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トゥッリアの吊り上がった目は、怒りと焦りに満ちていた。
彼女はファウスティーナに歩み寄ると、周囲の目も憚らず、不満げに声を荒げた。
「私たちの結晶が、おかしいのです! 昨日から急に輝きが鈍り、今は灰色にくすんでしまっているのですわ! このままでは、結晶が死んでしまいます!」
「な、なんだと……?」
「あなたがちゃんと魔力を注いでいないからですわ! 私の黄金の魔力は完璧に注がれているというのに、あなたの魔力が足りていないから、こんなことに……っ! さあ、今すぐ来て、ありったけの魔力を注ぎなさい!」
トゥッリアの言葉は、ファウスティーナのプライドをずたずたに切り裂いた。
自分が魔力を注げていない? この私が?
「馬鹿なことを言うな! 私は昨日も十分に……!」
「いいから来なさい! 私とあなたの最高の子を、まさか死なせるつもりではないでしょうね!?」
トゥッリアは無理やりファウスティーナの腕を掴み、引きずっていく。
ファウスティーナの体内では、悲鳴を上げる魔力がギリギリと軋み音を立てていた。
白銀の祭壇に到着した二人の目の前には、トゥッリアの言う通り、生気を失い、灰色に変色しつつある命の結晶が置かれていた。
「さあ、早く! 私の魔力に同調して、あなたの魔力を限界まで注ぎ込むのです!」
トゥッリアは結晶に手をかざし、自身の強力な炎の魔力を勢いよく流し込んだ。
ファウスティーナも慌てて手をかざし、風の魔力を送ろうとする。しかし、トゥッリアの荒々しい炎の魔力が彼女に触れた瞬間——。
「が、あぁぁぁぁぁっ!?」
ファウスティーナは血を吐き、祭壇の前に崩れ落ちた。
「ちょっと、何をしているのですか!? ふざけないで魔力を……」
「痛い……痛い痛い痛いっ!! 体が、内側から燃えるっ!!」
ファウスティーナは床をのたうち回り、自身の胸をかきむしった。
ヴァレリアーナという強力な保護を失った彼女の脆弱な魔力は、トゥッリアの強引な魔力供給に耐えきれず、ついに「決壊」したのだ。
魂が焼け焦げ、二度と修復不可能なレベルで破壊されていく。それは、魔導騎士としての彼女の生命が、完全に絶たれたことを意味していた。
「きゃあっ!? ファウスティーナ様!?」
ファウスティーナの体から漏れ出した暴走した魔力が、結晶に直撃する。
ピキッ、と。
不吉な音が鳴ったかと思うと、灰色にくすんでいた二人の結晶は、無残にも真っ二つに割れ、砕け散ってしまった。
「あ、ああ……私たちの……!」
トゥッリアは砕けた結晶の破片を前に、金切り声を上げて泣き崩れた。
床では、かつて天才と謳われた騎士が、泡を吹いて痙攣している。
最高の伴侶を得たはずの二人の未来は、結託からわずか数日にして、無残な地獄へと変わり果てていた。
───
「……自滅の道を歩んでいるようだな」
星降る天冠のテラスで。
カッシア様は、空中に展開した水鏡の魔法で下界の様子を覗き見ながら、極上のワインを味わうように妖艶な笑みを浮かべていた。
「カッシア様、何を御覧になっているのですか?」
私が温かい紅茶のカップを持ってテラスに出ると、カッシア様はパチンと指を鳴らして水鏡を消し、私に向かって優しく微笑みかけた。
「何でもない。お前の美しい瞳を穢すようなものだ」
カッシア様は私を自身の膝の上に抱き寄せ、私の銀髪に顔を埋めた。
「それよりも、ヴァレリアーナ。私たちの結晶を見に行こう。あれから二日経ち、驚くほどの成長を見せているぞ」
「本当ですか!?」
私は嬉しさのあまり、カッシア様の首に抱きついた。
ファウスティーナとの間で作っていた結晶は、十ヶ月経ってようやくだった。
カッシア様に連れられて神殿の最奥へ行くと、祭壇に安置された私たちの結晶は、わずか二日にして、私の両手でも抱えきれないほどの大きさに成長していた。
透明感のある水晶のような殻の中には、宇宙の銀河を思わせる紫と虹色の光が渦巻き、トクトクと、力強い命の鼓動を刻んでいる。
「すごい……こんなに綺麗で、力強いなんて……」
「お前の愛と魔力が、これほどまでに純粋で豊かだからだ。この子が無事に生まれれば、間違いなくこの世界を導く大魔導士になるだろう」
カッシア様は背後から私を包み込むように抱きしめ、共に結晶に手をかざした。
私たちの魔力が混ざり合い、結晶へと注がれる。それは苦痛を伴う労働ではなく、互いの愛を確かめ合う、至福の儀式だった。
「ヴァレリアーナ。お前に一つ、伝えておきたいことがある」
魔力を注ぎ終えた後、カッシア様は私の耳元で静かに告げた。
「来月、王国最大の式典である『星天祭』が開催される。王族や高位貴族、そして魔導騎士団の幹部がこぞって参加する、国の威信をかけた大夜会だ」
「星天祭……お伽噺で聞いたことがあります。雲の上の出来事ですが……」
「これまではな。だが、今回は違う。私は精霊樹の守護者として、この星天祭の主賓を務める。そして、その場で……」
カッシア様は私の体を反転させ、紫水晶の瞳で私を真っ直ぐに射抜いた。
「私の唯一の伴侶として、お前をこの王国のすべてにお披露目する」
「えっ……!? わ、私がですか!? でも、私なんてただの平民で、貴族の作法も何も……!」
パニックになりかけた私の唇を、カッシア様の柔らかい唇が塞いだ。
甘い魔力の香りが、私の思考を蕩けさせる。
「心配はいらない。作法や踊りなど、私がいかようにでも仕込んでやる。お前はただ、最も美しいドレスを着て、私の隣で堂々と微笑んでいればいい」
カッシア様の瞳には、冷酷な光が宿っていた。それは私に向けられたものではなく、下界で這いずり回っている愚か者たちに向けられたものだ。
「自分たちが何を捨て、誰を怒らせたのか。星天祭の舞台で、あの愚か者たちに、そして腐りきった貴族社会に、骨の髄まで理解させてやろう。お前を虐げた者たちが、お前の足元に這いつくばる姿を、特等席で見せてやる」
それは、甘く、そして恐ろしい復讐の宣言だった。
しかし、カッシア様の腕の中にいる私は、もはや何の恐怖も感じていなかった。
私を愛し、私を守り、私の価値を認めてくれるこの人がいる。
私はカッシア様の胸に頬を寄せ、静かに、しかし力強く頷いたのだった。




