104.文化祭前日
文化祭前日の木曜日の放課後。
実行委員の呼びかけで、俺たちは教室に集まっている。
芦屋と彩葉が前に立つ。
「はい、じゃあみんな準備お疲れ様!ジュースは行き渡ったか?」
芦屋は全員にジュースの入った紙コップを持っているのを確認する。
「よし、じゃあ前夜祭!ただジュース飲んで話すだけだけど!乾杯!」
「乾杯!」
「かんぱーい!」
「お疲れ様!」
クラス全体が、準備を終えた安堵感に包まれている。
射的と輪投げの縁日。
1-Aの教室は様変わりし、屋台のような見た目となっている。
俺の隣には水野さんと豊崎さんがいる。
俺はジュースを飲み、2人に話しかける。
「なんだかんだ、色々上手くいったな。」
水野さんが先に反応した。
「まぁね、でも縁日自体そんなハードル高くないし、こんなもんじゃない?」
「相変わらず冷めてんな水野さんは」
水野さんの表情はいつも通り冷たい印象だけど、どこか安心しているようにも見えた。
「結構大変だったよ…!小道具多くて…」
豊崎さんは小道具作りが大変だったようで、水野さんとは正反対の感想だった。
「そうだな、よく頑張ってたよ豊崎さんは」
「なにそれ、私は頑張ってないってことですか?」
笑みを少し浮かべながら、俺に突っかかってくる水野さん。
「いや、そういうことじゃなくてだな」
「ふふ…意地悪言っただけ」
いつも意地悪を言ってくるだけに、普通に返してしまった。
そんなやりとりをしている俺たちのところに芦屋が来た。
「水野!明日吹奏楽見にいくからな」
「ん、わかったよ。頑張るね」
芦屋は首を捻る。
「…やけに素直じゃん。いつもだったら「邪魔するな、来るな」って言うくせに」
水野さんはそんな芦屋に、
「いや、来てもいいけど邪魔はしないで」
「ははは、任せろよ。豊崎さんも明日頑張ってね」
芦屋は気にした様子はなく、そのまま豊崎さんに顔を向けていた。
「…うん!頑張る!」
豊崎さんは今から緊張しているらしい。
もつのか本番まで…。
俺はふと、2人がなんの楽器をやっているか気になったので聞いてみることにした。
「私クラリネット」
「おお、聞いたことある。豊崎さんは?」
「私は…オーボエ」
「知ってるか芦屋」
「あれだろ?強いやつだろ確か」
芦屋の中には、楽器に強い弱いがあるらしい。
水野さんがオーボエについて補足してくれた。
「芦屋、オーボエって結構難しいんだよ」
「豊崎結構すごいってことか?」
「そうそう、豊崎さんはそんな楽器をずっと続けて練習してるんだから。文化祭準備の合間を縫ってね」
「それは楽しみだな、明日」
「緊張しちゃうよ…それに、私まだまだだし」
俺も知らなかったが、話を聞いた感じでは豊崎さんのオーボエは重要なポジションだったらしいし、難しい楽器らしい。
笛みたいな形でクラリネットと似てる楽器、くらいの知識しかなかった俺には為になる話だった。
「あ、俺そろそろ生徒会室行かないとだ」
俺は最終確認のために、生徒会室に向かわないといけなかった。
「おう、行ってこい!」
「本当、ありがとうね月城くん」
「また明日ね」
芦屋と豊崎さん、そして水野さんに声をかけられ見送られた。
生徒会室へ向かう前に、憂華に声をかける。
「憂華、そろそろ生徒会だ」
「あ、もうこんな時間か、行くねみんな」
憂華の周りには女子と男子が複数人いて、気が引かれたが、呼ばないわけにはいかなかったので…。
俺たちは廊下に出て、並んで歩く。
「悪いな、声かけちゃって」
「なんで?時間忘れてたからよかった」
俺は憂華の周りから、「お前、天沢を連れて行くな」という視線を感じまくっていたので、つい謝ってしまった。
「先の話だけど、文化祭が終われば次は生徒会長選挙だな」
憂華は首を縦に振った。
「佐藤先輩出るんだよね?」
「そうだな、そう聞いてる」
「佐藤先輩が生徒会長になったら、副会長は相馬くんになるって聞いてるけど」
「それはあくまでも橘会長の考えで、佐藤先輩がどうするかはわかんないよ」
「なるほどね」
憂華は淡々と話しているが、自分はなりたいとか思わないのだろうか。
「憂華は生徒会長とか副会長とかやりたいってならないのか?」
憂華は、少し悩んで答えた。
「私は…ダメだと思う」
「どうして?」
「その実力がないから…かな」
憂華は当然のことのように言った。
「そんな事ないと思うけど」
「あるよ。1番私の弱さを見てきた相馬くんならわかるでしょ」
天沢憂華の弱み。
人を頼るのが苦手、仮面を被る事。
しかしこれは同時に強みでもあると俺は思う。
それが強みとなった時、きっと憂華は輝きを放つんだろう。
俺はそれが見たいと思った。
「こんな話してたら生徒会室だね」
と言い、生徒会室のドアを開けた。
憂華が生徒会長になる姿、楽しみにしてるぞ。俺は心の中でそう呟いた。
生徒会メンバーが全員揃ったところで、俺たちは打ち合わせを行なった。
「みんなお疲れ様!」
生徒会長は文化祭の最終確認と、当日の動きについて伝達を行なった。
「特に明日は市長が来られる。直接の対応は私と冴島が行うが、生徒会メンバー誰もが対応できるようにしておくんだぞ」
「はい!」
みんなが返事をし、会長を見る。
「文化祭が終われば私たちは受験に忙しくなる」
会長は少し溜めてから、話を続ける。
「短い間だったが、生徒会長として君たちと共に活動できたことを嬉しく思う」
「ありがとう」
会長はみんなの前で頭を下げる。
それを見ていた濱田先輩が声をかける。
「まだ早いですよ。文化祭終わってからにしましょうよ」
「そうだな。よし、私たちの残りの仕事は文化祭を楽しむことだ!」
橘会長はそう締めくくった。
会長は嬉しさも、悲しさも感じさせないような表情をしていた。
会長は今、何を感じているのだろうか。
俺には、よく分からなかった。




