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ヒルデガルトは魔女の呪いに打ち勝つか?  作者: 柳瀬あさと
4、魔術師達は魔術の先を切り開けるか?

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最優先すべき事

 ジレアウトの後継者交代は問題なく進められた。

 必要な確認事項も署名も躓くことなく済んでしまえば、後はヒルデガルトは家族の時間を楽しんだ。

 昼間は両親とともにルーカスを愛で、夜はギリギリまで魔術研究をし、仲間たちへの手紙を書いては街へ出てお土産も買ったりした。


「……それでは、王宮へと戻りましょう」


 そしてジレアウトを出発する日はやってくる。


「ヒルデガルト……」


 クラウディアはいつの日か送り出した時と同じように涙ぐみながら、ヒルデガルトを包むように強く抱きしめる。


「くれぐれも……くれぐれもッ礼儀正しくッわかっているわね……?!」

「お母様苦しいです苦しいです、ここは感動の場面の筈です指導の場面ではありません」

「寝る前にベッドの上でパイ菓子を貪る子供への言葉は指導以外ありません」

「ゲルトルート、本当に王宮では屋根に登っていないんだな? 信じていいんだな?!」

「大丈夫だよカール坊や、王宮でやらかしたのは果物の手掴みと夜更かし位だ」

「お師様?! それは言わなくてもい……お母様苦しいです苦しいですどうしてお体の不調を押してまで娘を抱き潰すのです!」

「母の体の不調を心配するなら淑女教育と王子妃教育を早く完璧に身に着けて頂戴!」

「侍女とメイドにしか見つかっておりませんから大丈夫ですお母様最早痛いです!」

「侍女とメイドに見つかっているという事は上に伝わっている事と同意だと思いなさい!」


 周囲の温かい視線に見守られながら涙々の別れの挨拶をしてヒルデガルト達は馬車に乗り込む。


「ヒルデガルト、後継者は変わったがお前は間違いなくパシュケルトの子だ。殿下の問題を解決した時にもしも婚約者の役目を辞する事となっても、安心してここへ戻ってきなさい」


 カールの言葉は確かに父としての優しさと愛で、それを聞いただけで何かが満たされるのを感じ、ヒルデガルトは満面の笑みになる。


「ありがとうございます、お父様。けれど私は決めたのです。婚約者であろうと婚約者でなくなろうと、魔術師としてエリアス様を支えようと」


 カールとクラウディアの顔が驚きに満ちる。

 まだ九歳の子供。けれどその顔は人生の目標を定めた大人のように強く輝いている。

 もっとずっと手元にいると思っていた。まだまだ教える事があると思っていた。何もかもを知っていると思っていた。

 だがもうそうではない。ヒルデガルトにはもうヒルデガルトだけの世界が広がり、選び、進んでいる。

 心を痛めるべきではない。旅立つ娘に見せるのは寂しさではなく誇らしさの方がきっと相応しい。


「……ヒルデガルト……そうか。そうか、わかったよ、ヒルデガルト。それなら私達はなお一層のこと応援しよう」


 だからこそカールもクラウディアもヒルデガルトと同じように笑顔を見せる。餞として心の支えとなるよう。

 両親の笑みを受け取ったヒルデガルトは満足げに頷き、そして声高く告げる。済し崩し的に打算塗れで出発した以前と違い、本当の意味での旅立ちの言葉を。


「行ってまいります!」


 王宮へと向かう馬車が動き出す。爽やかな青空が広がる冬の日だった。




 * * *




「最終的には常時発動の物質固定の魔術で、常に身に着けていられる装飾品に固定するのが望ましいかと思いますわ」


 王宮へと戻ってきたヒルデガルトは、皆との再会を果たした後、今まで以上に積極的に教育に力を入れた。魔術研究の時間を今まで以上に得るために。

 そうして訪れた魔術研究の時間に、術の分析が終わった魔術師達は今後の予定を決めるために話し合っていた。


「そうだな、それがいいだろう。指輪か首飾り、あとはブローチか……」

「殿下の体質が有効になる時もあるでしょう。それを思えば取り外しを即座に出来る指輪では?」


 どの装飾品がいいかと考え始めたゲオルクにミュラーが意見を述べれば、ヒルデガルトもゲオルクも頷く。


「確かにな。指輪ならば盗られにくくもある。よし、指輪に固定することを最終目標としよう」

「それでは段階を踏むとしても、まずは設計図作りですね。私のこの術から機能していない部分と無駄な部分を削除していった設計図を作りますわ」

「たたき台はヒルデガルト嬢が作るといい。その後で皆で整えよう」

「ええ、よろしくお願い致します!」


 魔術師達は設計図を作っていく。ヒルデガルトの作ったたたき台を元にゲオルクとミュラーが修正と追加をし、ゲルトルートが助言をしていく。

 その設計図が完成すれば次は計画だ。


「部分ごとに魔術を分けた方がいいでしょうね。新規の効果がある部分が多すぎます。最終的には複合魔術として登録しましょう」


 魔術庁の長でもあるミュラーが設計図を見ながら言えば、ゲオルクが「丁度いい」と口を挟む。


「ついでにそれ等の登録でもってヒルデガルト嬢の位をあげてしまえ。いつまでも五位では格好がつかないだろう」

「私は部屋が使えて資料を自由に閲覧使用できるなら特に位をあげなくても構いませんが……」


 一位も五位も権限に大して差はない。では何が違うのかと言えば責任と発言権だ。面倒は増えるが王宮への意見が通りやすくなる。


「ヒルデガルト嬢は今後、王子妃や王太子妃となるのだろう。その時に五位の魔術師と一位の魔術師では魔術師の立場の強さが違うだろうよ。王子妃王太子妃としての都合を優先せよ、と言われても、魔術的に問題がある場合、五位よりも一位の方が魔術師としての強い意見を言える。上の位が取れるなら取っておいた方がいい」


 実際にこの術だけ見ても一位の資格は充分だ、とゲオルクが言えば、ヒルデガルトはなるほど、と納得する。

 そんなおまけのような事も考えながら計画は決まっていき、それが国王の元へと報告されれば、国王が命令を下す。



 ヒルデガルトの教育の一時中断。魔術師として魔術創造を最優先せよ、と。

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