は少し考えてから答えた。


「んー…月1は来るよ」


「結構来てますね」


「……猫を見てると、落ち着くから」


「そうですね。初めて来ましたが、気持ちわかります」


俺も目の前の猫を撫でる。


柔らかい。

温かい。

……癒やされる。


先輩を見ると、いつもの無表情に近い顔ではあるものの、ほんの少しだけ口元が緩んでいる。


やっぱり、猫が好きなんだな。


しばらく俺たちは、猫を撫でたり眺めたりして過ごした。


先輩も無理に話そうとはしない。


ただ、猫が動けば一緒に目で追う。


そんな時間だった。



やがて、先輩の膝の上に猫が乗ろうとしている。


先輩が登りやすいように足を揃え、猫がジャンプして乗っかる。


「……いいなぁ」


俺は思わず呟く。


「月城くんも抱いてみる?」


「いいんですか?」


「うん」


先輩が猫をそっと持ち上げ、俺の方へ渡してくれる。


「こう」


「おお……」


俺の膝に猫が乗る。


「……かわいい」


「でしょう」


先輩が少し笑った。


……やっぱり。


猫の話になると、先輩は分かりやすい。

普段とのギャップがすごい。


しばらく猫を撫でていると、先輩がぽつりと言った。


「また来たい」


「え?」


「ここ」


先輩が店内を見渡す。


「また、一緒に」


俺は嬉しくなった。


「……はい」


素直に頷いた。


その直後。


膝の上の猫が、


「にゃあ」


と鳴いた。


俺と先輩は顔を見合わせる。


「……今の、返事ですかね」


「『また来いよー』って言ったかもね」


先輩が笑った。


俺はその笑顔を見て、


来てよかったな。


と、素直に思った。



しばらくして、利用時間が終わる。


猫たちに別れを告げて、俺たちは店を出た。


外に出ると、昼の駅前は相変わらず人が多い。


「……お昼、どうします?」


と俺が聞くと、先輩は少し考えてから答える。


「なにか食べよっか」


「先輩好きなものってなんですか?」


「……オムライス」


「いいですね、この近くに洋食レストランあるみたいで、そこにしましょっか」


俺は事前に調べており、洋食、和食、中華、ファミレスくらいの選択肢は出せるようにしてあった。


「調べてたの?」


「まぁ、一応…ですけど」


いや準備していたみたいでちょっとキモいか?なんて考えていたら。


「ありがとう。嬉しい」


と返ってきた。


いや、結構恥ずかしい。



俺たちは洋食レストランへ向かった。

カランコロン。と音が鳴る扉を開け、案内された席に着く。


先輩は、デミソースオムライス。

俺は定番のチキンオムライスにした。


オムライスが届くまでの間、ふと先輩が口を開く。


「月城くん」


「はい?」


「今日はなんで誘ってくれたの?」


俺はなんで返そうか、少し考えてから答える。



「先輩は生徒会の会計。最初はそれだけでした」


先輩は何も言わず俺の話を聞いている。


「体育祭準備で先輩はたくさん俺に教えてくれました」


「体育祭当日も、頑張ってた」



「俺は、先輩に何も返せてない。」


「支えてもらってばかりでした。」


「なので、せめて猫カフェで楽しんでもらいたい。そう思ったから誘いました。」


先輩は黙って話を聞いた後、笑顔になって答えた。


「月城くんに支えてもらってばかりだったよ?」


「え?」


「私、体育祭で熱中症になった時、代わりにやってくれたの月城くんだし…。準備中だって、私の隣でずっとフォローしてくれたから」


「すごく助かったよ」


「こちらこそありがとうね。君じゃなかったらきっと上手くいかなかった。」


俺は佐藤先輩から感謝されるような事は、何一つしていない。そう思っていた。


でも、少しだけでもフォローできていたのならよかった。そう思った。


ちょうどその時、2人のオムライスが到着した。


「食べましょっか」


「そうですね」


猫カフェだけの予定だったはずなのに。

気づけば、昼ごはんも一緒に食べている。


俺は佐藤先輩の事を少しずつでも知れた。

真面目で、冷静。でも猫が好き。


俺が生徒会に入らなければ、佐藤先輩の事を知る事はなかっただろう。


そういう巡り合わせに俺は嬉しく思った。

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