31.いざ生徒会室へ
今日の昼休み、ご飯を食べ終えたら生徒会室へ向かう。天沢も一緒に行くらしい。
俺はいつも通り1人で昼飯。
焼きそばパンを食べ終える。
天沢が食べ終わるのを待ってから、一緒に生徒会室へ向かうことにした。
「待たせちゃったね、相馬くん」
「いや、俺も今食べ終わったところだよ」
とてつもなく嘘だが、気を遣わなくていい。
そんな意思を込めて答える。
廊下を歩きながら聞いてみる。
「天沢は何か聞いてるんだろ?」
「生徒会のことっていうのだけ」
「それだけ?」
「…ごめん。内容は聞いてるんだけど、あとは会長から聞いてほしい」
「了解した」
答えは生徒会長に聞くとしよう。
生徒会室は一階。
職員室と会議室を挟んだ間にある。
扉の前に立つ。
「……」
妙に緊張してきた。
悪いことをして、職員室に呼び出されたような気分だ。
でも天沢も一緒だ。
流石に変な話ではないだろう。
俺は扉をノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
俺に続いて天沢も中へ入る。
部屋の中央には机があり、それを囲むように椅子が並んでいる。
その奥に二人。
「よく来てくれたね月城くん。それと、天沢さんも」
「こんにちは」
「こんにちは」
俺たちが挨拶すると、二人が改めて自己紹介をしてくれた。
「生徒会長の橘です。この間はありがとうね」
「副会長の冴島です。よろしく」
「1年A組の月城相馬です」
ボランティアのときにも会っているので、顔自体は知っている。
けれど、こうして生徒会室で向かい合うと少し違って見えた。
「さっそくだけど――」
と言い、橘会長は生徒会についての説明を始める。
この学校の生徒会は、少し変わった仕組みらしい。
生徒会長だけは選挙で決める。
そして、それ以外の役職については、基本的に会長に人選が任される。
もちろん、何でも好きに決められるわけではない。
無茶苦茶な人選や、特定の学年だけで固めるようなことはできない。
ある程度の理由と根拠が必要。
そして、その人選に不満があれば不信任案を出すこともできる。
承認されれば、その生徒は生徒会を降りることになる。
もっとも。
「今まで不信任案なんて出されたことないけどね」
と、会長は笑った。
過去には不登校になってしまい、結果的に生徒会からいなくなった生徒はいたらしい。
それくらいだという。
現在の生徒会メンバーは、
橘会長――3年女子。
冴島副会長――3年男子。
山村書記――3年女子。
佐藤会計――2年女子。
濱田執行委員――2年男子。
里中執行委員――1年D組女子。
「天沢さんにも生徒会をお願いをしていて、承認済みだよ」
「そうだったんだ」
「うん」
天沢執行委員――1年A組女子。
そして――
「私はボランティアで君を評価し、天沢さんに君の人物像を聞いた。」
生徒会長は柔らかい表情から、真剣な眼差しに変わった。
「月城相馬くん。君を生徒会執行委員を任命します」
「引き受けてくれるか?」
いや、いきなり言われても…。
生徒会で自分が動く姿が想像できないし、俺にそんな大役は無理だ…。というのが素直な気持ちだった。
「お断りします」
会長は驚くことなく、
「理由を聞いてもいいかな?」
と聞いてきたので、俺は答える。
「いくつかあります」
俺は自分の考えを整理する。
「まず、俺には女子人気も男子の人望もありません」
「生徒会に入ったとして、『なんでお前が?』となる可能性は高いと思います」
「それなら、天沢と同じクラス委員の山本のほうが人望もあって勉強もできますし、適任だと思います」
「それと」
もう1つ。
「1年A組から2人出すというのも、どうなのかなと」
「B組やC組から誰も出ていないなら、不満を持つ人がいるかもしれません」
「反感を買ってまで、生徒会をやりたいとは思いません」
会長は俺の話を聞き終え、頷いてから話し出す。
「ありがとう。そこまで考えてくれて」
会長は椅子に座り直した。
「まず、生徒会というと、学校のトップ組織みたいに思うかもしれないけど、漫画みたいな特権も権力もないよ」
「学校を代表した、何でも屋。そのくらいの印象のほうが近いかな」
俺は黙って聞く。
「ボランティア、体育祭や文化祭の運営、地域の人たちや他校との交流。そういうことが主な仕事。……誰もやりたがらないでしょう?」
会長が苦笑する。
「実際、私のところに『生徒会やりたいです!』なんて来た生徒、1人もいなかったよ」
確かに。
自分から進んでやりたいと思う人は、そんなに多くないだろう。
「じゃあ、なんで俺なんですか?」
俺が聞く。
会長は少しだけ間を置いた。
「理由は1つ」
まっすぐ俺を見る。
「君は、ボランティアの時に汚い場所へ率先して入っていき、他の人が嫌がるような場所も、掃除していた」
「そして、地域の人が辛そうにしていたら声をかけて、水を渡したりしていた」
「つまり、周りをよく見ていた」
「私は、そこを評価したの」
「……」
そんなところを見られていたとは思わなかったな。
「私は、その周りを見る目に期待してる」
真正面から褒められることなんて今までにあまりない経験だ。
会長は続ける。
「それに、天沢さんを今後も支えられるのは、君だとも思ってる」
「……」
天沢を見る。
天沢も俺を見ていた。
会長は、天沢が将来、生徒会長になるとでも考えているのだろうか。
そして俺を、その隣に置こうとしている。
「でも」
俺は言う。
「俺が今、生徒会をやったとしても、これから先も続ける保証はないですよ」
「……」
会長は嫌味のない笑顔を浮かべた。
そして。
「だってさ、副会長」
「……」
今まで黙っていた冴島先輩へ話を振る。
「ん……まぁ、そうだな」
少し気まずそうに答える。
会長は楽しそうに笑った。
「こいつも最初はそんなこと言ってたけど」
「結局、3年間ずっと一緒だったよ」
「余計なこと言うな」
冴島先輩が苦笑する。
「まあ、今すぐ答えを出さなくてもいいよ」
「ただ、覚えておいてほしい。」
「私が求める人物は勉学ができるか、人望が厚いか、よりも嫌な事を率先してやれるかどうかというところだ。」
「それが君にはある」
そう考えている。と会長が述べたあと、時計を見て時間を確認した。
「5月31日の放課後にもう一度、この生徒会室に来て」
「天沢さんと一緒にね」
そこで話は終わった。
俺と天沢は生徒会室を出る。
廊下を歩き始めてすぐ。
「……ごめんね」
天沢が言った。
「ん?」
「ボランティアに誘ったから」
「なんか、巻き込んじゃったみたいになっちゃって」
俺は笑う。
「気にするなって」
そして親指を立てる。
「天沢に頼まれたら、死体処理でも何でも手伝うよ」
「なにそれ……」
天沢は呆れたように言った。
でも、どこか嬉しそうだった。
「嫌だったら断っていいと思うからね」
「まぁ、考えてみるよ」
俺達は帰路に着き、家に帰ってからも、俺は考えていた。
生徒会。
やってもいいのだろうか。
活動自体は、そこまで難しいものじゃないと思う。
たぶん、俺でもできる。
問題は――
そんなことをするだけの度量があるのか。
心の余裕があるのか。
そこだ。
俺はベッドに寝転びながら、昼間の会長の言葉を思い出す。
――周りを見る目。
俺には、それがある。
なぜだろう。
考えてみれば、当たり前だった。
俺は中学まで野球をやり、キャッチャーだった。
相手が何を考えているのか。
次に何をしてくるのか。
この場面ならどう攻めるのか。
相手の監督なら、ここで何をしてくるのか。
ずっとそんなことを考えてきた。
それは野球を辞めたからといって、消えるものじゃなかった。
気づけば。
俺の生活そのものに根付いていた。
「……」
だったら。
それを使ってみてもいいんじゃないか。
野球では、もう使えない。
でも。
別の場所なら。
「期待してくれるなら、その期待に、応えたい」
そう思った。




