3.我が家と妹。
学校を出た俺は、最寄りの駅へ向かった。
学校から駅までは歩いて数分。
電車に乗れば、家の最寄り駅まではそれほど時間もかからない。
駅を降り、さらに数分歩く。
見慣れない街並みの中に、少しずつ見慣れてきた場所が増えてきた。
そして、その先にある一軒の家。
そこが、今の月城家だった。
一軒家を借りている。
まだここに住み始めたばかりで、父親の仕事の都合でまた転勤になる可能性もある。
だから、家を買うという選択肢はなかったらしい。
戸建ての家。
二階には自分の部屋と妹の部屋がある。
両親は仕事から帰ってくるのが遅い。
そのため、家にいるのは基本的に俺と妹だけだった。
玄関のドアを開ける。
「ただいまー」
返事はない。
まあ、いつものことだ。
靴を脱いで家に上がる。
リビングへ向かい、冷蔵庫を開け、麦茶を取り出し、コップに注ぐ。
「うま…」
一気に半分ほど飲む。
入学式のみとはいえ、思ったより喉が渇いていた。
コップをテーブルに置く。
その時――
「お兄」
後ろから声がした。
「ん?」
振り返る。
そこには、スマホを片手に持った妹が立っていた。
月城葵。
中学2年生。
去年までは愛知の中学校に通っていたが、引っ越しに合わせてこちらの中学校へ転入することになった。
転入の手続きはすでに済んでおり、今日は入学式だが、在校生はまだ春休み。
葵の学校が始まるのは明日からだ。
「学校どうだった?」
「まぁ、可もなく不可もなくだな」
「なにそれ」
「まぁ特に何もなしって感じだよ」
相馬は冷蔵庫からもう一度麦茶を取り出す。
「友達できなかったんでしょ」
「まぁ、まだ初日だし」
「ふーん」
葵はスマホを弄りながら、ソファに座る。
そして、ふと思い出したように顔を上げた。
「そうだ、かっこいい人いた?」
「……なんで?」
「いや、高校ってそういうのいるじゃん」
「俺以上はいなかったよ」
即答。
葵が一瞬、固まる。
「…………」
「…………」
「レベル低っく!」
「うるさ…」
「お兄の学校、大丈夫?」
「大丈夫だよ。俺がいるから」
「その自信どっから来るの?」
「知らん」
葵は呆れたようにスマホへ視線を戻す。
「早く友達作らないと、乗り遅れるよ」
「わかってるよ」
棘のある言い方だが、優しさが含まれているはずだ。
いや、含まれているに違いない。
「まぁ頑張るさ…」
俺は妹を見ながら、
「葵も明日から頑張ってな」
「お兄と違って、私頑張らなくても友達とかできるし」
葵が小さく笑う。
「おい」
くだらないやり取り。
こういうのが、いつもの月城家だった。
学校では知らない人ばかりだった。
まだ新しい生活にも慣れていないが、
家に帰れば、少なくともこいつはいる。
相馬は麦茶をもう一口飲んだ。
「そういや、親父と母さんは今日遅くなるって言ってたよ」
「いつものことでしょ」
両親は仕事柄帰宅が遅い。俺たちが家族揃ってご飯を食べるなんて事は多くない。
あっても、土日のどちらかだけ。
でも不思議と苦ではない。
当然LINEでやりとりはしてるし、困った時は駆けつけてくれる。
そんな両親を応援したい気持ちはある。
でも妹はどうなんだろうか。
そんな事を考えながら俺は、麦茶を飲み干した。




