102.先輩への相談
土曜日のバイト。
今日は1日バイトが入っている。
俺はバイトを始めてから、少しずつシフトに入っており、すでに仕事には慣れてきた。
「おはよー相馬くん」
「おはようございます玲奈さん。今日は1日一緒ですね」
玲奈さんがいなくても最近ホールを任されるようになり、少しずつ独り立ちするようになってきた。
「そうだねー、よろしくー」
「月城くん、おはよう。佐伯さん今日レジ教えてあげてほしい」
「わかりましたー」
うちの店のレジは、セミセルフのスタイルを取っている。お金を直接やり取りすることはないものの、対応は必要となる。
「レジ覚えたら、ホールの仕事は全部やったことになりますかね?」
「そうそうー、これで私は必要なくなる。悲しいなぁ」
「いや、必要ですよ」
「私必要?相馬くんにとって必要?」
俺が玲奈さんに絡まれているのを見ていた吉村さんが、ずんずん近づいてきた。
「月城くんいじめないであげてよ!玲奈!」
同じくホールの吉村さん。
玲奈さんと同い年で、玲奈さんとは別の大学の女性。
俺が面接の時、案内してくれた人だ。
「よしむーにはわからないよ…教育係の哀しみは」
「いや、私に教えてくれた時「やっと終わったー疲れた」って言われたの覚えてるからね?」
「根に持ってるーこわー」
「根に持つってほどじゃないけど…」
俺はそのやりとりを微笑ましく見ていた。
2人は仲良いし、ホールでもお互いカバーしあってて良い感じだ。
吉村さんはホール専門で、玲奈さんはホールもキッチンも両方できる人だ。
俺の教育が終われば、玲奈さんはキッチンに入ることもあるだろうな。
俺たちはホールに向かい仕事を始めた。
朝の準備はそこまで多くない。
補充も昨日の夜やってくれてる。
「レジ最初に教えておくよー相馬くん」
「あ、了解です」
「レジっていっても、基本は伝票のバーコード読み取るだけなんだけどね」
玲奈さんはレジの使い方や、レシートの交換、割引券の処理方法を教えてくれた。
「またわからないことあったら聞いてー」
「わかりました、ありがとうございます」
要点を絞って説明してくれるので、分かりやすい。
分からないことも聞きやすい。
こういう人に俺もなりたいと思う。
バイトはいつも通り進み、昼休憩になった。
賄いをもらい、バックヤードの休憩所に向かう。
吉村さんも一緒に休憩だ。
「ハンバーグにしたの?」
「そうです、吉村さんはパスタですか」
「一緒に食べよ」
と誘われ、俺は席についた。
「玲奈はどう?」
「優しいし、教え方上手いですよ」
「そっか!良かった」
吉村さんはフォークでパスタをくるくる巻きながら、ちまちまと食べている。
少し小柄な見た目も相まって、リスに見える時がある。
俺が少し失礼な事を考えていると、吉村さんは「たしか…」と俺に話しかけてきた。
「北高ってそろそろ文化祭?」
「そうです!よく知ってますね」
「私北高出身だから…」
「え!そうなんですか!」
早く言ってくれれば良かったのに…。
接点があると思うと急に話しやすく感じる。
「青山先生…ってまだいる?」
「俺のクラスの担任ですよ」
「え!ほんと?私も3年間担任だったからね」
「すごい確率ですね…!」
あははは、と笑っていると俺は後ろに気配を感じ、振り向くと玲奈さんが立ってた。
「私の相馬くんたぶらかしてる女狐がいるーって通報があったよ?」
それを聞いて吉村さんが反論する。
「たぶらかしてないよ!全く人聞きの悪い」
「玲奈さんも休憩ですか?」
「ううん、まだだけど」
まだなのか、じゃあなんで来たんだ。
と思ったが、そのままホールに戻って行った。
「玲奈はああ見えて、結構月城くんの心配してたからね」
「俺のですか?」
「うん、最近相馬くん元気ないかもーとか嫌われてたらどうしよーとか、言ってたからね」
「全然そんなふうに見えないですけど」
「そういうの隠すからねー」
意外な話を聞いた。
俺の事を気にしたりするそぶりなんて無いから、別にどうでも良い。くらいに思われてると思っていた。
俺は吉村さんと休憩時間を共にし、話をして盛り上がった。
1日のバイトが終わり、俺も玲奈さんも今日は終わりだった。
時間は20時。
「今日ご飯食べて帰ろー」
「いいですよ、どこ行きます?」
「駅近くの居酒屋でもいいー?」
「いいですけど、俺は入れるんですか?」
「飲まなきゃ大丈夫ー」
と言い俺と玲奈さんはバイトを上がって、居酒屋に向かう事にした。
10月も半ば、少し肌寒さを感じながら、居酒屋に入店する。
俺は高校生なので、居酒屋というものには入ったことはなかったが、店内は至って普通。
少し、騒がしい雰囲気を感じるくらいだった。
「私ビールねー」
「じゃあコーラで」
俺はタッチパネルで注文し、店員さんが運んでくる飲み物を受け取り、乾杯をする。
「おつかれーかんぱーい」
「お疲れ様です」
カツン!とジョッキグラスの音がして、玲奈さんは半分くらいを体に流し込んでいく。
「うまぁ…生き返る」
「本当酒好きなんですね」
「好きぃ…」
玲奈さんはビールを片手に、何を食べようか見ていた。
「玲奈さんって居酒屋でバイトはしないんですか?」
「地獄でしょ」
「え?」
「お客さん飲んでるのに、私飲めないの地獄でしょ」
「確かに……。それならコンカフェ?とかは?」
コンセプトカフェ。カフェと名前がついているが、酒を提供する店もあるらしい。詳しいことは知らないけど。
「できると思うー?」
「できると思いますけど…」
「私、酒入って接客とか無理だよー。どうでも良くなっちゃうし」
「結構危険ですね…」
「危険?」
「男の人と飲み会とかあるんですよね?大学とか」
玲奈さんは残りのビールを飲み干して、さらに追加の酒と適当に料理を注文する。
「私の事心配してくれてんのー?」
「まぁ」
「うれしー」
それだけ言って玲奈さんは、電子タバコにスティックを刺していた。
「そういうのは大丈夫ー。ちゃんと記憶はある」
「…そうですか」
「ちょっと引いたでしょー?」
「いえ、大人だなと」
「そんなことないよ」
ポツリと呟いた。
店員さんが追加注文のサワーと、ホッケの開き、だし巻き卵、からあげを運んできた。
「相馬くんはそういう話とかないの?」
「俺はあいにくないですね。そういうの…」
最近あるとすれば、豊崎さんと芦屋の話。
「何か言いたそうだねー、お姉さん話聞くよ」
「…いや、友達の話なんですけど」
俺は玲奈さんに、豊崎という友人には好きな男子Aがいて、そいつと緊張して話せないから俺を含め男子で会話の練習している。
豊崎の友人の水野はそいつの事が嫌いで、好きな理由がわからない。
友人Aは誰にでも優しいけど、最近は先輩に熱を上げており、水野から豊崎の悲しむ姿は見たくない。と相談されてるとの事。
そんな話をした。
「ま、眩しすぎて前が見えないー!」
話を聞きながら、玲奈さんは両手で目を隠し、「眩しい!」と言っていた。
「いや、結構困ってるんですよ?」
「まぁ…そうだろうねー」
玲奈さんは電子タバコを吸いながら、少し考えた。
「でもそれさ、相馬くんにできる事なくない?」
「いや、そうなんですよ。豊崎の練習相手になる事と、芦屋の口封じをするしかなくて」
「……芦屋?」
やべ!!口が滑った。
「あぁ…そういう事。芦屋くんの熱を上げてるのって、私って事なのね…」
「いえ、その芦屋じゃなくてですね」
「だから、相談されたのかぁー…」
「…すいません。気を悪くさせてしまいました」
「いや、全然気にしなくて良いよー。それなら話は別じゃん」
玲奈さんは電子タバコを吸いながら言い放った。
「芦屋くんに興味ないよって私が言えば終わりじゃない?」
「……」
確かに…それで話は終わる。
芦屋の問題は片付く。
でもそれでいいんだろうか。
豊崎さんを傷付けないために、芦屋を傷つける。
それはダメだと思う。
「いや、それは芦屋に悪いです」
「そうだねぇ、相馬くんならそう言うよねー」
玲奈さんはホッケをちみちみ摘んでいる。
「まぁ…わかった」
「すいません」
「謝ることないよー。結構悩んだでしょそれで」
「まぁ…正直俺にできることは豊崎って子と芦屋を近づけるくらいしかやれることはないので」
「そうだね…でもそんなめんどくさい事よくやるねー」
俺はこの事を玲奈さんに言えて、ちょっと心の重しみたいなのが取れた気がした。
「私が相馬くんなら、豊崎ちゃんに手を出しちゃうけどね」
「いや、そんなことできるわけないじゃないですか」
「そうだよねー私そういう人嫌い」
「どっちなんですか…」
玲奈さんは笑いながら、グラスに口をつけた。
「でも、困ったら玲奈お姉さんに相談してねー」
「ありがとうございます…助かります」
俺がコーラを飲んでいるのを見て、玲奈さんが笑っている。
いつものからかうような笑顔だけど、さっきより少し柔らかく見えた。




