重鎮達へのお披露目
側近候補と婚約者を見極める意味もあったエリアスの七歳の誕生祝賀会が終わり、側近候補と遊び相手も決まって子供達が王宮に移り、そうして催される王が主催の茶会。招かれた者を見れば国を動かす立場のものばかりで、それならば誰もが予想をする。婚約者が決まったのだと。
「ん?」
「どうかされましたか?」
「いや、何でもない」
茶会の会場である謁見室へ案内された者の何名かは、入った瞬間に少しの驚きを覚える。場所は第二謁見室だったが、この第二謁見室へ立ち入った事がある者は今までと内装が変わっていることに気付く。いつの間に、と感心しているうちに招待者は揃い、主催である王がやってくる。
誰もが口にしないままエリアスの婚約者の事を考える。多くの者の予想はエインハイム公爵令嬢のアデリナだった。他国との関係は現状問題ない上に、年齢の合う王女がいない。となれば国内。エインハイムは大分遠くなったとはいえ一応王族公爵、加えてアデリナは魔女であるためにエリアスとの接触が可能。予想というよりも、正確に言えばアデリナ以外に考えられなかった。
「なんと……ッ」
だが、婚約者として紹介され現れたのは、エリアスにエスコートをされているジレアウト侯爵家のヒルデガルトだった。
エリアスと触れ合える高位貴族の令嬢。まずはそれがその場の貴族達を驚かせた。その場で魔力測定も行われ、魔女でないことも証明されれば、驚きは混乱と歓喜へと変わる。何故触れ合えるのか。だがこれで血統の問題は解決する。
「この場にヒルデガルト嬢を招いたのはもう一つ通達すべきことがあるからである」
感情がまだ落ち着かないうちに、王はさらに驚くべき情報が開示していく。
「ヒルデガルト嬢は勅令でもって魔術師第五位と相成った。その実力はゲオルク翁とミュラー伯も認めるもの。すぐにでも第一位へと上り詰めるだろう」
「その年で……!」
「では殿下と触れ合えるのも、魔術によってか……?」
「ゲオルク翁達が認めているとは……それは……」
驚きにささめく貴族達へ最後の衝撃が落とされる。
「ゲオルクとミュラーだけじゃなく私も認めているぞ。なんせこの私が弟子にした唯一の子供だ」
声と共に突然その場に現れたのは、豊かな黒髪をなびかせて黒いレースのドレスを纏った美女。
「ゲルトルート様?!」
「こ、この方が?!」
国の賢者にして魔女のゲルトルートの登場に、いかに普段冷静沈着な者達も流石に小声ではない声をあげた。
「何故、と思う者も多いだろう。そもジレアウト侯爵家には普段私が暮らす場所を提供してもらっていてな。その縁もあってヒルデガルトと知り合ったのだ。いや、いい掘り出し物だった。まさか齢三歳にして魔力差を無きものにする術を考え付くとはな。その才能には驚いたものだ」
まずはジレアウト侯爵家の意外な事実に、貴族達は当初何故この場にいるのかと疑問に思っていたジレアウト侯爵を見る。今まで気配を極力殺していた侯爵は、居心地が悪そうに一礼した。
そしてさらには、魔力差を無きものにする術。それはまさに、エリアスの為に国が求め探していたものだ。それを三歳で、というにわかには信じられない内容に、けれど発言者が発言者だけに、そして実際にさっき見た光景ゆえに信じざるを得ない。
「我が愛弟子よ、エリアス殿下との婚約の運び、国の賢者としてだけでなく師匠としても祝福しよう」
「ありがたきお言葉」
ヒルデガルトが静々と礼をとる。それを満足げに見たゲルトルートは、用意された椅子にどかりと座り込むと混乱の極みにいる貴族達へ悠然と笑いかけた。
「どうしたどうした、お前たち何をそんなに固まっている。国を動かす大貴族達だろう? ほら、もっと寛げ、そしてヒルデの魔術を堪能しろ。ああ、言いたい事があるなら今だぞ。フランツ陛下、構わんよな?」
「ああ、勿論だ」
まるで茶会の主催者のように堂々と取り仕切り気軽に王へと声をかけるのは、常にはおらず、国難の時に現れては解決へと導く、半ば伝説となっている存在。
この場にいるのは国の中枢を担う貴族だが、それでもゲルトルートと直接顔を合わせたことがある者は少ない。それほど稀で強力な存在がこの場にいる事と『愛弟子』の発言に、貴族達は頭の中で必死に考え計算する。
「失礼ながら、ヒルデガルト嬢の魔術とは何なのか、私には把握出来ていません。ジレアウト侯爵令嬢、もしよろしければご説明を願えますか?」
諸々の事情を事前に教えられていたがゆえに始終落ち着いていたエインハイム公爵は、微笑みながらも試すように問いかけた。
それを受け、ヒルデガルトは美しく微笑み返した。
「お答えしますわ。私が作り上げ、そして現在展開しております魔術は、この空間。それぞれの魔力を登録し、該当する魔力の者以外は侵入を禁止するというもの。」
聞いた貴族達は少し眉を顰める。既に似たような魔術はそれこそゲオルクが作り上げて色々なところで使用されている。それではヒルデガルト独自の魔術とは言えない。
ヒルデガルトの魔術師という肩書とゲルトルートの愛弟子という立ち位置は、王太子妃としての箔付けなのかもしれない。貴族達がそう考えたところ。
「私としては家族や親しい仲の者が楽しめる使われ方を想定していたのですが。少し、解いてみましょうか」
魔術が解かれる。同時に、見ていた景色が変わる。
「内装が……ッ」
「これは、今までの第二謁見室……?!」
貴族達にもう何度目になるかわからない衝撃が走る。天井からするすると幕が落ちるように景色が変わる。壁が、置物が、床が。
変化がすべて終わった後、エインハイム公爵が「なるほど」とヒルデガルトに深く微笑んだ。
「先ほどまでの景色は第一謁見室ですね。つまり、該当者以外の進入禁止に加え、空間の記録と再現、これがなされていたと」
「その通りですわ。正確に言えば再現ではなく再構築ですね。記録した空間と魔術を展開する場所が同一の広さ、同一の形状とは限りません。となれば、展開するその場所の空間も記録して差異を比較検証し、馴染むよう違和感の無いよう調整をした上で再現に近い再構築をしております」
誰かがごくりと喉を鳴ら唾をのんだ。そうでなくとも、国を動かす貴族達はこの魔術の可能性を考え、早くも頭の中で活用法を考え始める。これは間違いなく『使える』魔術だ。
「魔術庁への報告と登録は?」
「既に。この魔術でもって第五位を頂きましたので」
「そうでしたか……ご説明ありがとうございます。魔術師ヒルデガルト殿」
その発言は、エインハイム公爵がヒルデガルトを正真正銘の魔術師であると認めた証。重鎮の一人である公爵が認めれば、後はそれに倣うように認めていく。いや、この魔術を見て先ほどの淀みない説明を聞けば認めざるを得ない。箔付けではなく、真実力ある令嬢なのだと。
侯爵家という家格の足りなさを補って余るほどの事実が並んでいた。まず何よりもエリアスと触れ合え問題の無い子をもうけることが出来るという事。頂点となりうる実力を有している魔術師という事。さらには国の賢者にして魔女ゲルトルートが後ろ盾という事。
これは最早進言を検討する余地もない。むしろ何としてでも国として囲い込まなければならない。この場に招かれた者達の考えた末は同じだった。




