19.天沢 憂華
天沢憂華が一緒にいることが多いのは、楠木や柳だけど、それ以外の人からもよく声をかけられている。
「憂華ー!、このあとカフェ行こー」
「いいよー」
「天沢さん、次の移動教室って――」
「確か視聴覚室だったと思う」
そんなやり取りを、最近よく見る。
改めて考えてみると、すごいもんだ。
話しかけられる率がかなり高い。
しかも、男女問わず。
誰とでも普通に話せるし、相手によって態度を変えている感じもしない。俺と話しているのだって俺がその男子の1人となっているに違いない。
天沢はコミュ力がかなり高い。
それに比べて俺はというと――
男子は
「次、移動教室だっけ?」
「……どこだっけ?」
「知らん」
「だよな」
この程度の会話ができれば十分なレベル。
女子に至っては、天沢、楠木、柳。
……常盤さんも入れていいのかな。
そんなレベルの交友関係だ。
まあ、まだ入学して1ヶ月も経ってない。
これからこれから。
そんなことを考えながら、何となく天沢を見ていた。
ふと、視線を外したところで――
楠木と目が合った。
ジーっと見られている。
「……何?」
「憂華見てたよね」
「いや、見てないよ」
「……」
楠木の目が細くなる。
「嘘って顔に書いてある」
「嘘じゃないよ。見てない。全く、これっぽっちも」
「ふーん」
楠木はジト目のまま俺を見る。
「結局、変態じゃん」
「結局ってなんだよ」
思わずツッコむ。
「いやぁ……」
俺は天沢のほうを見る。
「誰とでも仲良くなれてすごいなと思ってたんだよ」
「……ああ」
楠木も天沢を見る。
「まあ、あれはあれで苦労もあると思うよ」
「苦労?」
「うん」
楠木は少し考えてから言った。
「陰で陰口言われるなんてザラだし」
「……」
「みんなと話した内容も覚えておかないといけないしね」
「覚える?」
「誰と何を話してたとか、誰が何を好きだとか。そういうの」
「そこまで?」
「そこまで」
楠木は苦笑する。
「天沢って、そういうの結構ちゃんと覚えてるから」
俺はもう一度、天沢を見る。
ちょうど別の女子に話しかけられて、笑いながら答えているところだった。
「大変だな」
楠木が言う。
「誰にでも優しくしてるように見えるけど、たぶん結構気を使ってる」
「なるほどな…」
天沢は今まで、単純に「誰とでも仲良くできる才能がある人」だと思っていた。
でも、違うのかもしれない。
話しかけられたらちゃんと相手の話を聞く。
前に話したことを覚えている。
誰かを置いていかない。
そういうことを積み重ねているから、自然と人が集まっている。
「天沢って、思ってたより努力家なんだな」
「すごいでしょ?」
楠木が少しだけ得意そうに笑った。
俺はまた天沢を見る。
クラスの中心にいるように見えるのは、生まれつきの性格だけじゃない。
見えないところで、ちゃんと努力している。
そう考えると、今まで少し遠く感じていた天沢が、ほんの少しだけ身近に思えた。
天沢自身の悩みができた時は、吐き出す先に、楠木や柳がいるなら安心だろう。そう思った。




