40.何気ない生徒会
月曜日の放課後。
俺はいつものように生徒会室へ向かった。
「失礼します」
扉を開けて中に入る。
……ん?なんだ?
橘生徒会長から、妙な視線を感じる。
こう……試されているというか。
何かを伺われているような。
俺が何かしたか?
思い当たる節がない。
「…………」
「…………」
しばらく見つめられる。
俺が首を傾げると、橘先輩は何事もなかったかのように副会長と話し始めた。
「だから、あの件は――」
「……なるほど」
……なんだったんだ?
まぁ、いいか。
俺は自分の席へ向かった。
しばらくして、佐藤先輩が資料を持ってやってくる。
「月城くん」
「はい」
「体育祭の枠組みができたから、ここからタイムスケジュールを組む。それと物の配置、数量の確認」
「了解です」
「ここから少し忙しくなるけど、大丈夫?」
「大丈夫です」
俺はそう答えて、カバンを机の横に置いた。
その時だった。
「……」
佐藤先輩が俺のカバンを見ている。
正確には――
カバンについているものを。
「……猫」
「え?」
「猫」
「あぁ」
俺はカバンについている猫のキーホルダーを見る。
この間、買ったものだ。
天沢が勧めてきたのがきっかけで買う事になった。
結局、気に入ってカバンにつけている。
「この間買ったやつです」
俺はカバンを少し持ち上げ、佐藤先輩の方へ近づける。
すると――
「待て!」
橘先輩が突然叫んだ。
「え?」
「佐藤は猫を見ると集中力が落ちる!」
「……」
「今から忙しくなるって言ったばかりだろう!?」
「……猫」
佐藤先輩は聞いていない。
俺のカバンについている猫を、
ツン。
ツン。
と指でつついている。
「…………」
「佐藤先輩?」
「……かわいい」
完全に仕事を忘れている。
その姿を見ていると、天沢が声を上げた。
「あ、それこの間一緒に見たやつじゃん」
「……」
空気が止まった。
そして。
「……一緒に?」
「……」
「……一緒に見た?」
生徒会室の視線が、一斉に俺と天沢へ向く。
「違います!」
俺は思わず即答した。
「いや、そういう意味じゃなくて…!」
「デート?」
「違います!」
「デートしたの?」
「してないです!」
必死に否定する俺。
すると、なぜか橘先輩だけが、
「……違わないんじゃないか?」
と、やたら真剣な顔で言ってくる。
「違いますよ……!」
「本当に?」
「本当です!」
「…………」
「…………」
橘先輩の目が怖い。
何を疑ってるんだこの人。
その時。
パンッ!
副会長が一度だけ手を叩いた。
「1回、戻ろう」
全員が副会長を見る。
「体育祭の準備をしないと」
「……そうですね」
「……うん」
「はい」
ようやく全員が現実に戻ってきた。
佐藤先輩も名残惜しそうに猫のキーホルダーを見つめる。
そして、
「……」
そっと撫でた。
「…………」
それからようやく資料へ目を戻す。
俺はその様子を見ていた。
……なんだろう。
急に。
猫を愛でている佐藤先輩を、もっと見たくなった。
普段は無表情に近い人だからこそ、こういう時の差が大きく感じる。
「佐藤先輩」
「……?」
「今度、猫カフェとか行きます?」
「……」
佐藤先輩の目が輝いた。
「行きたい」
即答だった。
「じゃあ――」
「月城くん」
低い声が聞こえた。
「……はい?」
振り向くとそこには、ものすごい鬼の形相でこちらを見る橘先輩がいた。
「…………」
「…………」
「よし」
橘先輩が立ち上がった。
「タイムスケジュール組むぞ!!」
「はい!!」
なぜか俺まで背筋が伸びた。
佐藤先輩はというと――
「……猫カフェ」
小さく呟いていた。
その横顔は、少しだけ嬉しそうだった。




