23.古本屋山文堂
図書委員の仕事が終わり、常盤さんと並んで歩く。
学校を出てから、目的地の山文堂まではそれほど遠くない。
特に寄り道をすることもなく、2人で歩いていく。
なんだろう…同じ委員会の人と古本屋に行っているだけだが、なんとなく、むず痒い。
他クラスの女子と一緒に帰るシチュエーションが珍しいからか。
俺はそんなことを考えながら、常盤さんの少し後ろを歩く。
やがて、目的地が見えてきた。
「ここ」
常盤さんが立ち止まる。
古びた看板。
年季の入った建物。
――山文堂。
「じゃあ、入ろうか」
「うん」
常盤さんが先に扉を開け、俺は後に続く。
RPGで例えるなら、常盤さんが勇者、俺は僧侶。
そんな感じがする。
店の中へ入ると、本が山積みされている。
壁際だけじゃなく、通路の両側にも、本棚。
古書の独特な湿気と印刷の匂いがする。
一見するとかなり窮屈な印象なのに、奥まで見てみると、意外なほど広い。
「こんなに物置けるんだ……」
思わず呟く。
「広いよね」
常盤さんも頷いた。
そのとき。
「おや」
奥から声がした。
見ると、店主らしいおじいさんがこちらを見ていた。
「栞ちゃん」
常盤さんの名前を知っていた。
「今日は彼氏を連れてきたのか?」
「……違います」
常盤さんが即答する。
「同級生です」
と俺が続く。
「常盤さんとは図書委員が一緒で」
すると店長のおじいさんは、
「ふぉっふぉっふぉっ」
と楽しそうに笑った。
そして。
バシッ
「痛っ!」
いきなり背中を叩かれた。
「栞ちゃんは、あんたが守ってあげるんだよ」
「はい! もちろんです」
反射的に答えてしまった。
隣を見る。
常盤さんの顔が、ほんの少し赤くなっていた。
「……」
「……」
気まずい。
おじいさんは満足そうに笑っている。
「ふぉっふぉっふぉっ」
俺たちはそのまま店内を見て回ることにした。
本棚には、作者も年代も関係なく、かなり雑に本が並べられている。
夏目漱石。
芥川龍之介。
太宰治。
その隣に全然違うジャンルの本が置かれていたりする。
「置いてある場所結構バラバラだな」
「慣れると分かるよ」
「本当に?」
「うん」
常盤さんは迷いなく本棚を見ている。
俺には分からないが、常盤さんには配置が分かるらしい。
しばらく歩いていると、一冊の本が目に入った。
『人間失格』を手に取る。
表紙には年季が入っているが、本そのものはしっかりしている。
ページをめくり、ちゃんと読める事を確認する。
「……これ」
そういえば、まだ読んだことがない。
少し迷ったが――
買ってみるか。
そう思って、本を手に持った。
その間に、常盤さんは別の本を持ってレジへ向かっていた。
「栞ちゃん、いつもありがとうね」
店長のおじいさんが嬉しそうに言う。
「いえ。いい本がありますから」
常盤さんは小さく答えた。
どうやら、ここにはかなり頻繁に来ているらしい。
俺もレジへ向かう。
「これ、購入します」
『人間失格』を差し出す。
「いいのかい。ありがとな」
「はい」
値段を確認して、財布からお金を出す。
すると店長が俺を見る。
「名前はなんていうんだ?」
「月城です。月城相馬」
「相馬くんか」
そして、またニヤリと笑う。
「いい男だなぁ」
「いえいえ」
俺はそのまま受け流した。
店長は満足そうに笑っている。
俺たちは店を出る。
扉を閉める直前、
「またいつでも来ておくれ」
と店長が手を振ってくる。
俺も手を振り返した。
店を出て、駅へ向かう。
「今日はありがとう」
「うん?」
「いや、気になってた店に来られたから」
俺は笑う。
「ありがとうな」
「ううん」
常盤さんは首を横に振る。
「どうせ私も来るつもりだったから」
「それでもだよ」
少し歩く。
駅が見えてきた。
ここでお別れだ。
常盤さんは電車通学だが、俺とは反対方向の電車らしい。
「じゃあ、またね。常盤さん」
「うん。また」
小さく手を振る。
それだけ。
俺たちはそれぞれ反対方向へ歩き出した。
今日買った『人間失格』を入れた袋を持ちながら。
――ちなみに。
常盤さんが今日買った本は、
夏目漱石の『三四郎』という本だった。




