101.文化祭を彩る音
次の日の朝、俺は少し教室に行くのが嫌だった。
理由は水野さんに言いすぎたかもしれないと思っているからだ。
俺は学校に到着してから、生徒会室で時間を潰すことにした。
誰もいない生徒会室は静かだった。
俺は自分の席に座って、スマホを眺めていた。
「…そろそろ行くか」
「はぁ」とため息をついて、教室に向かう。
ちょうど予鈴と共に到着した。
憂華と挨拶を交わし、着席した。
「おはよ、今日遅かったね、電車遅延?」
「…まぁそんなとこだ」
俺はそう返したが、憂華は懐疑的な目をしていた。
俺が席に着くと、すぐに先生が教室に入ってきてホームルームを始めた。
「はい、今日はーー」
先生の話をほどほどに聞きながら、俺はぼーっとしてた。
勉強、生徒会に文化祭。そしてバイト。
さらに芦屋と豊崎さんと水野さんの件。
最近こういう頭を空っぽにする時間って無かったな。
俺にはその少しの時間が、安らぎに感じた。
難なく授業が進み、昼休みになった。
俺の昼休みはいつも通りだ。
教室で焼きそばパンを食べる。
隣では豊崎さんがいつも通り、俺に話しかけてくる。
「…月城くん、今日も焼きそばパン?」
「これが美味いんだよ」
「citrus…だよね?」
「ベーグルが有名なんだよな?たしか」
「知ってたんだ…」
1学期に憂華から聞いたからな。
水野さんは俺には、何も話さず黙々とお弁当を食べていた。
いつまでも変な空気のままじゃだめだよな。
俺は少し勇気を出すことにした。
「そういえば2人って吹奏楽部だよな?」
水野さんは俺のことを見て頷く。
「そうだよ」
「文化祭の開幕で演奏って出来たりするか?」
豊崎さんは目を瞬かせ、話を聞いてる。
水野さんが答えてくれた。
「昨日言ってたやつ?」
「そう」
「やれると思うよ。先輩に相談してみようか?」
「…いや、まだいい。今日生徒会長に相談してからにする」
「わかった」
俺たちは必要以上の会話をせず話を終わらせた。
そのやりとりを見て豊崎さんが首を傾げてる。
「…昨日のやつって?」
豊崎さんに向け、俺は文化祭のインパクトが欲しいと生徒会長に言われた事を説明した。
「……そうなんだ、大変だね月城くん」
「そんな事ないよ、水野さんが助けてくれたし」
「いや私、別に助けたわけじゃないし」
豊崎さんはずっと不思議そうに俺たちを見ていた。
「2人なんかあったの?」
「何もないよ」
「何もないけど」
俺と水野さんは2人揃って否定していた。
放課後の生徒会室。
俺は生徒会長に吹奏楽の件を相談した。
「…良い案だ!月城くん!」
会長は椅子から立ち上がった。
「確かに、それはかなり盛り上がるかもしれないな」
副会長も頷きながら肯定してくれた。
「ですよね」
「早速、吹奏楽部に確認してみよう」
俺は会長に連れられ、吹奏楽部のもとへと向かわされた。
「会長、俺も行く必要ありますか?」
「何言ってんだ、原案者が行かなくてどうする」
「そりゃ…そうですけど…」
特別棟にある音楽室。
近づくにつれて楽器の音が大きくなっていく。
今日は文化祭ステージでやる演奏の練習をしているみたいだ。
「失礼します。生徒会です」
個々人が練習している最中で、邪魔にはならなそうなタイミングだった。
「どうしたの?穂乃果」
口を開いたのは3年の部長と思われる女子生徒だった。
「文化祭の開幕後、校門の近くで演奏してくれ」
「…いきなりだね」
俺たちは注目を集めていた。
生徒会が来ている状況で練習が続けられるわけがないよな…。
豊崎さんも水野さんも俺たちを見ていた。
「月城くん。説明してやってくれ」
「本当にいきなりですね…ええと」
俺は文化祭を盛り上げるために、開幕後の演奏を1曲でもいいので、とお願いをした。
楽器を運ぶ必要があること、ステージの時間を遅らせて余裕を持たせる事を提示した。
「なるほどねぇ。よし、みんなはどう思う?やっても良い?」
みんながどうって言われても…と言う困惑を見せているなか。
「私は賛成です」
水野さんが声をあげてくれた。
「私たちの演奏で文化祭を盛り上げられるなら、やってみたいです」
その発言を聞いて、先輩達も「いいかもね、面白そう」と言ってくれていた。
「……私も、やりたい…です!」
驚くことに豊崎さんも、発言してくれた。
それに水野さんが一番驚いている。
「文化祭……盛り上げられるなら…」
その意見が一番みんなを納得させるものだった。
「よし、そうだね。やろうか、先生にも伝えておくね」
「ありがとうございます!」
俺は深々とお辞儀をして、感謝する。
その後水野さんと豊崎さんに目を向け、小さく頭を下げた。
俺はその後、生徒会室へと戻り、ステージの順番を見直すため、みんなで話し合った。
生徒会の仕事も落ち着いた所で、副会長から話しかけられた。
「昨日言われたインパクトの件、よく思いついたな」
「同じクラスの吹奏楽部の子からヒントを貰いましたので」
「そうか、良い友人だな」
水野は友人なのか微妙なラインではあるけど。
感謝はしてるさ。
生徒会活動を終え、俺は憂華と並んで廊下を歩く。
「…今日言ってた吹奏楽部の子って豊崎さん?」
憂華から唐突に聞かれた。
「ううん、水野さんの方」
「へぇ…そうなんだ」
俺たちは下駄箱について靴を履き替えていると、後ろから声をかけられた。
「あ!月城くん!…と天沢さん…」
噂をしていればだ。
吹奏楽部も活動が終わったのか、豊崎さんが声をかけてきた。その横には水野さんの姿もあった。
「おう、豊崎さんたちも終わりか?」
「うん…!終わり。またね!」
今日の感謝を伝えてなかった。
「そういえば、今日賛同してくれてありがとうな」
「全然いいよ…!月城くん色々手伝ってくれてるし…」
「私は別になんもしてないけど」
「いや、そんなことなかったろ…」
「また明日ー」と2人に手を振り、2人を見送る。
俺は憂華の隣に立ち、歩き始める。
「今の流れで2人と一緒に帰らなくてよかったの?」
「…あの2人とはそういうのじゃない」
憂華は頭の上に疑問符を浮かべている。
「いつの間にか仲良くなってると思ってたけど」
「まあ、色々あってな…」
俺は目頭を押さえ、少し揉む。
「相馬くん」
「どうした?」
「なんか疲れてるね」
「そうか?あんまり自分じゃそう思わないけど」
「そう?」と憂華は言ったが、それ以上は聞いてこなかった。
言われてみれば、今日は少し気を使う1日だったかもしれない。
「憂華って人の事よく見てるよな」
「いきなりだね」
「男女問わず人気な理由はそういう所なのか?」
「…いや私に聞かれても」
「そうだよな」
俺は自分のやりとりが変な事に気づいて吹き出して笑ってしまう。
「何!?どうしたの急に笑って」
「いや、今のやりとり面白かったなって」
「全然面白くなかったよ?」
「そうか…?」
俺は憂華とそんな他愛もない話をしながら帰ることになった。




