34.生徒会活動!
それから俺は、生徒会の仕事をするようになった。
もちろん、放課後の予定が全部生徒会で埋まったわけじゃない。
ただ、生徒会のある日に限って声をかけてくる人達もいる。
「おい! 相馬! 遊べよ!」
柳が俺の机にやってきた。
「いや、生徒会あるから」
「じゃあ終わってから!」
「…明日じゃダメか?」
「ダメ!」
即答だった。
いや、なんでだよ。
「月城くーん」
今度は楠木。
「ラーメン行かない?」
「今日は生徒会」
「私の奢りだよ〜?」
「……」
一瞬、心が揺れた。
「明日なら!」
「今日!」
「なんで生徒会の日に誘ってくるんだよ……」
「だって今日なら断らないかなって」
「逆だよ」
そんなこんなをやりながら、俺は少しずつ生徒会の仕事を覚えていった。
天沢は山村書紀と一緒に、体育祭の原稿や進行の流れを作っている。
俺と佐藤先輩は、体育祭の大枠が決まってからタイムスケジュールを詰めることになるので、今は備品管理が中心だった。
グラウンドにある体育倉庫へ行き、必要なものを確認する。
カラーコーン、テント、綱引きの綱。
その他、体育祭で使う道具。
例えば綱引きの綱が切れていたら発注。
もし本番までに間に合わなければ、他校へ連絡して借りられないか確認する。
それも無理なら、先生に相談。
発注も俺たちが勝手に注文するわけじゃない。
購入伺いのような書類を作り、先生に承認してもらう。承認されれば、そこから発注。
「生徒だけで勝手にお金を動かさないようになってるんですね」
俺がそう言うと、佐藤先輩は頷いた。
「そう。私たちが管理するけど、最終的には先生が確認する」
「なるほど」
「無理そうなら、早めに報告すればいい。生徒会だけで抱え込む必要はないから」
「結構仕組みがしっかりしてるんですね」
「うん」
淡々と答える佐藤先輩。
やっていること自体は面白い。
自分たちでできる範囲を考えて、管理する。
そして、無理になる前に大人へ繋ぐ。
責任の所在まで含めて仕組みが作られている。
「結構面白いでしょ?」
「はい。やれる範囲で管理して、自分達で動かすっていうのが、結構面白いです。最終的に無理になる前に先生に報告すればいいっていうのも安心できますし。」
「そうだね」
少しだけ、佐藤先輩の口元が緩んだ気がした。
体育倉庫へ向かっていると、グラウンドから声が飛んできた。
「姉さん!」
「姉さん、チッス!」
「姉さん! ッス!」
……?
俺は振り返る。
そこにはサッカー部員の2年生らしき男子達が、こちらに向かって手を上げていた。
佐藤先輩は。
完全無視。
「体育倉庫、見ますね」
「あ、はい!」
俺も慌ててついていく。
……姉さんって呼ばれてるのかこの人。
すると、1年生らしきサッカー部員がこちらを見ながら。
「やべぇ、生徒会だ……」
「休憩してるところ見られたら、予算削られちまうよ……」
俺はその話を聞きながら思わず、
「いや、生徒会にそんな権限ないですよ……。ですよね、佐藤先輩?」
同意を求める。
佐藤先輩は少し考えて。
「ん……」
そして。
「やり方次第では……できないこともない」
その話を聞いた途端、2年と1年のサッカー部員は即座に立ち上がった。
「そりゃないよ! 姉さん!」
「よーし! 頑張るぞー! これからー!」
「うおおお!」
サッカー部員たちがグラウンドへ走っていく。
俺はその背中を見送る。
……何なんだ、この人。
体育倉庫の中は、6月とは思えないほど暑かった。
扉を開けた瞬間、むわっとした熱気が押し寄せてくる。
「暑っついな……」
制服が肌に張り付いて、気持ち悪い。
一方の佐藤先輩は、いつも通りだった。
汗一つかいていないように見える。
すごいな。
姉さん。
心の中で勝手に呼んでおく。
「まず、この辺から」
「はい」
先輩に指示されながら、道具を一つずつ確認する。
数や状態。破損していないか。
俺が確認して報告し、佐藤先輩が資料へ記入していく。
「カラーコーン、20個。破損なし」
「はい」
「テント3つ。骨組み問題なし」
「はい、良さそうね」
黙々と作業する。
ふと、気になっていたことを聞いてみた。
「あの、佐藤先輩」
「なに?」
「さっき、姉さんって呼ばれてましたけど……」
「……」
「聞いていいやつですか?」
「聞かなくていいやつです」
「ですよね」
即答だった。
俺もそれ以上は聞かなかった。
倉庫の確認も終盤。
ふと、嫌な予感がした。
体育倉庫。
閉鎖空間。
男女2人。
そしてこの時期。
……こういう場合のお約束イベントがあることを、俺は知っている。
ガラガラッ。
「おーい! 誰だよ倉庫開けっ放しにしたやつ!」
外から声がする。
扉が勢いよく閉まっていく。
「おい!」
俺は慌てて声を出した。
「ちょっと待って!」
しかし。
ガラガラガラ。
そのまま扉が閉まった。
「先輩……どうしましょうか…」
俺は焦りを感じながら、佐藤先輩に問いかける。
佐藤先輩が扉を見る。
そして、手をかける。
ガチャ。
普通に開いた。
「……」
「……」
イベント、不発。
終了。
「よかったですね」
「うん」
「……でもこの時期に閉じ込められるの、地獄ですよね」
「暑いからね」
それだけ言って、先輩はまた作業へ戻った。
その後、生徒会室へ戻った。
佐藤先輩は確認した資料をまとめている。
俺は別の作業をしている2年の濱田先輩に、こっそり声をかけた。
「先輩」
「ん?」
「佐藤先輩って、なんで『あねさん』って呼ばれてるんですか?」
先輩は一瞬、佐藤先輩を見る。
佐藤先輩がこちらを見ていないことを確認してから、声を落とす。
「最初は単純に、姉さんっぽいってところだったと思う」
「姉さんっぽい?」
「うん。でも、男子とプライベートで話してるところをあんまり見ないし」
「へえ」
「表情もあんまり変わらないだろ?」
「確かに」
「それで、なんか極道みたいだなって話になって」
「極道……」
「それから『姉さん』になったらしい」
「なるほど……」
先輩は苦笑する。
「まあ、俺はクラス違うから、多分だけどな」
「……」
俺は佐藤先輩を見る。
黒髪で眼鏡の綺麗な姿勢の先輩。
淡々とした受け答えで、確かに、ちょっと怖い。
でも、猫が好き。
猫好きに悪い人はいない。
人は見た目と中身が違う。
そんな当たり前のことを、なんとなく実感した。
「月城くん」
佐藤先輩に呼ばれる。
「はい!」
「これ、確認して」
「分かりました」
資料を受け取る。
内容を確認していると、先輩が隣から覗き込んでくる。
「ここ、数字が間違ってる」
「あ、本当だ。すみません」
「ここを直せば大丈夫」
「ありがとうございます」
「うん」
また作業に戻る。
俺も資料へ視線を戻す。
生徒会に入る前は、もっと堅苦しいものだと思っていた。
自分に仕事ができるかも不安だった。
でも、実際活動が始まってしまえばやるしかないし、わからなければ先輩に聞ける。
生徒会思ったより楽しいかもしれないな…。
そんな事を考えているのが表情に出ていたのか、佐藤先輩は不思議そうに俺を見る。
俺は笑って、また資料に目を落とした。




