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普通の高校生の、特別な日常  作者: しゃー
1章 一学期編
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13.過去の栄光

土曜日、野球の試合当日。


俺は葵と一緒に、妹が通っている中学校の第2グラウンドへ向かっていた。


駅で電車を待っている間、隣に立つ葵を見る。

今日は少しだけ気合いが入っているようにも見えた。


「なんか、まるでデートみたいだな」


冗談を言ってみる。


「キモっ」


即答だった。


「……妹との会話ってこんなもんか?」


「知らないよ」


そんなやり取りをしているうちに電車が来た。



目的地に着き、少し歩く。

そして見えてきた第2グラウンドは、思っていたよりずっといい場所だった。


広さもあるし、設備も整っている。


ちょうど練習試合のための準備が進んでいて、グラウンドでは選手たちがアップをしていた。


練習試合ということもあって、保護者や関係者がちらほらいる程度で観客は多くない。


少し離れた場所には、大きな日除けが設置されている。


その下に――


「いたいた」


柳達がすでに揃っていた。


俺たちに気づいたのは、天沢だ。


「月城くん!」


手を振っている。


「遅いよー!」


「いや、別に遅れたわけじゃ――」


そこまで言ったところで、天沢の視線が俺の隣へ移る。


「あ!」


「妹ちゃん!?」


楠木も振り向いた。


「え!ちょー可愛い!」


「ほんと!可愛いじゃん!」


柳まで一気に食いつく。


葵は少し驚いたようにしながらも、すぐに姿勢を正した。


「いつも兄がお世話になっています。月城葵です」


ぺこりと頭を下げる。


「……」


一瞬、3人が黙り、こちらこそ…と頭を下げていた。


「え、礼儀正しい……」


楠木が感心したように呟く。


「すごい。ちゃんとしてる」


天沢も笑顔になる。


「月城くん…いや、相馬くんの妹とは思えない」


「どういう意味だよ」


「ふふっ」


柳まで笑っている。


俺はため息をつきながら、空いている場所へ向かった。


「まあ、とりあえず見てみるか」


試合は7回まで。


練習試合ということもあり、そこまで長丁場ではないらしい。


そして、試合が始まった。


1回。


プロ野球の試合をテレビで見るくらいの感覚で見る。


そして打順が回ってくる。


「優貴!」


柳が声を上げた。


柳――いや、柳優貴。


三番、サード。


打席に立った優貴は、構える。


投球。


――カキンッ。


鋭い打球が外野へ飛んでいった。


その後も優貴は安定して打席に立ち、最終的な成績は4打数2安打。


そのうち1本はツーベースヒットだった。


ただ、試合そのものは――


負けた。



「おつかれー!」


試合が終わり、柳たちが選手達に声をかける。


優貴くんが汗を拭きながらこちらへ近づいてきた。


そして――


「あ?」


柳を見る。


「……ちっ、ねーちゃん見に来てたのかよ」


「ちょっと! 言い方!」


柳が文句を言う。


優貴はそのまま俺たちを見る。


そして。


「……ん?」


葵に気づいた。


「なんでいんの!?」


「……」


葵が少しだけ引いた顔をする。


「なんでって、誘われたからね、お姉さんに」


優貴が一度姉を見てから答える。


「あー……そういうこと」


それから少し雑談をした。

野球の事や、俺が葵の兄である事など。


話に盛り上がっている時、ふと、優貴の視線が俺に向いた。


「……あれ?」


「ん?」


優貴が俺の顔を見る。


そして、少し考えるように眉を寄せた。


「もしかして……愛知で野球してました?」


俺と葵が同時に顔を見合わせ、葵は小さく首を振る。


「……え?」


「……」


優貴は確信が持てない様子だった。


「いや、月城って名字で、野球って言ったら……」


俺の顔をじっと見る。


そして。


「中学春の全国大会で準優勝した、キャッチャーの月城先輩じゃないですか?」


俺は、目を伏せながら。少し考える。

葵が俺のことを話したわけじゃないらしい。

でも、黙ってるわけにはいかないか。


「そうそう、その時キャッチャーだったよ。よく知ってるね」


その瞬間。


「やっぱり!!」


優貴の顔が一気に明るくなった。


「マジかよ!すげぇぞ!姉ちゃん!」


優貴が「伝説だ!」と興奮しながら、柳に笑いかける。

柳も何が何だか分からず、俺を見る。


「相馬、野球やってたの?」


天沢が驚いた顔をし、楠木も目を丸くしている。


「全国大会……?」


「準優勝?」


一気に視線が集まる。


俺は隣を見る。

葵も、なんとも言えない顔をしていた。


天沢が呟く。


「相馬くんって、野球やってたんだ。しかもすごいじゃん」


俺は苦笑した。


優貴はまだ興奮している。


「すげぇ! 俺、準決勝の試合見てましたよ!無名の中学だったのに、急に準優勝だったんで覚えてました」


「……そう」


「全国大会の決勝――」


「その話は……」


できれば、あまり触れてほしくない。


葵も何も言わない。


俺たち2人だけが、その話を聞いても嬉しそうにしなかった。


――この話には、まだ続きがある。


そして。


その続きを、俺はあまり人に話したくなかった。

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