20.楠木 夕
楠木は「1人でも楽しめるタイプ」なんだと思っている。
もちろん、常に1人でいたいとか、孤独が好きというわけじゃない。
天沢や柳が別の友達と帰ることになれば、1人で帰ることをためらわない。
むしろ、普段なら行かない場所へ行ってみたり、1人だからこそできることを楽しめる。
そういう人間なんだと思う。
そして今日は――その日らしい。
放課後。
天沢と柳が別の用事で先に帰ることになり、楠木は1人で帰ろうとしていた。
俺はその背中に声をかけた。
「楠木」
「ん?」
「よければ一緒に帰るか?」
楠木は特に問題なしという感じで答える。
「いいよー」
「楠木は1人の時、どこか寄り道していくところないのか?ゲームセンターとか」
「お、いいねそういうの」
楠木は少し悩みながら。
「たまに駅前のガチャガチャエリア行くよ」
「ガチャガチャ?」
「うん。好きなのないかなって探すの」
「へえ」
駅前には、4段積みくらいになったガチャガチャが大量に並んでいるエリアがある。
俺も存在は知っていた。
「一緒に行っていいか?」
「もちろん」
あっさり快諾され、俺たちは二人で駅へ向かった。
件のガチャガチャエリア。
4段、5段と積まれた筐体が、ずらりと並んでいる。
フィギュアにキーホルダー、ぬいぐるみ。
よく分からない雑貨。
本当に色々ある。
楠木はその一つ一つをじっくり見ていた。
「いっぱい回すのか?」
「ううん、気に入ったのを1個だけ」
「1個だけ?」
「うん」
楠木曰く、これは「運命の出会い」らしい。
たくさん回して当たりを引くのではなく、
これだ!と思ったものを一回だけ回す。
それで出会えたものを大事にする。
なんとなく楠木らしいと思ったし、俺もそういうのは好きだ。
「じゃあ、やってみるか」
俺も一緒に探す。
そして。
「……お」
目に入った。
某RPGゲームに登場する、相棒ポジションの犬。
それをモチーフにしたガチャだった。
「これにするか」
俺は即決し、財布から硬貨を取り出す。
すると楠木が隣から言った。
「私もそれがいいと思ってた」
「マジ?」
「うん」
「じゃあ、2人でこれ回すか」
俺は硬貨を入れる。
「白いの出ればいいな」
「私は緑!」
楠木も硬貨を入れ、2人共ガチャをする。
そして。
俺が取り出したのは――
「……緑」
楠木を見る。
楠木の手には――
「……白」
2人とも固まった。
「……」
「……」
奇跡的に逆だった。
「こういう場合、どうするんだ?」
俺が聞くと、楠木は少し考えてから言った。
「……交換しましょ」
「だな」
俺は緑の犬を楠木へ。
楠木は白い犬を俺へ。
こうして。
俺は白、楠木は緑。色違いの犬を手に入れた。
運命の出会い方式は、入れ替え可能だった。
「……ちなみに」
俺は楠木に渡した緑の犬を見る。
「なんで緑なの?」
「え?」
「これ、毒にかかった時の相棒だよな?」
「そうそう」
楠木が頷く。
「毒かかった時の鳴き声が可愛いから好きなんだよね」
「謎理論だな」
「いいでしょ」
俺は、白い犬を見る。
舌を出して、頬んでいるような表情をしている。
「かわいいな、これ」
「よかったね」
楠木も自分の緑を眺めている。
駅前で買った小さなガチャガチャ。
たった一回しか回さなかったが、それで良い。
俺たちはそのガチャで満足して、帰宅した。
――色違いとはいえ、お揃いのものを手に入れてしまったな。
帰宅後自室で、ふと思う。
「……学校の物には、つけないでおこう」
なんとなくそう思った。
舌を出して、頬んでいる白い犬。
俺はそれを机の上に置いて、眠る事にした。




