106.文化祭の終わりに
文化祭2日目。
俺たちは生徒会室に集まる。
今日は昨日の反省点を話し合うため、少し早い時間に集まっている。
そのはずだが…。
「どうー?似合ってる?」
山村先輩がメイド服を着ており、スカートをひらひらとなびかせている。
「とても似合ってますよ山村先輩」
シックなメイド服に身を包まれた山村先輩。コスプレ感が薄く、本物のメイドに見える装いだ。
「結構本格的なメイド服ですね」
「わかる!?うちのクラスの女子にこだわり強い子がいてさ、お手製なの」
「それはすごいですね…スカートがロングなのもいいと思います」
俺が感心していると、周りから注目を集めているのは俺だった。
「…さて、反省会始めますか」
橘会長が急に真面目になった俺を見て笑う。
「いや、続けていいんだぞ月城くん」
「ダメですよね?というより、なんでメイド服着てるんですか山村先輩」
「んー?月城くんが喜ぶかな?って思ってね」
山村先輩は笑いながら、ポーズをキメている。
佐藤先輩が割って入ってくれた。
「今日1番最初の対応だから着てるんだって」
「佐藤ちゃん言ったらダメだって〜」
生徒会室の空気は穏やかだった。
特に問題は起きておらず、昨日の市長対応もスムーズだったらしい。
というか、いつ来てたんだろう。
「今日は昨日より人が来るから、みんなしっかりやるんだぞ」
「はーい」
俺たちは頷き、席から立ち上がる。
文化祭終了後、また生徒会室へ集まることになっている。
その時までは基本は自由なので、俺は夕の元へと向かった。
一階、特別棟への渡り廊下。
自販機の近くに夕は立っていた。
「おはよ」
「おはよー生徒会大丈夫だった?」
「おう、問題なし」
夕は髪型を変えてきていた。
肩まである黒髪をハーフアップにしてきた。
「今日は髪型違うんだな」
「どう?似合ってる?」
夕は髪を少しだけ触り、見せてきた。
「あぁ、とても似合っているよ」
「ありがと!」
俺は夕が喜んでいるのを見ながら、放送に耳を傾ける。
『これより北高文化祭2日目の開催を宣言します』
生徒会長の声に続けて号砲が鳴る。
吹奏楽の音が聞こえてきており、開幕を感じさせた。
「まず最初にどこ回ろうか」
「そうだねぇ」
俺たちは1枚のパンフレットを覗き込み確認する。
メイド喫茶、お化け屋敷、クレープ屋、たこ焼き屋、俺たちのクラスの縁日など。
何にするか迷っている。
「メイド喫茶行こうよ」
「え?」
初っ端からメイド喫茶か?と思ったが、夕は乗り気だった。
「混む前に行くのがいいと思う」
「なるほど、確かにそうだ」
3年の教室で行われているメイド喫茶へ向かう夕の後ろについて歩く。
つまり…山村先輩がいるということだ…。
「おかえりなさいませー!お嬢様!と月城くん」
到着したあと、山村先輩が出迎えてくれた。
俺は名前で呼ばれるのか…。
「え!可愛い!」
夕が手を合わせて驚いてる。
「嬉しい!ありがとー」
山村先輩は喜び、俺たちを席へ案内してくれた。
夕の予想通り、メイド喫茶には人はおらず俺たちが最初だったようだ。
「オムライスがおすすめだよ月城くん」
山村先輩はソワソワしながら俺に伝えてきた。
「俺はコーヒーで大丈夫です」
「なんでぇ…」
「相馬、オムライス頼んであげなよ」
「いや、コーヒーだけで大丈夫」
俺はその申し出を拒否した。
なぜかというと絶対萌え萌え〜みたいな事をしてくるからだ。
単純に恥ずかしいんです…俺。
「じゃあ私もコーヒーにしよー」
「山村先輩、お願いします」
山村先輩がつまらなさそうにこちらを見てくるが、観念して奥へと向かっていった。
俺は先輩のクラスの様子を見る。
山村先輩をはじめとして、女子生徒の先輩たちがメイド服に身を包んでいる。
「なんかすごいね、衣装本格的じゃん」
「手作りだって聞いたよ」
「へぇ、相馬はこういうの好きなの?」
「うーん…好きな方だけど… なんか装備を見てる感覚に近いかも」
「なにそれ」
夕は笑いながら、近づいてきた山村先輩からコーヒーを受け取った。
俺も受け取り、コーヒーに口をつける。
「次はどこ行こっか」
「お化け屋敷気になるな」
「そういうの大丈夫系?」
夕は少し苦手そうだった。
でも文化祭の企画レベルならそこまでクオリティの高いものにはならないはずだ。
大丈夫だろう。
「おう、行ってみようぜ」
どうやって教室をお化け屋敷にしているかというのも見たいしな。
俺たちはコーヒーを飲み干し、席を立ちあがる。
「ごちそうさまでした先輩」
「来てくれてありがとうね~月城くん」
俺は夕と歩いていく。
するとお化け屋敷の前に見覚えのある人を見つけた。
「お、葵じゃん!」
「お兄…」
「いや、なんで嫌そうなんだよ…」
妹が友達2人を連れ、お化け屋敷の順番待ちをしていた。
「お兄さんお久しぶりですーー!」
「おう、夏休み以来か」
夏休み家に遊びにきていた2人だ。
たしか名前は…来栖さんと藤牧さんだったか。
「今日はありがとうございます。わざわざチケットいただいて」
テンションの高い来栖さんは中学生にしては派手目なファッションをしている。
反対に藤牧さんは礼儀正しい。おとなしめなファッションをしている。
「お兄の縁日も行くから案内してよ」
俺は夕を一目見る。
「いいよー私は。お化け屋敷の後行こうよ」
俺は頷き、順番待ちをした。
前にいる葵たちはヒソヒソ話を始め、来栖さんが俺にとんでもないことを言ってきた。
「お兄さんたち付き合ってるんですか?」
「付き合ってないよ」
「え!でも文化祭2人で回るって結構アレじゃないですか!」
言われてみればそうだけど、違うんだよなこれが。
「違うよー、私と相馬は友達ってだけだよ」
「えー…そっかー…」
来栖さんはなぜか落ち込んでいる。
順番が徐々に進み、妹たちが入っていった。
「キャー!」という悲鳴を聞きながら、俺は夕と並んでいた。
「間違われちゃったね相馬」
「まぁそんなもんだろう中学生って」
「なんか達観してんね」
妹たちが笑いながら教室の後ろ側から出てきたタイミングで、俺たちも入場となった。
教室の前から入り、後ろから出る構造になっており、入り口は黒い布のカーテンで覆われていた。
「失礼します…」
「…職員室じゃないんだから」
教室に入ると、真っ暗だった。
「結構暗いんだな」
「……そうだね」
夕は俺の後ろにつき、制服の肘の部分を掴んでいる。
「足元、気をつけてな」
「……うん」
――ヴァア!!
突然、ゾンビが目の前に現れた。
「うぉおお!」
「っ……!」
俺たちは驚きながら、出口を目指して進んでいった。
「夕、声が出ないタイプの驚き方するんだな」
「……いや、驚いてないし」
制服から俺の腕へと持ち替え、がっちり掴んでいるので説得力がない。
ようやく出口にたどり着き、外へ出た。
「いや、楠木先輩ガッチリじゃん……」
葵が呆れたように言った。
「怖かったみたいだ」
「怖くないし! 行こ! 縁日!」
夕は震え声になりながら、俺を押していった。
いや、クオリティ高かったし怖くてもいいと思うんだけど。
俺たちは5人の集団となり、1-Aの教室へと向かう。
葵は朝イチで来ており、吹奏楽の演奏を聴いて色々回った後お化け屋敷に行くことになったとのことだった。
「結構色々あるだろ、うちの文化祭」
「自慢げなのヤバ」
何がヤバいんだよ。と思いながら歩いていると1-Aの縁日に到着。
「あ!柳姉じゃん!」
「あ!葵ちゃん来てくれてたんだ!」
彩葉に葵が気づき近づく。
「彩葉と妹ちゃんって仲良かったんだ」
「なんかよくLINEしてるらしいぞ」
「へぇ、そうなんだ」
葵の友達も彩葉に寄っていき、射的の説明を受けていた。
「仕事、取られてんじゃん」
「いいんだよ、俺の仕事が省けたんだからな」
結局、俺たちも射的や輪投げを楽しみ、それぞれ景品を手に入れた。
「次はどうする?」
「えっとね……」
葵たちと別れたあと、俺たちはたこ焼きやクレープを食べ歩き、美術部や写真部の展示も見て回った。
気づけば、文化祭も終わりに近づいていた。
「楽しかったね!」
「思ったよりしっかりできてたな!よかったわ」
どうしても生徒会としての視点になってしまうが、よく出来ていると思ったのは事実。
食事も展示もクオリティの高いものばかりだった。
「そろそろ文化祭も終わりだね」
「また、遊ぼうな夕」
「うん!」
夕はいつものように笑った。
またこうして一緒に遊べたらいい。
俺はそんなことを考えながら、生徒会室へと向かった。
まだ、文化祭は終了時間ではないが、先に向かって待っていよう。
そう思い生徒会室の扉を開ける。
「誰もいないか」
中には誰もおらず、俺はいつもの自分の席に座り周りを見る。
生徒会長、副会長、書記、3人の3年生は事実上今日でおしまいだ。
まだ、11月の生徒会選挙前まで在籍しているが、活動としてはなにもない。
俺は3人とは半年しか一緒にいなかったが、色々と学ぶことが多かったと思う。
そんなことを考えていると、生徒会室のドアが開いた。
「あれ、月城くんじゃん」
里中さんだった。
「早いな」
「それこっちのセリフ!」
里中さんはカメラと機材を持って生徒会室に入ってきた。
「今日写真部の活動あるのか?」
「ううん、そういうわけじゃないけど一応みんなで撮りたいなって思って」
「なるほど、いいねそういうの」
「でしょ!」
里中さんは三脚を組み立てカメラを置いた。
「いいカメラだな」
「ありがと!でも、そんないいものじゃないよ。バイト代で買える範囲」
俺もバイト代でカメラを買うのも悪くないな。
親父のお古を持っているくらいだけど、最近使ったのは妹の体育祭くらいの機会しかないが…。
持っていて損はない。
カメラの設置を見ていると、生徒会長たちもぞろぞろと集まってきた。
「待たせたな。みんな」
橘生徒会長。
冴島副会長。
山村書記。
佐藤会計。
濱田執行委員。
里中執行委員。
天沢執行委員。
そして俺、月城相馬。
全員が揃った。
「まずはみんな、文化祭お疲れ様でした」
会長は頭を下げた。
「文化祭は企画の段階でどうなるもんかと思ったが、こうして無事終わることができたな。実際に校内を回ってみるとよく考えられたものばかりだった」
「これもみんなのおかげだ。文化祭を最後までみんなでやり遂げることができた」
会長はどこか寂しそうな顔をした。
「文化祭が終われば、私たち3年の活動は実質終わりだ。あとは次の生徒会の仕事となる」
「みんなが次もやるかはわからん。だけど、このメンバーで過ごせたのは有意義で楽しかったよ」
「ありがとう」
会長の言葉を聞きながら俺はメンバー全員を見渡した。
最初は嫌だった。
学校の代表として活動するなんて、できれば避けたかった。
でも今は、あの頃に感じていた憂鬱さよりも、楽しかったという気持ちの方が大きい。
先輩たちと過ごした時間は、俺が思っていたよりもずっと大切なものになっていた。
「こちらこそありがとうございました」
佐藤先輩が代表して頭を下げた。
「頼むぞ、来年も。…と、言えるほど立派な人間ではないが」
「それでも、期待しているよみんな」
そして、
「出来ることならもう少しこのメンバーで過ごしたかったな」
俺たちはきっと同じ気持ちだろう。
俺たちは頷いた。
里中さんが立ち上がりカメラの前へと向かう。
「みんなで写真撮りましょ!」
俺たちは並び、写真を撮る。
夕日に照らされた生徒会室。
シャッター音と共に、文化祭は幕を閉じた。




