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気まぐれ異世界遊戯  作者: yoshi
第五章 極悪貴族と姉妹の幸せ
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嘆きのレナ


「ふん、考えおるわ。」


ランシアたちが去った後、タイタンはすぐに準備にとりかかった。ランシアの話を聞いて一番驚いていたのは、タイタンでもカシワでもなく、レナであろう。ランシアは既にレナの”正体”を見抜いていた。そのうえで、改めて今度は”本当に”レナに仲間になってくれるよう心をこめてお願いした。


今残っている部下達もタイタンを手伝う。ランシアからの提案内容は、貴族としての常識や慣習には全くそぐわないが、作業内容としては至極単純なものであった。


タイタンがゴクアに代替するこの地をおさめる貴族として、立候補する事、既に王宮宛とゴクア宛にその旨を記した手紙を用意してある事、タイタンが了承さえすれば、その手紙はすぐにでも送付されること、そしてミラージュを助ける方法とノルヴェ村での催し物・・


王宮宛の手紙は無論、貴族としての立候補の要望を記した内容だが、ゴクア宛は内容が異なる。ミラージュがゴクアの手のうちにある間は、正面切って裏切りを宣言するのは早い。内容は当たり障りのない業務報告とゴクアからの今後の行動についての指示を仰ぐ内容が記載されており、気づかなければ何の変哲も無い只の業務報告書だ。


この手紙の目的は主に二つ。一つはゴクアからの返信をもらうこと。返信文の中身はどうでもいい。大切なのは貴族なら慣習として必ず記載する手紙へのサインだ。ゴクアのサインはこの後、大いに利用する事になる。もう一つは、ゴクアが普段タイタンに命じている内容が手紙という形で残る事。これはゴクアがノルヴェ村に対して行っている事の証拠として後々使用する事になる。


そしてタイタンはもう一つ準備にとりかかる。既にニーナが用意してくれたパイプと木材で枠組みを造り、そこに屋根をかぶせる。屋台の出来上がりだ。こうして出来上がった屋台を村に並べ、一つの屋台につき、一つのガスを用意する。ノルヴェ村が、みるみるうちに祭りの雰囲気につつまれていく。極めつけは大量に摘んである木箱だ。箱の中には打ち上げ花火が入っている。


この世界ではまだ希少価値の高い打ち上げ花火だが、ニーナが苦心して集めてくれたものだ。ノルヴェ村の住人達が事情聴取から解放されたときに、村全体で、そして周囲の街や村、王都の役人までも巻き込んで盛大に祭りを行う。間違いなく世間からの注目は一気に集まるだろう。ゴクアはもはや、村を焼き討ちなどとは言ってられないし、今までのような圧政も出来なくなる。


力づくで祭りを排除すれば、敵対貴族から足下を救われるし、世間から一斉に非難を浴びる事になる。ただでさえ、マゼランやディアナのおかげで主要な街の至る所で様々な噂が飛び交っているゴクアにとって、今世間を敵に回す余裕は無い。


だがタイタンにとっての一番の関心ごとは、やはりミラージュの件だ。


「レナとやらが上手くやってくれる事を願うしかないか。」


タイタンのつぶやきを部下が素早く察知して、相づちをうつ。


「しかし、驚きましたね。ゴクアが既にそこまで手を打っていたなんて。」


「ああ、まさか連中の一味のレナとか名乗る女がゴクアの部下だったとはな。諜報員か・・リニアやチューギーを助け出したやつらを既に割り出し、仲間の振りをさせていたとは、ゴクアも手の込んだ事をするものだ。どうやら我々もこの村もライラが逃げだしたときから目を付けられていたらしいな。だがまだ勝機はある。レナが俺と同様、ゴクアに何らかの弱みを握られて無理矢理従わせられている可能性は高い。」


「全てはレナとか言う女が、最後にどちらの側につくかで勝敗は決まるということですか・・ですが、これは危険な作戦ですぞ。失敗したらミラージュ殿の身が危険に晒される事になる。」


「うむ。しかし、このままでは永遠にゴクアに抱かれ続けるだけの哀れな生活を送るだけだ。この博打、吉と出るか凶とでるか。だがな、俺はなんとなくだが、この作戦は上手くいくような気がしているのだ。」


「何故ですか、タイタン様?」


「あのランシアとかいう小娘。それに脇におったカシワやカルロスとか申すもの。レナを除く全員が元々は、村とは何の関係もない連中だ。それなのに身の危険を顧みず、この俺に会いにきた。おまえがあやつらの立場だとして、同じ事が出来ると思うか?」


「・・無理でしょうね。私は自分の身が可愛いですから。しかし、だからと言って、そんなのはゴクアに勝てる要因にはなりえませんよ?」


「どうかな?損得を顧みない行動というのは意外に厄介なものだぞ。それにな、俺はそろそろゴクアの部下という身分にはうんざりしてたところだ。ミラージュの件だけではなく、ゴクア・・いや、貴族の犬としての生活など虫酸が走るわ。あのランシアとかいう小娘たちがゴクアを始末してくれるというなら、面白いではないか。俺自身が貴族などになる気など、さらさらないが、ゴクアへの嫌がらせというなら十分に楽しめる。ミラージュさえ無事に救出することが出来たならの話だがな。」


全てはミラージュが無事タイタンの元に戻るかどうかだ。そのため、ランシアはゴクアの諜報員であるレナを使って一計をたてている。と言っても難しい話ではない。レナがゴクアの元を訪れた際に、ミラージュをゴクアの元から連れ出すというだけだ。


タイタンはミラージュが初めてゴクアに捕えられたときのことを思い出していた。ゴクアの為すがままにされて、一晩中涙を流していたミラージュ。あの時は単身ゴクアに殴り込みをかけ、見事なまでに迎撃されてしまった。自分より強い者はいないと思っていたタイタンにとって、強靭な肉体も、強力な魔法耐性も、権力という名の巨大な壁の前には、為す術もないのだということを身を以て知らされた。


しかし、今、自分より少なくとも純粋な戦闘能力という面では、はるかに劣る連中がゴクアに真っ向から喧嘩をしかけている。それはタイタンが知る喧嘩とは全く違う形の喧嘩だ。タイタンは再び窓の外から村の様子を眺めた。既に着々と祭りの準備が整いつつある。


村人が帰ってきたら、さぞかし村の光景の違いに驚く事だろう。何かしら無いが、不思議と笑いがこみ上げてきた。一体自分は今、どんな感情を持っているのか、タイタン自身もよく理解出来ていない。ただひとつ言えるのは、ゴクアに逆らう連中が現れたことが、この上なく愉快だと言うことだ。


「さて、俺も手伝うとするか。おまえも来い。」


「はっ、仰せのままに、タイタン様。」


タイタンは部下を伴い、自らも祭りの準備を手伝う事にした。久しぶりの労働らしい労働だ。こんな風に汗水垂らすのも悪くない。タイタンは部下達を怒鳴りつけながらも、的確に祭りの準備を指示していった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


カシワやランシアたちは、タイタンとの会談の後、ノルヴェ村から少し離れた場所にとめてある馬車の中にいた。


「いつから気づいてたの、ランシアさん?」


レナはさっきから、ずっと青い顔をしたままだ。ランシアがタイタンの前で、”レナがゴクアの諜報員だ”と宣言したときには、本当に驚いていた。だが、レナはとぼけることも、ごまかすこともしなかった。ランシアも別段レナがゴクアの間者だという証拠などは提示していない。驚く程、素直にレナは自分がゴクアの部下だという事を認めた。


「さん付けなんてしないでよ、レナ。私はあなたを本当の仲間だと思ってるんだから。」


「・・おかしな人ね。自分で私がゴクアの部下だって指摘したくせに。」


「でも、自分から進んでゴクアの部下になったわけじゃないんでしょ?」


「当たり前だわ!誰があんなやつ。私はね、元々ダンサーになるのが夢だったの。小さい頃からずっと一緒に育った仲間がいてね。皆でいつか、王都フランのような大きな街の舞台に立って、誰よりも有名になってやろうってね。


規模は小さいけど、色々な酒場とかストリートで踊り続けていたわ。観客も少しづつ増えていった。人々が私達の踊りを見て喜んでくれる。それだけで、十分満たされた生活だった。あるとき、ゴクアから自分の館で踊りを披露してくれないかって誘われたときは、皆舞い上がったわ。


だってそうでしょ?ゴクアみたいな有力な貴族の後押しを得られれば、一気に大きなステージに這い上がる事だって夢じゃない。皆で頑張って、朝まで練習し続けた。ゴクアの前で踊ったときは、緊張したけど、自分達の精一杯の努力の成果を見せられたと思う。


ゴクアは満面の笑みを浮かべて、私達のダンスを褒めてくれた。そして祝いの席を用意してあるって言われて、それまで見た事も無いような豪勢なディナーを用意してくれた。でもそれは罠だったの。用意されたワインの中に睡眠薬が入れられててね、気がついたら、仲間は皆捕えられ、私はゴクアにレイプされていた。」


レナは一息に話すと、それまで溜まっていたものがこみ上げてきたのか、涙を流していた。俺たちは黙って、レナの話の続きを聞く。


「ゴクアは、私達の踊りを褒めたときと変わらない笑顔で言ったわ。”儂のしもべとなって、情報収集をしろ”ってね。最初から、色々な酒場を渡り歩く手頃な駒が欲しかったのね。情報が集めやすいし、逆にゴクアに有利な噂を流す事もできるもの。」


「逆らおうとは思わなかったんですか?」


カシワは思わず、問いかけた。そんな立場なら、ゴクアに偽の情報を渡すとか、ゴクアに不利な噂を流すとか色々出来そうなものだと思ったのだ。


「ダメよ、そんなことしたら、すぐにゴクアにばれるわ。諜報員は私達だけじゃないもの。私達を見張っている別の諜報員も用意されている。ゴクアはこれでもかっていうくらいに慎重な男よ。どんなに優勢な状態でも決して油断しない。ねぇランシア、それに皆、今ならまだ引き返せるわ。あなたたち、只、旅行に来ただけ何でしょ?何も他人のためにゴクアなんて物騒なやつを相手にすることないじゃない。普通に旅行を楽しんで・・」


レナが言い終わる前に、カシワは静かに、だけどはっきりと言い放った。


「それは出来ませんよ。ライラもリニアさんも、もう俺たちにとって他人ではありません。もちろんレナもね。人って言うのはね、一度でも関わりを持って、その人を仲間なんだって思えば、その時点から他人じゃないんです。俺もランシアも、リアもカルロスも、あなたが他人だなんて思ってるやつは、ここには一人もいませんよ。」


それまで黙っていたカルロスも、俺の後に続く。


「そういうことだ。俺たちはあんたを仲間だと思っている。今までも、そしてこれからもな。」


「私はあなたたちを裏切っていたのよ?もうライラやリニアの場所だって、ゴクアに報告してある。」


すると、ランシアが気まずそうに頬をかきながら呟いた。


「えっと・・まぁ、それなんだけどね。ライラやリニアは今はもう大丈夫なんじゃないかな。だって彼女達、すっごい護衛がついてるから。私達の仲間にハマーンっていう大商人がいるんだけどね、その人の部下のやってる焼肉店で保護されてるのよね。ノルヴェ村にいたようなゴクアの私兵団くらいなら、片手でも倒せちゃうと思う。そんな人達がずらっと大勢で、陰からライラたちを見守ってたりして。あはは・・」


「・・最初に私にライラたちの居場所を教えたときから、用意してたの?」


「まぁ、そういうことかな。だから、ライラとリニアは王都フランじゃなくて、港町ハーバーに行ってもらったのよ。あそこはハマーンの息のかかった連中が大勢いるもの。焼肉店だけじゃなくて、シーサイドカフェも、他の店も、主立った店は全部ハマーンとつながっていると考えてくれていいわ。」


「そう。既に手回し済みだったってことね。でも、あなたたち、私がミラージュを助けるって作戦たててるみたいだけど、また裏切るかもしれないわよ?」


レナは不敵に微笑んでみせたが、今度はリアがレナの言葉を否定した。


「いや、あなたはそんなことしないわ。私には分かる。だってあなた、私が砂走りと戦おうとしたとき、真っ先に止めてくれたじゃない。私の身を心配して。人間ってね、ピンチのときにこそ、本性が現れるんだって。あなたは砂走りに襲われるっていうピンチを前にして、誰より勇敢に戦っていたわ。カルロスが腕をやられたときも、必死になって看病していた。大丈夫、私はあなたを信じるわ。」


レナは俺たちを見て、盛大にため息をついた。


「まったく、どこまでお人好しなのよ、あなたたち。知らないわよ、どうなっても?」


悪態をつきながらも、レナは心の中で呟く。


こんなの、裏切れないじゃない。勘弁してよ・・


レナは、ランシアから預かった子瓶をそっと眺めた。

この作品を始めた当初はまったりした物語を書くつもりが、だいぶ離れた形になってしまいました・・ごめんなさい。

最初は十人くらい読んでくださる方がいれば御の字かな、なんて考えていたのですが、しばらく見ない間に、いつの間にかブクマ数も40を超えていたようで、かなり狼狽しています。

こんなつたない小説を読んでくださり、本当に有り難うございます。まだまだ全然未熟ですが、どうか今後とも宜しくお願いします。

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