新たな行動
「カルロスの具合はどうだ?」
砂漠にとめてある馬車の中に戻ったカシワは、カルロスの容態を確認する。リアもレナも、カルロスの側に付き添って、腕の包帯を取り替えたり、タオルを取り替えるなどして、カルロスの世話をしていた。
「今は眠ってる。相当ショックだったみたい。もしかしたら、もう剣を握る事は出来ないかもしれないって。」
ショックは当然だろう。自分の腕がなくなるなんて事態に陥れば、冷静さもなくす。ましてやカルロスは剣士だ。魔法はほとんど使えず、剣の腕に頼って、これからも生きていこうとしていた。
元々剣の素養があったうえに、オーディーンという、普通じゃまず手に入れる事の出来ない師匠を手に入れ、修行をし、確実に剣の腕をあげていたのだ。カルロスにとって剣をふるえなくなることは、重傷である事以上に、自分自身の存在そのものを否定されたようなものだ。
なんとかして、カルロスの腕を元通りにしてやりたいが、期待していたリッチマンですら、無理だと言う話だった。とりあえず、ランダ村まで引き返そう。カルロスだけ船に乗せて、港町ハーバーに行ってもらい、残りのメンバーは、またランダ村で待機だ。
「じゃあ、Uターンして戻ろうか。」
「何言ってんだ?当然このままノルヴェ村に行くに決まってんだろうが。」
え?カルロスの方を見ると、うっすらと目を開けている。
「カルロス、目が覚めたのか?」
「まぁな。俺の腕はどうした?」
「リッチマンの所に持って行って、冷凍保存してもらった。あいつんところに預けてあるよ。」
「ちっ・・、情けねぇ。油断したぜ。今度は気を引き締めてかからねぇとな。」
!?今度って・・もう次はないだろ・・
「何言ってるんだ?片腕を無くした状態で、戦えるわけないだろ。」
「ふん。そこらの甘ちゃんと一緒にすんじゃねぇよ。片手でも剣ぐらい、ふるえるぜ。それによ、今俺らがノルヴェ村にいかなかったら、せっかくランシアやリッチマンがけしかけた王都の役人どもが、まずいことになるかもしれねぇんだろうが。」
・・確かにそうだ。既にランシアやリッチマンの手により、ノルヴェ村の住人を逮捕という名目で保護すべく、役所の連中が、ノルヴェ村に向かっている。もし、このままタイタンやゴクアの私兵団とかち合う事になれば、事故死に見せかけ、始末されてしまう可能性だってある。
「しかし、いくらなんでも、おまえを連れて行くわけには・・」
俺が言い終わる前に、カルロスは片手で剣を握り、俺の喉元に剣先をつきつけていた。なんだ?いつのまに?俺にはカルロスの動きが全然見えなかった。
「どうだ?これでも戦えねぇと思うか?」
カルロスは剣をおさめて、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「いや・・だが、せめてちゃんとした診療所ぐらいは、行った方がいい。リアのおかげで応急手当はできているが、本来ならおまえの怪我って、絶対安静レベルだろ?」
「ノルヴェ村行ったら、帰りにハーバーとかで見てもらうさ。さっ、王都の役所連中が来る前に、ノルヴェ村に向かおうぜ。」
俺たちは皆、大きくため息をつく。だが、カルロスがここまで言ってるんだ。それに、役所の人達に万が一があるのはまずい。ノルヴェ村の住人にだって、危害が及ぶかもしれない。
「しょうがない。だが、片付いたら、すぐに引き返すぞ。それと絶対無理はするなよ。馬車の運転は俺がする。村につくまで休んでろ。」
「すまねぇ。任せるぜ。」
言いたいことだけ言い終わると、カルロスは再び眠りについた。まったく・・どういう神経してんだよ?大体、いくらリアが回復したからって言っても、その怪我だ。痛みだって、相当なもんのはずだろ?腕をなくすなんて大怪我したことないから、わかんないけどさ。
俺はランシアやリッチマンたちにも、カルロスの意思を念話で伝えた。すると、ランシアから意外な返答が帰ってきた。
「私もノルヴェ村に行くわ。村の近くまで着いたら、また連絡ちょうだい。」
「えっ、どういうこと?」
俺が問いかけると、いつも通り、返事はない。まったく、いつも一方通行なんだよな、こいつは。しかし、ランシア。今度は何考えてんだ?案外あてずっぽうで動いてるなんてことはないよな・・
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カシワたちと連絡を取り合う少し前。ニーナとランシアは王都フランのシーサイドカフェで、カルロスの腕の件についてカシワから念話で報告を受け、代替案について相談していた。
「ねぇニーナ、タイタンに会ってみましょうか?」
「・・え?何考えてるのよ、ランシア。本気?」
「ええ。でも、そうね。ニーナは戦闘は得意じゃないのよね。いいわ。私だけカシワたちと合流して、タイタンに会ってくる。私一人なら上位ランクの転移魔法も使えるしね。」
「そりゃ、移動に関しては問題ないかもしれないけど、タイタンって相当危険なやつなんでしょ?それにランシアって凄い美人だし・・目を付けられでもしたら、どうするのよ?」
「ふふ。ありがと、ニーナ。」
「真面目に聞いてよ!」
「大丈夫よ。私一人で会いに行くわけじゃないんだし。」
「一人じゃないって言っても、カルロスは戦えないんだし、カシワやリアじゃ、正直言って力不足じゃない。なんか旅先でもう一人仲間が勝手に増えたらしいけど、その人のことだって全然知らないし。」
ニーナの言う通りだ。タイタンがもしランシアを襲うような事態に陥った場合、タイタンに抵抗出来る者がいない。ランシア自身も相当強いが、ランシアはどちらかと言えば、魔法を使用した戦いを得意としている。故に魔法が効かないタイタンには、それだけで不利だ。だが、ランシアはタイタンと会う事について、まるで不安を抱く様子はない。
「ねぇニーナ、タイタンってさ、好きでゴクアの手下になってるのかな?」
「はっ?いきなり何の話よ?」
「肉弾戦も強い。魔法も効かない。普通に考えれば、わざわざ悪どいことなんてしなくても、選択肢はいっぱいあるわよね?冒険者になってもいいし、それだけ強ければ王宮の守護の任務だってつけるかもしれない。はっきり言って、そっちの方が逮捕されるリスクなんて考えなくていいし、収入も高いんじゃないかしら?ゴクアがそれほど気前よく報酬を払ってるとも思えないし・・」
「でも、タイタンはノルヴェ村で王様みたいな振る舞いをしてるんでしょ?金銭を増やすことも、好きな女性を抱く事も遠慮なくできちゃう。タイタンにとってのメリットは十分じゃないかしら?」
「どうかしら?ライラたちには悪いけど、ノルヴェ村って辺境の地にある田舎村よ?好きに出来るって言っても限度があるわ。まぁ女性を抱くっていうなら、ライラもリニアも可愛いけどさ。王都で重要職についた方が、女性にだってもてるんじゃない?職業も安定してるし、高給取りだし。」
「うーん・・まぁそういう考えもあるかもしれないけどさ。じゃあ、タイタンは嫌々ゴクアに従ってるって言いたいわけ?」
「好き放題してるのは確かなんだから、全く嫌ってわけじゃないと思うけどね。でも、もし僅かでもタイタンがゴクアに不信感や反感の意を持ってるなら、利用出来るわ。それにね・・」
ニーナは再び驚いてランシアを見た。そっか、単純だけど使えるかもしれない。ゴクアの性格なら、タイタンを利用する事で罠にかけられるかも。それにランシアの想定通りに事が運べば、王都フランを巻き込んだ、ちょっと特殊な戦いを始められるかもしれない。多くの私兵団を抱え、強大な権力を持つ貴族ゴクア。彼にダメージを与えるには、こんなやり方もありなのかも。
「じゃあ、ランシア、私は準備してくるわ。また、ここで会いましょ。」
ニーナが席を立つと、ランシアも席を立つ。会計を払って、これからの予定を整理する。そうだ、海賊のマゼランとディアナにも一役買ってもらうとするか。宝石の件についても、進捗を聞きたいし。ランシアはまず、ディアナのところに転移し、事情を話して協力してもらう事にした。




