代わりの案
俺は予め念話でカルロスの腕の件について、ミス研メンバー全員に事情を伝え、リッチマンにすぐに会ってくれるようにお願いした。俺が念話したころ、リッチマンとチューギーは既に役人との面談を終え、ひとまず、フランに宿をとって、これからの方針を検討していた。今、俺はリッチマンの部屋でカルロスの腕を見せている。
「・・なんてことだ。あの、カルロスが・・」
リッチマンも衝撃を隠せないようだ。カルロスの腕を冷凍保存することには、無事成功した。だが、いくらリッチマンでも損傷された腕を元に戻すことは出来ないという。
「ランシアに頼んでも無理だと思うか?」
「・・厳しいだろうな。ランシアは闇と邪属性の魔法なら天才だが、回復となると、専門外だ。まいったな・・これから、役人達がノルヴェ村の住人を逮捕という名目の元、保護しようって時に、まさかこんなことが起こるなんて。それで、カルロスは無事なのか?いや、無事なわけは無いか・・」
「ああ。今はリアとレナが馬車の中でカルロスの面倒を見ている。正直言って、重症だ。リアが回復魔法をかけてくれたおかげで、とりあえずの応急手当は出来たが、ちゃんとした治療が必要だろう。当然ながらカルロスをノルヴェ村に連れて行く事は出来ない。」
「仕方ないな。ライラやリニアさんには悪いが、ノルヴェ村の住人全員よりも、カルロスの身の安全の方が俺たちに取っちゃ大事だ。しかし、これじゃタイタンをどうにかすることは難しいだろうな。カシワには悪いが、戦力的にカルロスが一番の頼りだった。それに今、カシワは気体になれる無属性魔法も使えないしな。」
「正確には、使えるけど使わないように警告されてるだけだ。ところでさ、村人を一時的とはいえ、逮捕させてもらえるよう、役人に了解はとったんだろう?それでもタイタンをどうにかしないとダメなのか?」
「もし村人を逮捕され、役人に事情聴取されれば、今までの事が明るみに出るからな。ゴクアやタイタンが黙って許すとは思えない。ゴクアの私兵団だけなら、なんとか出来るかもしれないが、タイタンは容赦なく、役所から派遣された人物を葬るだろう。それも何らかの事故に見せかけてな。さすがに明らかに殺害と分かる形じゃ、ゴクアにも都合が悪いだろうし。」
結局タイタンをどうにかしないと、役所に村人を保護してもらう件も無駄になってしまうわけか・・それじゃ、カルロスも無駄な犠牲を払っただけになる。ライラやリニアさんも救われない。
くそっ!俺が強ければ・・タイタンぐらい一人でどうにか出来る力があれば・・なにか方法はないのだろうか?カルロスがいなくてもタイタンを対処する方法・・ダメだ、何も思い浮かばない・・
「なぁリッチマン、俺に何か出来る事って無いか?やっぱりタイタンをどうにかしたい。カルロスの犠牲を意味の無いものにしたくない。俺が弱い事は分かっているが、このまま何もせずに黙ってみてるだけなんて出来ないよ。」
「それは俺も同じさ。しかし、タイタンには魔法もほとんど効かないんだろ?それじゃ、カシワだけじゃなく、俺にもどうすることも出来ない。既にリニアさんは助ける事が出来たんだ。ライラもリニアさんも無事に生きている。これ以上首を突っ込まず、引き下がるのも検討した方がいい。」
俺もリッチマンもそれ以上は何も言えなかった。それはチューギーも同じ事で、むしろ元々関係のないカルロスに重傷を負わせた事に、責任を感じているようだ。
「ひとまず、リアたちの所に戻るよ。いつまでも砂漠の真ん中に置き去りにするわけにはいかないからな。」
「ああ。」
一言だけの短い挨拶が帰ってくる。リッチマンがこんな愛想の無い返事をするなんて珍しい。それだけショックが大きいのだろう。俺は再び影の転移の術でリアたちの元に戻る事にした。
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「ゴクア様。今月の収益分です。お納めください。」
タイタンは今、ゴクアの屋敷にいた。数々の調度品や絵画が飾られているが、その価値はタイタンには分からない。おそらくゴクアにとってもそうだろう。ゴクアに芸術を理解するような感情があるとも思えない。おそらくは税金対策の類いといったところか。
そういった装飾品を無視して、タイタンはゴクアに売り上げを差し出す。本来なら村人達の蓄えとなるべき収益だが、そっくりそのままゴクアの懐へと流れて行く。だが、ゴクアはそれでも全然満足していない。まだ搾り取れるはず。もっと自分への貢献度を高めさせねば。
ゴクアにとって、民とは自分をより高みへと押し上げるための駒であり、道具でしかなかった。ゴクアはノルヴェ村以外にも、複数の村や街に手を出しており、同じように、私兵団を派遣し、搾取を続けている。
だがゴクアにとって欲望の下限はあっても、上限は無い。搾り取れる者は、全て搾り取る。それが貴族に産まれた者の権利であり、義務でもある。こうしたゴクアの歪んだ信念にケチをつけられるものは、全て反逆罪で葬られる事になった。それ故、今ゴクアの周りにはイエスマンしかいない。どこかの某xxシンブンのようなものだ。
「・・少ないな。俺に断りも無く、自分の懐に入れてるのではあるまいな。」
「いえ、決してそのような事は。」
タイタンはゴクアに頭を下げる。ゴクアはフンと一言鼻をならし、タイタンが差し出した納品物を受け取る。ここのところ、タイタンには不祥事が多い。ライラに逃げられたのを始めとし、今度はリニアとチューギーをも逃がすはめとなった。所詮はガタイが立派なだけの、でくの坊か。
ゴクアはタイタンの評価を心の中で下げる。ゴクアにとって、全て完璧に自分に貢献出来て、初めてギリギリの及第点となる。そこから少しでもミスをしていけば、その分減点だ。リニアの処刑は、ゴクアが楽しみにしていた催し物の一つだった。自分の楽しみを潰した罪は大きい。
これ以上失点を重ねるようなら、タイタン自身にも責任をとらせる必要があろう。
「タイタンよ。ノルヴェ村の住人についてだがな。最近のお前の気のたるみは酷いものだ。あまり俺をがっかりさせないようにな。」
ゴクアは鋭くタイタンを見つめる。その瞳には一切の温情は無く、冷酷さだけが存在している。対するタイタンの方も頭を下げながら、内心では舌打ちをしている。タイタンにとっても我が身が一番という思いだけはゴクアと共通している。
それ故、自分の非を責めるゴクアは目の上のコブだった。いっその事、ゴクアには”事故死”してもらい、財産を受け継ぐのも悪くない。そんなゴクアとは別の意味での歪んだ考えがタイタンの脳裏に浮かぶ。だが、少なくとも表面的にはあくまで、頭を下げ続ける。
「はっ、申し訳ありません。必ずやこの汚名を挽回すべく、励ませていただく所存です。」
「次は無いぞ?」
ゴクアは短く言い放つと、自分の部屋へと戻って行った。部屋にはほとんど布を一枚巻いただけの従者が控えている。よく手入れされた金色のロングヘアーに緑の瞳。質素な作りのイヤリングが従者の美しさを、かえって引き立たせている。
従者はゴクアが別の村から調達してきた女性であり、村の中では間違いなく一番人気の高い娘だった。ゴクアはその従者に自分の羽織っていたガウンを預けると、そのまま従者をベッドに押し倒す。従者は小さくうめき声をあげるが、ゴクアの背に手を回し、全てを受け入れる。
タイタンには扉越しにその声が聞こえてきたが、小さく舌打ちすると、そのままゴクアの屋敷を出て行く。側にはゴクアの私兵団が控えている。今はタイタンの直属の部下だ。
「おまえら、本当にこのまま、あいつについていくつもりか?」
ふっとタイタンの口からそんな言葉が漏れる。但し、誰にも聞こえない小声で。私兵団はタイタンの声は聞こえなかったが、表情に何か違和感を感じる。しかし結局はいつも通り、タイタンも私兵団もすぐに無表情に戻り、ともに歩みを進めて行く。
ゴクアは従者を抱き終わると、ベッドの脇に腰掛け、葉巻を取り出す。この葉巻一本だけでも、一般市民の給料の半月分くらいの値がする高級品だ。それから赤ワインとグラスを二つ用意し、従者にも片方のグラスを手渡す。従者はバスローブ一枚を体に巻き付けた格好で、グラスを受け取り、一気に飲み干す。
「この屋敷も、そろそろ移転させるか・・」
ゴクアの一言に従者が顔を上げる。
「この屋敷に飽きられたのですか?」
「屋敷にではない。場所に飽きたのだ。いつまでも、こんな田舎の辺境の地にいても仕方なかろう。全く、貴族は自分の領土に屋敷を構えなければならぬなどと、くだらない法さえなければ、すぐに引き払うものを。・・ふむ。いっその事、儂も王都の役職でも手に入れてみるか。」
「役職ですか?」
「ああ。そうすれば、こんな辺境の地に屋敷を構える必要も無くなる。王都にいけば、重役どもの弱みも握りやすくなろう。王都フランの陰から、王族を支配してやるのも面白そうだ。クク・・しかし、そうなると今の村の連中は邪魔になるな。」
ゴクアがこの地を離れれば、住民達は、時はかかるだろうが、少しづつ活気を取り戻していくだろう。そうなれば、今置かれている現状を、後から思い出し、怒りに震えてゴクアを糾弾するような不心得ものも現れるかもしれない。
もちろん、そんな屑が何人束になったところで、ゴクアにかなうはずもないのだが、世間体が厄介な事になる。ゴクアがこの村で行っていた仕打ちについて、噂が飛び交うようになれば、後々面倒だ。
「心配事になりそうな、火種は、潰せるときに消しておかんとな。」
ゴクアは、空いたグラスに再びワインをつぐ。一気に飲み干すと、着替えて広間に行き、私兵団に告げた。
「これよりノルヴェ村の掃除を行う。村は不幸な山火事にみまわれ、残念な事に我々が駆けつけたときには生存者は一人もいなかった。」
私兵団はゴクアの発言の意図を読み取る。村に火をつけて、皆殺しにしろ。要するにそう命令したのだ。私兵団は各々武器をとり、ノルヴェ村を焼き討ちするための会議が始められた。
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「ランシア、どうする?まさか、カルロスがそんなことになるなんて・・」
「今はなんとも言えないわ。ちょっと考える時間を頂戴。」
ニーナとランシアも、カシワから念話で聞いた内容にショックを隠しきれなかった。カルロスが倒れたとなれば、カシワたちだけではタイタンをどうにかするのは難しいだろう。実質、ランシアの策も崩壊したと言える。だが、ニーナにもランシアにとっても、そんなことはどうでもよかった。策なら、また新たにたてればいい。
だが、カルロスの腕については、そうはいかない。ランシアでさえも、カルロスの腕を元に戻す方法については、すぐには思いつかなかった。だが、考えを巡らせて行くうちに一つの可能性を見いだす。
「カシワの混合魔法・・」
カシワは戦闘力ではそれほど役に立てないが、普通の人には使えない無属性魔法を使用出来る上に、混合魔法の適正がある。もしかしたら、混合魔法の中に、驚異的な治癒能力を発揮出来るような魔法もあるかもしれない。とは言え、すぐに、それを使用可能に出来るかと言えば、もちろん不可だ。
そもそも、本当にそんな魔法が存在するかどうかも怪しいし、仮に存在したとしても、まずランシア自身が、その魔法のメカニズムを解明し、さらにカシワが使いこなせるようにならなければならない。どう贔屓目に見ても、一朝一夕で出来るような芸当ではない。
「それにゴクアの今後の動向も気になるわ。このまま、ゴクアがノルヴェ村の人たちに何もしない可能性は・・ないわね。さて、どうしたものかしら。」
ランシアは、しばらく目を閉じて考え込んだ後、ニーナに向き合いながら、手元のハーブティーに口をつける。一口飲み干すと、ゆっくり口を開けた。
「ねぇニーナ、タイタンに会ってみましょうか?」




