103.2人の想い
文化祭の準備は着々と進んでいる。
射的と輪投げの縁日はある程度完成し、あとは細かい調整や、手続きとなっていた。
「芦屋、これ全部入力するの?」
文化祭実行委員の彩葉は、景品として用意した駄菓子の賞味期限を見ながらリストに入力している。
「そうらしいぞ…大変だろ…」
芦屋はそう言いながらも、入力を続けている。
「芦屋ー!これ配置どうする?来れるか?」
山本から、配置を聞かれた芦屋は席を立った。
「おう!行くわ!…頼む!相馬」
「おう、わかった。やっとく」
今日は生徒会の仕事がないので、手伝うことにする。
彩葉の隣に座り、入力作業を開始する。
俺は物を確認しながら、カチャカチャとキーボードを叩き、リストを作成していく。
「相馬早くない?入力」
「そうか?生徒会でも入力作業は多いからかもな」
俺たちは黙々と入力作業をし、そのままリストを完成させた。
「うい、お疲れ」
「いや、助かったよー!」
結構な量あったが、テンキーしか使わないのでそこまで大変ではなかったな。
「疲れた…」
「そうか?彩葉って普段PC触らない?」
「触らないね!スマホなら相馬よりやれてたはず」
「そうなのか…?」
彩葉は文化祭準備の実行委員として、よくやっていた。まだ多少仕事は残っているが、完成はかなり近い。
「準備よくやってくれたな」
「相馬がいない間も、頑張ったかんね!でも、面白かったよ?」
「ありがとう。それなら良かった」
生徒会で、文化祭方針を決めた甲斐があった。
やりたい事をやる。それが1番のモチベーションになる。
「相馬はどう?生徒会」
「生徒会こそ細かい仕事と、あとは当日だな。当日は少し仕事がある」
「そっか、頑張ってね!」
「おう、楽しみだな。文化祭」
「うん!」
俺は彩葉の手伝いが終わり、豊崎さんに声をかけられる。
「月城くん吹奏楽で相談あるんだけどいい?」
「いいよー、何かあった?」
「あ、ううん、そういうわけじゃなくて…」
豊崎さんは最初の頃より、かなり話せるようになってきた感じがする。
「ちょっと来てもらっていい…?」
「いいよ」
俺は豊崎さんについて行き、廊下の端まで来た。
「あのね…相馬くん。芦屋くんに演奏見てもらいたくて…」
「芦屋…?」
豊崎さんから直接芦屋が好きだという話は聞いてないので、とぼけておく。
「うん…」
豊崎さんは少しずつだが、男子と喋れるようになってきた。そろそろ芦屋に自分から話しかけることも必要なはずだ。
「じゃあ豊崎さん、今回は芦屋に直接頼んでみなよ」
「え?…できないよ…」
豊崎さんが面食らっている。
「いや、俺が芦屋に吹奏楽見ようよって言うのと、豊崎さんが言うのでは重みが違う」
「重み…?」
「演奏してる本人が頼む方が「見なきゃ!」ってなるだろ?」
「たしかに…」
豊崎さんは男子と喋れるようになったが、積極的ではない。
ここからは豊崎さんから話しかけて、頼んだり、お願いしたりする事もやってもらおう。
「…やってみる」
「おう、頑張ってな」
俺は豊崎さんに笑顔を向け、手を振る。
その様子を影で見ていた水野が声をかけてきた。
「なんか…あんたってそういうの上手いね」
「見てたのか。そういうのってなんだよ…」
「豊崎さん最近男子と話せるし、前向きになったように感じる。ご飯食べてるとき、山本の話するようになったからね?」
「まじかよ、それはだいぶ前進してるな」
今まで昼休みに男子の話をすることなんて無かったのだろう。
水野さんにしてみたら、俺と普通に話してるのもそうだし、芦屋に声をかけようとする事だって成長を感じるものだろう。
「…月城くんの、おかげだよ」
「そんなことないよ、俺はなんもしてないからな」
「あっそ、でもありがとう」
水野さんの表情は、少しだけ柔らかくなっていた。
「おう、それよりもほら」
俺は教室の中を指差し、豊崎さんと芦屋が話しているのを遠目から見る。
俺と水野さんは身を潜めながら、会話を聞く。
「あの!芦屋くん…」
「お?豊崎どうした?」
「えっと、あの…吹奏楽!開会後とステージでもやるから…見に来て欲しい!」
豊崎さんは勇気を出して、芦屋に声をかけたのだろう。
芦屋はあっさりと答えた。
「いいぜ、何時からやるんだ?」
「ほんと!やった。えっとね…」
と2人で話をしている。
その2人を見ていた俺たちはすぐにその場を離れた。途中で水野さんと目が合い、お互いに笑みを浮かべた。




