33.顔合わせ
昼休み。
俺と天沢は、生徒会室へ向かっていた。
今日は、生徒会役員同士の顔合わせも兼ねて、一緒に昼飯を食べながら体育祭について話すらしい。
……生徒会室で昼飯。
考えるだけで息が詰まる。
「失礼しまーす」
天沢がノックをして、先に入る。
「失礼します…」
俺もその後に続いた。
手には焼きそばパン、カレーパン、それからコーヒー。
……うん。
改めて見ると、俺だけ庶民感がすごい。
場違いじゃないか?
みんなのお弁当が綺麗に輝いて見える。
そんなことを考えながら席につく。
「じゃあ、今日は改めて自己紹介からしようか」
橘会長がそう言って、昼食を広げる。
堅苦しい雰囲気ではなく、むしろ普通の昼休みみたいだった。
「じゃあ私からね。生徒会長の橘穂乃果です」
ショートカットで、明るく話しやすい。
「最近好きなものは――」
なんて話から始まり、好きな食べ物や趣味なんかも話していく。
生徒会長ってもっと堅い人なのかと思っていたけど意外と普通の人だ。いや、話しやすい印象を感じる。
次に副会長。
「冴島です」
……以上。
「最近好きなのは?」
「特にない」
「好きな食べ物は?」
「普通に食べられるもの」
……寡黙だ。
必要なこと以外はあまり喋らないらしい。
そんな副会長の弁当を何となく見る。
「……」
フルーツしか入っていない。
りんご、いちご、オレンジ。
……気になる。
めちゃくちゃ気になるが、初対面に近い先輩に
『なんでフルーツしか食べないんですか?』
とは聞けない。
俺はそっと視線を戻した。
続いて書記の先輩。
「山村です。よろしくねー」
おっとりした雰囲気。
でも話し始めると意外と快活だった。
「私、結構ミスするんだけどねー」
会長が笑う。
「でもまあ、みんなが助けてくれるから!」
……なるほど。ミスをしてもそれを許してもらえる愛嬌がある。
そういう人なんだろう。
たぶん、この人が何かやらかしても、
「しょうがないなぁ」
と言いながらみんながフォローする。
そんな光景が容易に想像できる。
そして。
俺の目に止まったのは、2年生の先輩だった。
「佐藤です」
会計の佐藤先輩。
黒髪に眼鏡。
綺麗な人だ。
ただ、俺が気になったのは顔立ちだけじゃない。
姿勢。
箸の持ち方。
弁当箱を置く位置。
そういう一つ一つの動作が綺麗だった。
あまり喋らないが、必要なことを簡潔に話すタイプ。
「好きなものは?」
と聞かれて、
「猫」
と答えた。
そのとき、弁当箱の下に敷かれているハンカチが目に入る。
猫柄だった。
……ギャップがすごい。
そんな印象を持った。
その後、2年生の執行委員、そして1年生の里中。
最後に俺と天沢も自己紹介をした。
俺は無難に、
「月城相馬です。よろしくお願いします」
程度で済ませた。
自己紹介が終わると、本題の体育祭についての話になった。
「生徒会は、体育祭実行委員とは役割が違うからね」
会長が説明する。
「競技そのものを仕切るというより、全体の運営をする感じかな」
放送は放送部が担当する。
ただし、生徒会側でも原稿を用意したり、当日の進行を調整したりする。
来賓への対応。
当日のタイムスケジュール。
必要な備品の管理。
実行委員への指示。
体育祭全体の流れを把握して、問題が起きないように調整する。
一つ一つは、そこまで難しくない。
でも。
「……結構ありますね」
思わず口から出た。
「そうなんだよね」
会長が笑う。
「生徒会って、こういう細かい仕事が多いんだよ」
なるほど。
何でも屋という意味が、少し分かった気がする。
役割分担も決まっていく。
来賓対応は会長と副会長。
タイムスケジュールや備品管理は、会計の佐藤先輩。
原稿や当日の流れを組み立てるのは、書記の山村先輩。
「基本的に、書記、会計には、執行委員を補佐としてつけることになってるんだ」
「天沢さんは山村さんの補佐」
「はい」
「月城くんは佐藤さんの補佐」
会長から言われる。
「俺ですか?」
「うん。数字とか全体の流れを見る仕事だから、月城くんに向いてると思う」
「分かりました」
こうして俺は、佐藤先輩の補佐として、
タイムスケジュール。
備品管理。
体育祭全体の流れ。
この辺りを教えてもらうことになった。
……いきなり結構重要なところに入った気がする。
昼休みの終わり際。
「じゃあ、生徒会のLINEグループ作るね」
会長がスマホを操作する。
俺も招待され、グループに入る。
その流れで、
「月城くん、佐藤さんとも連絡先交換しておいて」
と言われた。
「あ、はい」
佐藤先輩と個別に連絡先を交換する。
登録画面に表示されたアイコンを見ると…
猫。
飼っている猫かな…
触れていいものか悩んでいると。
「猫カフェの猫」
佐藤先輩の方から言ってきた。
「え?」
「アイコン。猫カフェの猫」
「ああ、なるほど」
「うち、飼えないから……」
そう言った佐藤先輩は、ほんの少しだけ残念そうな顔をした。
普段あまり表情を変えない分、その変化が妙に印象に残る。
「俺も飼ってないです」
「……そう」
それだけ。
でも、なんとなく会話が続いた。
「猫、かなり好きなんですね」
「好き」
即答だった。
俺は少し笑ってしまう。
佐藤先輩も、ほんの少しだけ口元を緩めた。
そんなところで昼休み終了のチャイムが鳴った。
「じゃあ、また放課後に」
「はい」
俺は生徒会室を出る。
新しく始まった生徒会。
仕事も思ったより多く、不安ではあるが、何とかなるだろう。
そう思いながら、教室へ戻った。




