22.古本屋への誘い
次の日の朝。
「おはよう、楠木」
「おはよ、月城くん」
いつものように挨拶をする。
ふと、楠木のカバンに目がいった。
昨日の犬がついている。
……なんだか、ちょっと嬉しくなった。
でも、よかった。
俺がつけてきていたら――
「おそろっちじゃん!」
とか、柳あたりに絶対言われる。
それだけは避けたい。
俺は自分の席に座ろうとした。
その途中、少し後ろの席にいる藤堂と目が合った。
「……」
なんだ?
何か言いたげな顔をしている。
「おはよ」
「……おう」
それだけ。
俺は気にせず席についた。
ホームルームが終わり、1限が始まる前。
楠木に声をかけられた。
「犬カバンに着けなかったの?」
「いや、着けてない」
「なんでよ」
「いや、カバンにつけてたらお揃いになっちゃうじゃん」
少し間を置いて。
「いいじゃん!別に」
「いや、よくないでしょ。全然」
「なんでよ!」
「からかわれるじゃん!」
「考えすぎだよ」
……。
そうなのか?
「でも恥ずかしいだろ」
「別に」
「俺は恥ずかしい」
「じゃあ私だけつけてるね」
「……」
そこで会話が途切れた。
だが、1限が始まってから、隣から何となく抗議の視線を感じる。
「……」
俺は黒板を見る。
授業に集中しよう。
……まあ、家に帰ったら、カバンにつけてやるか。
今日の放課後は図書委員。
図書室へ向かう。
「月城くん」
声をかけられて振り返る。
常盤さんだった。
今日は柳が家の用事で来られないらしい。
代わりに1-Cの常盤さんが来てくれた。
柳の代打。
……可哀想に。
「久しぶり。うちの柳がごめんね」
「全然大丈夫」
常盤さんは小さく呟いた。
「次、変わってもらうから」
「なるほど」
「柳さんと仲良くなってたりする?」
「連絡は取れるよ」
「そっか」
なんとも言えない回答だった。
仲が良いとも、そうでもないとも取れる。
俺自身、クラス外の人間とこうして交流することはほとんどない。
でも常盤さんとは、結構面識がある。
図書委員の当番をしていると、よく本を借りに来るからだ。つまり、それだけ本が好きだというと事だ。
常盤さんが選ぶ本は、俺も結構好きだった。
ミステリー。
ファンタジー。
たまに恋愛もの。
さすがに恋愛ものについては触れないようにしているが、それ以外なら、
「それ面白いよね」
とか、
「それ、ちょっと気になってた」
なんて話すことも増えた。
ただ。
常盤さんは口数が多いほうではない。
だから俺だけが、結構仲良くなってきたと思っている可能性もある。
……でも。
常盤さんと、もっと本の話をしたい。
そんなことを考えていると、ふと思い出した。
「そういえばさ」
「ん?」
「駅前に昔からある古本屋あるよな。知ってる?」
常盤さんが少し考える。
「山文堂?」
「ああ、そこ」
「そこならよく行くよ」
「まじで?」
思わず声が大きくなる。
「入りにくくない?」
山文堂は駅前に昔からある古本屋で、建物も古く、外から見ると、正直ちょっと入りにくい。
「読みたい本が結構あるから」
常盤さんは、それだけ答えた。
「……」
すごい。
本への探究心。
そんなことを考えていると、常盤さんが口を開いた。
「行きにくいなら、一緒に行く?」
「え?」
「この後ちょうど行こうと思ってたし」
「……」
一瞬、何を言われたのか理解するのに時間がかかった。
そして。
「いいの!?」
思わず声が出た。
常盤さんは少し驚いたように目を瞬かせてから、
「うん」
と頷いた。
こうして俺は。
放課後、常盤さんと二人で山文堂へ行くことになった。
図書委員の仕事を終えたあと、学校とは違う場所へ。




