105.開幕の文化祭
文化祭がついに始まる。
1日目は関係者、つまりは親御さんや兄弟が来ることになる。
しかし、金曜日なので今日はプレ開催のような意味合いが強い。
葵は2日目の土曜日に友達と来るとのことだった。
配布できるチケットは3枚、葵とその友達2人に配ることにした。
俺たちは生徒会室に集まり、タイムスケジュールの確認をしていた。
「よし、今日の流れは大丈夫だな?」
生徒会長からの説明で、皆がそれぞれ頷く。
俺は腕章を少し触り、位置を整える。
『生徒会』そう記載された腕章は、生徒会メンバーの8人しかつけることはない。
だけど、それも明日には3人減ることになる。
「では、みんなお願いします」
生徒会長は放送室へ歩き出し、開会を宣言する。
『ただいまより、第43回北高文化祭を開催します』
放送に続いて号砲が鳴り、拍手が起こった。
俺は少し早足で校門付近へと向かうことにした。
吹奏楽の演奏が始まる。
俺は明日は夕と回ることになっている。
縁日で対応する時間まで周ろうと話していた。
今日は、特に何の予定もないがそのくらいがいいだろう。生徒会の対応もあるだろうし。
到着すると、校門から人が入ってくるのが見えた。
「結構人来るんだな…」
俺は人の流れを見ながら呟く。
プレ開催、なんて思っていたが結構な人が入場している。
先生方がチケットの確認を行い、入場した人はすでに、数十人は超えているだろう。
「おう、月城ー」
芦屋が俺に声をかけてきた。
「見にきたぜ吹奏楽」
「おう、朝イチの見るのか?ステージでもやるぞ」
「月城、豊崎に聞いたけど朝の曲とステージの曲は違うってさ。両方聴かないともったいねぇだろ」
朝とステージでは別の曲をやるのは知っていた。
指揮者が手を挙げ、演奏が始まる。
音圧を感じながら、聴き入る。
芦屋は真剣な眼差しで演奏を見ていた。
「なぁ、月城」
「ん、なんだ?」
「すげぇなあいつら」
「そうだな」
芦屋は演奏から目を離さず、俺に話しかける。
きっと、豊崎さんは芦屋に気づいている。
豊崎さんにとっては、今は芦屋に聞いてほしい。そう思っていることだろう。
指揮者が手を下ろすまで、俺たちはそこにいた。
「いやーすごかったわ…」
演奏が終わって片付けてる間、芦屋が豊崎さんに話しかける。
「聞いてくれてて嬉しかった…!ありがとうね」
「ステージも行くからな!」
「うん!」
「あと片付け終わったら一緒に射的やんぞ」
芦屋は豊崎さんを自分の教室へと誘う。
「え!いいの?」
「自分たちで遊ぶのやってないじゃん。やろうぜ」
「やる!…絶対やる」
それを見ながら水野さんは嬉しそうだ。
「嬉しそうだな」
「私見てんの…やばいね」
俺は水野さんの顔を見ていただけだが、やばいとまで言われてしまった。
まぁ、いいですけどね。
「また教室で会おうな」
「うん」
俺たちは簡素なやりとりをして、その場を離れた。
俺の中の吹奏楽。
中学で野球を辞めたが、俺が高校で野球をやれていれば聴けたかもな。
そんなことを思いながら、俺は教室へ向かう。
教室に入ると、彩葉が子供たちに輪投げのやり方を教えているところだった。
「ここを狙ってー、そう!よく出来ました!」
彩葉は幼稚園児くらいの女の子の頭を撫で、景品を渡した。
「ありがとーおねーさん!」
「楽しんでねー!」
子供は景品を受け取り、次の教室へと向かっていった。
「彩葉おねーさん!俺もやっていい!?」
俺は子供の真似をして、彩葉に尋ねる。
「1回1500円ね」
「いや、お金取るシステムじゃないだろ…ちゃんとやってるな彩葉。知り合いの子か?」
「いや、全然知らないよ」
「彩葉って子供に人気そうだよな。ママみあるし」
「…高1の同級生に言うの流石にキモくないそれ」
俺は彩葉に冗談を言うのもほどほどにして周りを見ると、射的や輪投げというのは子供に人気なようで、そこそこ遊ばれていた。
俺がその様子を確認していると、芦屋が教室に入ってきた。
「ういーす。柳、山本と交代の時間だろ?」
彩葉は時計を確認して「もうこんな時間なんだ!」と驚いていた。
「山本に電話するわ」
芦屋が電話をしている間に、豊崎さんと水野さんも来た。
「片付け早かったな」
俺が問いかけると、水野さんは頷いた。
「急ぐ理由があったからね」
「そっか」
俺は芦屋の方にいる豊崎さんを見る。
電話が終わるのを待ち、芦屋に声をかけている。
「なぁ水野さん俺たちも輪投げする?」
「しない」
俺は顔を歪めて、頷いた。
ひどいやつだこと。
芦屋は電話を終え、豊崎さんに話しかける。
「ごめん!電話してた!やろうぜ」
芦屋は射的の銃を持ち、豊崎さんに渡す。
「うん!やってみる…!」
豊崎さんは銃を構え、引き金を引く。
パン!と音がして確認すると、小さなラムネの駄菓子に当たり景品をゲットしていた。
「…やった!取れたよ芦屋くん」
「おぉー!うまいな!豊崎」
2人で小さなハイタッチをしていた。
「いい感じじゃんね」
水野さんは2人に聞こえない大きさで呟く。
そして俺も同調する。
「そうだな、いい感じだ」
景品を持ち、2人はこちらにやってくる。
豊崎さんは芦屋と一緒に遊んでいたことに戸惑っているのか少し笑みがぎこちない。
「えへへ、楽しんじゃった…」
「取れてよかったじゃん、景品」
俺がそう言うと、景品をカラカラと振って見せてきた。
「楽しかったならよかった」
「…うん!」
俺と芦屋、水野さんと豊崎さんはそれから少し話をする。
「それにしてもすごかったわ!吹奏楽」
芦屋が水野さんに向けて話し出す。
「私たちまだ全然だけどね」
「そうなのか?俺すげー感動したぞ」
俺はやりとりを聞きながら、豊崎さんを見ていた。
嬉しそうに、芦屋を見ながら話を聞いている。
最近、芦屋の口から玲奈さんと言う機会が減っていることに気づく。
心変わりはしてないかもしれない。憧れなのか、恋愛的な好きなのかはわからないけど。
でも、文化祭の準備で一緒に過ごした時間は芦屋を変えるものだったのだろう。
俺はもう豊崎さんを手伝うことはないだろう。
あとは見守ろう。
俺は一歩後ずさり、教室を出る。
「なんで行くかなぁ」
彩葉が後ろについてきた。
「ん?彩葉か、なんでとは?」
「いや、今4人で話してたんじゃないの?」
「俺はちょっと違うからな…」
なんとなく芦屋たちと立ち位置が違う気がする。
「なにそれ、相馬が最近仲良くなった3人じゃないの?」
俺は歩きながら、彩葉に説明する。
「いや、俺は豊崎さんと芦屋が話せるようになればそれでいいさ」
「自分は話さなくていい、ってこと?」
「おう、そういうこと」
俺は少し素っ気なく答える。
「……なんか最近変だなって思ってたけど、そういうこと」
彩葉はつまらなさそうに口を開いた。
「水野さんあたりに、2人をくっつけるように頼まれた感じ?」
「いや、そこまでストレートじゃないよ。ただ、豊崎さんが男子と話せるように手伝った。それだけ」
彩葉は「はぁ」とため息をついて。
「それ、相馬がやること?」
「豊崎さんは俺となら気兼ねなく話せるらしいから、ちょうどいいんじゃない?」
「友達とか人間関係って頼まれてつくるもんじゃないと思うけど」
「俺もそれはわかってるよ」
「その結果、相馬があの3人と友達ならいいけど、でも今離れていったじゃん。相馬はそれでいいの?」
「それは…」
俺は役目を終えた、だからもう必要ない。
そう考えているかもしれないな。
豊崎さんは芦屋だけじゃなく男子とも話せるようになった。
副産物にはなるが、芦屋は玲奈さんの名前を出すことが少なくなった。
水野さんの依頼を達成できた。
少し寂しさのようなものはあるが、俺の仕事は終わりだ。
「私は…相馬が色んな人と仲良くなっているのを見て嬉しくなってたよ」
彩葉は前を向いて話し出した。
「1学期とは違って、クラスとも打ち解けてさ、いろんな人と話すようになったと思ってたよ」
「まぁな、でもそれは」
「それは、頼まれたから喋ってたことなの?」
「いや…そうじゃないさ」
彩葉が言っていることは最もだ。
俺は仕事や生徒会の役割で芦屋たちと話してたわけじゃない。
「でも、豊崎さんが話せるようになるのは悪いことじゃないだろ」
「そうだけど…でも相馬は…」
彩葉は俺に思いをぶつけてきた。
俺は少し嬉しかった。俺のことを考えて、見てくれたことが。
「ありがとな、でも大丈夫だよ」
「…なにが?」
「俺も彩葉みたいな友達いるしな」
「意味わかんないし」
俺は今言われたことは理解してるし、彩葉の気持ちは嬉しい。
けど、じゃあどうしたらよかったのか?という問いには答えられない。
「クレープ奢るから、一緒に行こうぜ彩葉」
「いや、それ解決になってないし!」
俺はクレープ屋に向かい歩く、彩葉は俺にやいやい言いながらついてくる。
文化祭のクレープは少しほろ苦い味がした1日目だった。




