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ヒルデガルトは魔女の呪いに打ち勝つか?  作者: 柳瀬あさと
4、魔術師達は魔術の先を切り開けるか?

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魔術の先への招待

 父と子の初めての交流を皆温かく見守っていたが、それだけではいられないのが実験の実施側である。


「ミュラー、予測時間まであと二十」

「! 陛下、恐れ入ります。交代していただきます」


 ゲオルクの声にミュラーが素早く反応して王に下がってもらい、自身が「失礼します」とミュラーがエリアスの肩に触れる。


「五、四、三……」


 ミュラーが触れたまま、ゲオルクの読み上げが響く。


「零、一、二……」


 零までいった数字が今度は増えていく。と、部屋の空気の雰囲気が一瞬変わる。


「術式崩壊!」


 ミュラーの叫びと同時に、エリアスは普段の魔力がぶつかる感覚が戻ってきたことを確認し、さっと身を引いてミュラーから距離を取った。


「誤差三で確定です」

「よし、想定範囲内だ」


 ヒルデガルトとゲオルクが頷き合って、そしてミュラーが実験の終了を告げる。


「今日はご協力いただきありがとうございました。魔力の衝突と同時の放散に関する実証実験はこれで終了となります」

「短いな」


 王が眉間を揉みほぐしながら言えば、ミュラーが「はい」と答えた。


「今回はあくまで効果の実験でしたので、耐久性と持久性に関しては今後の課題となります」


 それだけではない、術式の短縮と縮小化、起動停止機能の付与、まだまだやらなければならない事がたくさん残っている。

 それでも王は満足げに笑んで頷いた。


「うむ、引き続き研鑽せよ。今日は見事であった」

「ありがたきお言葉」


 ミュラーが礼をとるのと同時に、ヒルデガルトとゲオルクも礼をとる。それを待ち構えていたかのように、実験室の扉がノックされて王宮からの使いが王へと時間を告げる。どうやらかなり無理をしてこの時間を作り出したらしく、もう次の予定まで時間が無いようだ。

 王がエリアスと笑顔で少し話をしてから退出すると、魔術師達はすぐに完全に魔術師の顔になって話し始める。エリアスはそんな魔術師達を見ながら、大きく息を吐いて空いている椅子に座り込んだ。


「意外と持ちましたな」

「そうだな、想定範囲内とはいえいい上振れだ」

「となると、やはりこの術式なら魔力の量に左右されない、と思ってよろしいですわね」

「通常時はそうでしょうね。後は殿下が魔術を使われた時にどのような反応になるのか」

「魔術に触れた時もだな。やはりまずは耐久性か」


 王に褒められた事など無かったかのように、浮かれた空気もなく魔術師達は話しこむ。これから先の事を考え始める。


「……ヒルデガルト」


 エリアスは魔術師達を見ながら立ち上がり、まずはヒルデガルトの名前を呼ぶ。


「はい」


 ヒルデガルトが返事をしながら振り返れば、ゲオルクとミュラーも一度口を閉ざして振り返る。


「ゲオルク殿も、ミュラー伯も……本当にありがとう」


 その美しい目はもう濡れていない。けれど少し目元が赤かったし、声は少し詰まっていた。


「殿下……」


 王からの言葉を貰った時よりも、どうしても九歳の真摯な言葉は憐れみが出て胸を打つ。ゲオルクとミュラーが微笑みながら口を開こうとした瞬間。


「あらエリアス様、そこはまだ魔術が完成していないのかと叱責するところですわ」


 ヒルデガルトが腰に手を当て鼻息も荒く宣言した。


「ヒルデガルト嬢……」


 ゲオルクがくくっと笑いミュラー伯が呆れながら額に手をやったところで、ヒルデガルトは「だって!」とさらに続ける。


「これはまだ過程です! ええ、わかっております、必要な過程だという事は。よろしくて、エリアス様。今回の魔術はあくまで第一段階。私が展開している術は常時発動の人固定、今回の魔術は条件発動の場所固定、そして目指している魔術は常時発動の物質固定です。いつの日か完成した魔術を指輪に固定し、その指輪をエリアス様が身に着けてこそ、この魔術は完成となるのです。それが最終目標です。その目標へと我々はさらに一歩近づいただけなのです。エリアス様、どうぞお任せください、必ずや魔術を作り出してあなたを自由へとお招きいたします。その時こそ陛下とぎゅうぎゅうとこれでもかと抱きしめ合っていただきますわ!」


 舞台役者のように大げさに礼をとれば、ヒルデガルトが悪戯っぽく笑う。それは初めて会った時と同じ笑顔。二年前だ。たった二年でここまで来た。知らずにエリアスの頬がほんの少し緩む。父親との抱擁を想像して、というのも理由の一つだが、それ以上に。


「ヒルデガルトが言うと本当にそうなる気がするな」

「気がする、ではありませんわ。必ずします!」


 自信に満ちた笑顔は淑女のものとは違うのに、何処までも心に焼き付く美しさだった。


「……わかった。それとヒルデガルト」

「はい」

「エリアスでいい」


 唐突な話の変更に、その場にいた者の全員が目を丸くする。


「は……」


 何を言われたのかよく分からなかったヒルデガルトが返事とは言えない声を漏らせば、エリアスがさらに続ける。


「敬称はいらない。ヒルデガルトには、エリアスと呼んでほしい」

「は、はい……?」


 何故そんな事を言われたのかわからないヒルデガルトが、それでも了承の返事をすると、エリアスが近付いていつもと同じように左手でヒルデガルトの手を取る。そしていつもとは違い右手でヒルデガルトの頭に触れる。

 初めて父に頭を撫でられたその感触を思い出すように、そっと優しく撫で、そしてそのまま手をおろして頬に触れる。

 常とは違う婚約者の行動にヒルデガルトは混乱して固まる。そんな様子を見たエリアスは、ふ、と溶けるように微笑んだ。


「ありがとう」


 美しく香り立つような微笑みに、気づけばヒルデガルトの顔は真っ赤に染まっていた。


「い、いえ……」


 部屋の中にいるゲオルクもミュラーもそれとなく二人から視線をそらしている。何なら護衛達も不自然に天井を見たりしている。

 そんな周囲の様子に気が付かないヒルデガルトが……。


(何何何?! 何事?! びび、美形の本気の笑顔の破壊力、もの凄いですわぁ?! もう! いきなり芸術品を目の前に置かれたら動揺してしまいますわ!!)


 などと考えていた事は、いや、自分で動揺の原因を無理やりそうなのだと分析していた事は、誰も知らない。




 * * *




 後日、王が宮廷内の会議で重要事項として二つの事を伝える。一つはエリアスの現状、魔力差を無いものとする魔術の部分的実験の成功。


 そしてもう一つは、王妃の懐妊。


これで4章終了です。

ストックが無くなったので、ここから少しペースが落ちます。恐らく週に2~3回位の更新になるかと。

少しでも楽しみにしてくれてましたら、ゆっくりにはなりますがこれからもお付き合いください。

(2026/06/01)

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