↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
普通の高校生の、特別な日常  作者: しゃー
1章 一学期編
PR
2/105

2.ホームルームと図書館

「改めて、今日から1年A組の担任となる青山文香(あおやま ふみか)です」


教壇に立った女性教師が、黒板に自分の名前を書いた。


――青山 文香。

少なくとも、ぱっと見では30前半くらいか。


「担当は国語。みなさんの授業もしますからね」


そう言った後、教卓に手を置いてこちらを見る。


「ちなみに、私は20代です」


教室がざわついた。


「……いや誰も聞いてないですよ」


誰かが小さな声で呟く。


「本当です」


青山先生は即答し、教室のあちこちから笑い声が起こった。


「まあ、詳しい年齢は秘密です」


そう言って、先生は黒板に書いた自分の名前を指す。


「青山文香。これだけ覚えておけば大丈夫です」


なんとなく、面白い先生。そんな印象だ。



「それじゃあ、まずはこれを配ります」


先生が何枚かの紙を持ち、前の席から順番に配っていく。


俺のところにも一枚届いた。


「自己紹介カードか」


「名前、出身地、趣味、それから高校生活でやりたいこと。簡単でいいので書いてください」


鞄からペンを取り出し記入する。


名前。


月城相馬。


出身地。


愛知県。


趣味。


映画、ゲーム。


高校生活でやりたいこと。


少し考え、バイト と記入する。


最後に「その他」という欄がある。

何を書くか迷ったが、思いついた事を書く。


『この辺りのラーメン屋のおすすめを知りたい』


書き終えて、紙を見直す。



「こんな感じかな…」


特に変なことは書いていない…いや、バイトは変か?


そう思っていると、前から先生の声がした。


「じゃあ、せっかくだから1人ずつ、簡単に自己紹介してもらいましょう」


教室がざわつく。


「え?」


「聞いてないんですけど…」


「まあまあ。入学初日ですから」


青山先生は楽しそうに笑う。


「じゃあ、出席番号順で」


最初の生徒が立ち上がる。


「えっと……芦屋(あしや)です。出身は――」


1人。


また1人。


順番に自己紹介が進んでいく。


部活の話。


趣味の話。


好きなアニメや映画、スポーツの話。


中学時代の話。


それぞれが短く話していく。


俺は自分の番を待ちながら、ぼんやりと聞いていた。


そして――


「次、月城くん」


来た。


俺は椅子から立ち上がる。


「月城相馬です」


教室の視線が集まり、少しだけ緊張する。


「中学までは愛知に住んでいて、高校からこっちに引っ越してきました」


そこで一度言葉を切る。


「趣味は映画を観ることです。」


ゲームは言わなくてもいいか、と思い言わなかった。


それから自己紹介カードを見ながら続ける。


「あと、最近引っ越してきたばかりなので、この辺りのラーメン屋をまだ全然知りません。」


教室の何人かが、少しだけ反応した。


「おすすめの店があったら教えてください。」


軽く頭を下げる。


「以上です」


拍手が起こる。


相馬は席に戻った。


隣を見る。


楠木夕が、こちらを見ていた。


「……ラーメン好きなんだ」


「うん」


「私も結構食べるよ」


「へぇそうなんだ」


それだけ言って、相馬は前を向いた。


次の生徒が立ち上がる。


自己紹介はまだ続いていく。


俺は何となく耳を傾けながら、机の上に置いた自己紹介カードを見る。


野球のことは書かなかった。


中学時代に何をしていたか。

何を諦めたのか。


そんなことは、今はまだ話す必要はない。


自己紹介が一通り終わると、青山先生は教壇の上で出席簿を閉じた。


「はい、これで全員かな」


教室を見渡す。


「それじゃあ、今日の連絡事項をいくつか。明日からは普通に授業が始まります」


その言葉に、教室のあちこちから小さなため息が漏れた。


「まあまあ。そんな嫌そうな顔しない」


青山先生は苦笑する。


「入学式の日なので、今日は半日で終わりです。午後は2、3年生が部活動をやっています。興味がある人は自由に見学していってください。もちろん、そのまま帰っても構いません」



部活動見学。


俺は窓の外を見る。


校庭では、さっき見えたように運動部らしき生徒たちが活動している。


なるほど。


教室から聞こえてきた金属バットの音も、校庭に見えた野球部らしき姿も、そのためだったのか。


俺は部活に入るつもりはない。


だから、見学に行く必要もない。


そのまま帰ってもよかった。


――が。


「……せっかくだし、ちょっと学校見て回るか」


まだ入学したばかりだ。

校内のこともほとんど知らない。


そう思い、相馬は教室を出た。


廊下を歩き、階段を上る。


部活動の案内を眺めながら歩いていると、ふと一つの扉が目に入った。


――図書室。


「……図書室か」


俺は足を止めた。


本を読むのは割と好きだった。


私立の学校ということもあって、蔵書数も多いらしい。


学校案内にもそんなことが書いてあった気がする。


「一目くらい見ておくか」


扉に近づき、取っ手を握る。


――ガチャ。


「……閉まってる」


俺は手を離した。


今日はまだ利用できないらしい。


そう思って踵を返した、その時だった。


「常盤さん、こっちですよ」


廊下の向こうから声が聞こえた。


青山先生だった。


その後ろを、一人の女子生徒がついて歩いている。


「図書室はこの先です」


どうやら先生が先導しているらしい。


俺は立ち止まる。


青山先生がこちらに気づいた。


「あれ?」


先生が足を止める。


「君、1年A組だったよね?」


「はい」


「月城くん…だったかしら?」


「月城相馬です」


「よかった。」


と先生が頷く。名前を覚えてくれていたらしい。


「月城くんも図書室に用事?」


「一目見に来たんですけど、閉まってました」


「ああ、それならちょうどよかった」


 青山先生は手に持っている鍵を軽く掲げた。


「この子も図書室を見たいっていうので、今から開けるところです」


先生が後ろにいる女子生徒を見る。


「1年C組の常盤さん」


「……常盤栞(ときわ しおり)です」


小さな声。


俺は改めて彼女を見る。


小柄な子だった。

身長は自分の肩よりかなり低い。

たぶん、145センチくらいだろうか。


長い前髪が目にかかるくらいで、少し俯きがちに立っている。


「月城です」


俺も名乗る。


「……知ってます」


「え?」


「今のやりとり、聞いてたので」


「ああ……そういうことか」


納得した。


別のクラスの生徒が、俺の名前を知ってるわけじゃないか。


青山先生が鍵を取り出す。


「じゃあ、開けますね」


鍵が差し込まれ、カチャリ、と音がした。

扉を開ける。


中にはたくさんの本棚が並んでいた。


「おお……」


思わず声が出る。


思っていたより広い。


「結構あるでしょう?」


青山先生が少し嬉しそうに言った。


「ここ、うちの学校では結構自慢なんですよ」


常盤さんも、少しだけ顔を上げて中を見る。


「……すごい」


小さな声が漏れた。


「ただ、今日は見学だけね。貸し出しは明日からです」


青山先生が説明する。


「分かりました」


常盤さんが頷いた。


俺も中へ入る。


せっかくだから、少し見て回ることにした。


本棚には、小説や文学作品、新書などが並んでいる。


適当に背表紙を眺めながら歩いていると、青山先生と目が合った。


「月城くん」


「はい?」


「私、職員室に戻るから。見終わったら、鍵を職員室まで返しに来てくれる?」


「俺がですか?」


「お願い」


「……分かりました」


そう言って、青山先生は図書室を出ていった。

長くなりそうだと思い、任された…。


俺は再び本棚へ目を向ける。


常盤さんも静かに本を眺めている。


適当に一冊の文庫本を手に取り、近くの椅子に腰を下ろす。


「…これでいいか。」


本を開く。


静かな図書室。


窓から差し込む春の日差し。


入学初日の午後。


まぁ悪くないな。


そう思いながら、相馬はページをめくり始めた。


――それから、十数分ほど経った頃。


バタバタバタッ!

――ガタン!


突然、図書室の奥から大きな音がした。


「……?」


俺は本から顔を上げる。


続いて、


ドサドサッ!


何冊かの本が落ちる音。


「大丈夫か?」


椅子から立ち上がり、音のした方へ向かう。


本棚の間を抜ける。


すると――


「あ……」


常盤さんがいた。


床には何冊もの本が散らばっている。


どうやら本棚の上の方にある本を取ろうとして、何冊か落としてしまったらしい。


本人はその場にしゃがみ込み、落ちた本を拾おうとしていた。


「大丈夫?」


「……はい」


「これ、結構落ちたな」


「すみません……」


「いや、怪我してないならいいけど」


 相馬もしゃがみ込み、本を拾い始める。


「この辺に戻せばいい?」


「……はい」


二人で落ちた本を拾っていく。


棚の高さがあるので、上の方は俺が戻す。


常盤さんは下の方に並べていく。


「これで最後かな」


「……ありがとうございます」


「全然、いいよ」


最後の一冊を棚に戻す。


「まだ見ていく?」


「……いえ」


常盤さんは首を横に振った。


「もう、大丈夫です」


「そう?」


「はい……」


どこか恥ずかしそうに俯いている。


頬が少し赤い。


「じゃあ、戻ろうか」


「……はい」


二人で図書室を出る。


俺は預かった鍵を持って、職員室へ向かった。

少し離れて後ろには常盤さん。


職員室に入り、青山先生に鍵を返す。


「お疲れさま。明日からは普通に使えるからね」


「分かりました」


2人とも、軽く頭を下げ職員室を出た。


常盤さんとはここでお別れ。



校舎を出る。


時間はまだ昼過ぎ。


駅へ向かう道を歩きながら、相馬は今日一日のことを思い返す。


入学式。


新しいクラス。


隣の席の楠木。


そして、図書室で会った常盤。


まずは学校に慣れる所から始めよう。

そう思い、俺は前を向く。



この出会い一つ一つが、特別な日常になる。

そうなる事を相馬はまだ知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。