初めまして、共犯者です
話が違う。
それはここにいるエリアス以外の子供達が思っている事である。
「ジレアウト侯爵家のヒルデガルトだ。私の弟子で、現在第五位の魔術師。肩書ばかりは整ったが礼儀作法はまだまだでな。そういう点でもお前達が支えてくれるといい」
王妃主催の茶会でヒルデガルトを紹介しているのは、王妃でもジレアウト侯爵夫人でもなく、国の賢者、魔女ゲルトルートだった。
(良くも悪くも目立たない、特別な力を持たない平凡な子って言ってたじゃない、お父様の嘘つき!)
(ジレアウト侯爵家なんて国内有数の小麦の生産地ってこと以外特徴がないはずだったのに、国の賢者が庇護してる?!)
(ゲルトルート様を師に持つ魔術師って、第五位魔術師って、もうそれだけで俺達と別次元じゃないか!)
(何だ、エリアス殿下と触れるから仕方なくかと思ったら仲が良さそうじゃないか! うん、良かった!)
アデリナが、シュテファンが、ティーロが心中叫びながら目配せしている中、ヴィクトルだけは呑気に「良かった良かった」と力強く頷いていた。
そんな彼らと向き合っているヒルデガルトもまた。
(噓でしょう、交流って親達に見つめられながら皆でお茶飲んで当たり障りのないお喋りするだけ? それだけ?! エリアス様と愉快な魔術実験は?!)
話が違う、と仮面のように固まった笑顔でエリアスを見る。
(……多分、話が違う、と思っているんだろうな)
困惑する子女達とヒルデガルトの作られた笑顔を見たエリアスは、ざっくりと全員の心境を読み取っていた。
「……母上、皆ゲルトルート殿を前にして緊張している様子。ここはやはり子供だけで交流をとらせてもらってもよろしいですか?」
「そうね……いいでしょう。この庭園内なら問題ないわ」
そうして大人と子供で別れる事となる。
大人は多少の席の移動はあったが、座ってお茶を飲みながら子供達を見て、そして子供達は親から少し離れたところで集まって、けれどまだ誰も喋れずにいた。
「……さて」
切り出したのは、エリアス。
「通り一遍の挨拶と紹介はしたが、今後を考えればもっと深く互いを知った方がいいだろう。ヒルデガルト、彼らの家とは交流は?」
「ありませんね。では改めてご挨拶を。どなたもお初にお目にかかります。私、ジレアウト侯爵家のヒルデガルト・ノル・パシュケルトと申します。エリアス様とは共犯者です」
「は?」
思わず口に出してしまったのは誰だったか。もしかしたら全員かもしれない。
「言うのが早すぎないか?」
「こういう情報は早急に開示するべきです」
「まぁそうか。とはいえ言い方があるだろう」
「エリアス様に脅迫されたと言えばよろしいので?」
「……いや、共犯だろう」
「間違った言い方ではなかったと確認できて何よりでございます」
ぽんぽんと気軽に会話をし始めた二人を、アデリナ達は呆然と見ている。
なんか既に仲がいい。その事実が子供達の頭に疑問符を浮かばせた。
エリアスはその立場と体質からあまり同年代の子供達と付き合いがなかった筈だ。だからこそ、側近候補であり遊び相手でもある自分達が一番エリアスに近い存在だと思っていた。いや、実際自他ともに認める近しい存在だろう。
それなのにこの二人の気安さはどうだ。
そして何より、共犯とはどういう意味だ。
「……殿下、そこまで口にされたのなら、一体どういう意味での共犯なのかご説明ください」
その場を代表してアデリナが言えば「何だ、急に格式張って。いつも通りに振舞っていいんだぞ」とエリアスが小首を傾げる。もっともな意見だが、今はそれどころではない。
「簡単に説明するとな、ヒルデガルトが私と問題なく触れ合えるという事がわかった時点で、これは逃してはならないと思って、ちょっと魔術拘束をした」
「殿下?」
「そしたらヒルデガルトが喜んで……」
「語弊がありますわぁ?!」
「お互いの利益の為に手を組んで陛下に黙って魔術契約を結んだ」
「殿下?!」
「まぁすぐに見つかったから、ヒルデガルトと一緒に大人達を言い包め、そして正式に婚約者となったんだ」
「エリアス様、皆さまの顔色がおかしくなりましてよ」
「何故だ」
「何故も何もないでしょ馬鹿じゃないのエリアス……ッ!」
アデリナは言いながら頭痛に耐えるように片手を頭に添えた。それとほぼ同時にティーロは肩を震わせて笑い出し、シュテファンは無言で天を仰ぎ、ヴィクトルは笑顔で「うん、やはり仲が良いみたいで何より!」と頷いていた。
「エリアス殿下が、そんな行動、とるなんて……ッくく! いやぁ、それ見たかったなぁ!」
「……ッ笑い事ではありませんよ! 殿下、何という事を! ジレアウト嬢も! よく罰せられませんでしたね?!」
「誠実に事情を説明して理解していただきましたので」
「あれを誠実と言ってはいけないのでは?」
「お黙りになって、共犯者様」
やはり仲が良いとしか思えないやり取りに、ティーロは最早はっきりと声に出して笑い、シュテファンは両手でもって頭を抱えた。
「……とりあえず、ヴィクトルじゃないけど、お二人が良き関係を築けているようで何よりですわ……良き、良き関係……? そう言っていいのかしら……?」
アデリナは形ばかり取り繕うとその場をまとめるが、言いながら自分でも小首を傾げている。だって関係が良いということと良い関係ということは別なのだ。
「エインハイム嬢、考えたら負けだ。俺はもう今後もこの二人を見て楽しもうと決めたよ」
「不敬だぞティーロ!」
「どうしたシュテファン、落ち着け」
「落ち着かせないのは殿下達ですねぇ!」
この中で一番礼儀作法と階級が頭に叩き込まれているシュテファンの叫びは、しかし一番肝心なエリアスとヒルデガルトには欠片も届いていなかった。きょとんとしている二人は何処か似た者同士なのかもしれない。そう感じたアデリナがふと気づいてヒルデガルトに尋ねる。
「そういえばジレアウト嬢、貴方の利益とは何ですの?」
先ほど、お互いの利益の為に手を組んだ、とエリアスが言っていた。エリアスの利益はわかり過ぎるほどわかる。だが、ヒルデガルトは?
アデリナとシュテファンは少し身構える。自身の権力欲や自領への贔屓を目的としているのなら、それ相応の対応と関係を選ばざるを得ない、が。
「……不敬と仰らないでくださいます?」
大分聞きたくなくなる発言だ。アデリナは流れとして「もちろんです」と返した。棒読みのようだったが問題は無いだろう。
「エリアス様の有り余る魔力で、少々、実験をさせてもらおうかと」
ポッと頬を染めて嬉しそうに恥ずかしそうに微笑むヒルデガルトに、ティーロは噴き出し、ヴィクトルは意味が解らなそうに笑顔で首を傾げ、そしてアデリナとシュテファンは笑顔を凍らせた。
――そうだった、魔術師だった。
悪人ではないのかもしれない。話もしやすいかもしれない。何よりエリアスとの仲も良好。これからを考えればまぁ文句は無い。文句は無い婚約者の筈なのだが。
何故かエリアスと相乗効果で振り回される未来が見えた気がした、アデリナとシュテファンだった。




