35.副会長と密談?
その日は、体育祭とは別の仕事をしていた。
学校全体の運営に関わる予定。
これからの行事や活動の日程を整理して、その段取りを考える。
なぜか副会長から指名された。
「月城、これをやってくれ」
「…俺ですか?」
「佐藤には許可を取ってある。頼めるか?」
「それなら大丈夫です」
「よし」
副会長は小脇に過去の資料を抱え込んでおり、隣の会議室で作業するため移動した。
資料を広げ、今年度の予定を確認する。
「月城も、副会長になるなら作り方は覚えておけ」
「いや、俺、副会長とかそういう役職はごめんですよ?」
思わず即答する。
「む……そうなのか?」
「はい。できれば平社員のままがいいです」
「橘は、ああ言っていたが……やはり嫌か?」
「嫌ですね……」
「そうか……」
それだけ。
……なんなんだよ、この人。
話の要点がどこにあるのか、たまに分からない。
俺に要職についてほしい気持ちなのか、ただ落胆しているのか…。
でも、仕事の説明は分かりやすい。
人との会話だけ、ちょっと独特なのだ。
俺たちは今年度の大まかな予定を確認し、期間を決めていく。
最終的には教師に提出する。
そこで修正されることもある為、そこまで重い仕事ではない。
そうやって黙々と作業していると。
「そういえば」
副会長が口を開いた。
「最近、生徒会で佐藤がよく笑うようになったな」
「……そうですか?」
思い当たる節がない。
俺の中では、佐藤先輩はいつも通りだ。
そもそも、
あっはっはっは!
なんて笑っているところを見たことがない。
せいぜい、少し口元が緩むくらいだ。
「佐藤は1年の時も生徒会だった」
「そうなんですか」
「ああ。俺が会計で、その時の補佐が佐藤だった」
「へえ……」
意外だった。
「その頃は、全然笑わなかった」
「今もそんなに笑ってないですよ?」
「仕事を全うする。それだけという感じだった」
副会長は淡々と話す。
「佐藤は今の方が楽しそうだ」
「……生徒会の仕事に慣れてきたんじゃないですか?」
俺がそう答えると。
「いや」
副会長は少し考えてから言った。
「それもあるだろうが……楽しいんだろう。お前とが」
「……」
その言葉を聞いて、なんとなく嬉しくなった。
佐藤先輩が楽しいと思ってくれているなら。
それは、俺としても嬉しい。
「月城みたいなやつが補佐していると、仕事もしやすいだろうし」
「いやいやそんなことは」
「喋りやすいと思う」
「俺だけのおかげってことはないですよ」
少し笑いながら返す。
「第一、俺と喋ってる時、全然笑わないですし」
すると、副会長が怪訝そうな顔をした。
「……何を言ってるんだ」
「え?」
「お前と話してる時が1番笑ってるじゃないか」
「……」
俺は固まった。
「……笑ってます?」
「笑ってる」
「……そうですか?」
全く分からなかった。
副会長は少し呆れたように俺を見る。
俺は考えてから言葉を続けた。
「まぁ…副会長が1年の時に佐藤先輩に教えてたみたいに、佐藤先輩も俺に教えたいんじゃないですかね」
「……」
「それなら、そういう環境を作ってくれたのは副会長のおかげだと思いますよ」
副会長が、ほんの少しだけ目を細めた。
「……嬉しいこと言ってくれるね」
「本当のことですから」
それで話は終わった。
俺たちは残りの仕事を片付け、その日の生徒会活動を終えた。
会議室から出る。
すると、ちょうど同じタイミングで佐藤先輩も生徒会室から出てきた。
「あ」
「……月城くん」
「すいません。今日は体育祭のこと、できなくて」
「別に、大丈夫」
「そうですか」
「うん」
それだけ。
たったそれだけの会話だった。
でも。
「……」
なんとなく。
最初の頃より、柔らかくなった気がする。
表情も、声も。
ほんの少しだけ。
「多分だけど……」
俺はそう呟いて、生徒会室を後にした。




