24.妹孝行
家に帰ると、リビングに葵がいた。
「おかえり」
「ただいま」
ブレザーを脱いでいると、葵が俺を見る。
「最近、遅いね?」
「……」
俺の手には、今日買った太宰治。
別にやましいことはない。
ないんだけど。
「いや、ごめんな」
「別にいいけど」
葵はそれ以上、何も言わなかった。
俺も自分の部屋へ行こうとした。
――けど。
ふと、考える。
葵は中学生とは思えないくらい、しっかりしている。
でも、中学生だ。
俺より帰ってくるのは早い。
俺が遅くなれば、それだけこの家で1人になる時間が増える。
寂しくないとは限らない。
「……」
俺に何かできることはないだろうか。
「……そうだ」
俺は振り返り、キッチンに向かう。
「今日は料理を作る!」
「急にどうしたの?」
「ご飯まだだろ?オムライスを作ってあげよう」
「……」
葵が嫌な予感でもするような顔をした。
「オムライス?」
「そう!」
俺は腕まくりをする。
「今日は俺にまかせろ!」
「……大丈夫?」
「大丈夫さ」
そして――
数十分後。
「……」
「……」
テーブルの上。
そこには、オムライスがある。
一応。
卵はぐちゃぐちゃ。
ところどころ焦げている。
ケチャップライスは、それなりにまとまっている。
鶏肉にはちゃんと火が通っている。
玉ねぎも問題ない。
味も――
たぶん大丈夫。
「……オムライスだ」
「うん」
「オムライス……だよな?」
「一応ね」
「一応って言うな」
俺は最後の仕上げにケチャップを手に取る。
そして。
卵の上に――
ハートマークを描いた。
「完成!」
「……」
葵が無言で俺を見る。
「なに?」
「キモい」
「なんでだよ!」
「なんでお兄が妹のオムライスにハート描くの?」
「サービス精神だよ!」
「いらない」
容赦がない。
俺は少し落ち込みながら自分の席についた。
葵がスプーンを手に取る。
一口。
「……」
「どう?」
「まぁいけなくはない」
「そうか」
しばらく2人とも黙って食べる。
やがて。
葵がぽつりと言った。
「……ありがとう」
「ん?」
「料理」
少しだけ顔を逸らしながら。
「おう」
俺はそれだけ答えた。
失敗したオムライス。
焦げた卵。
歪んだハート。
それでも。
今日はこれでいい気がした。
「また作ってあげるからな!」
「もういい」




