思わぬ悲劇
「しっかし、なんで砂漠ってこう気温差激しいかねぇ」
二度目の砂漠旅行だが、やはり暑いものは暑い。強烈な日差しが照りつける中、俺たちを乗せた馬車は進み続ける。御者役は日中の日差しが強いときはカルロスが、夜の冷え込んだときは俺が担当する事になり、比較的、温度がきつくないときにリアとレナに手伝ってもらう事にした。
変異的な砂嵐こそ遭遇したものの、幸い今まで砂漠の魔物などには出会わずにすんできた。だが、それは只の偶然にすぎない。サンドウォームや毒サソリといった魔物の出没例は、数多く報告されている。いつでも剣を抜けるよう準備はしておいた方がいいだろう。
「そういえば、リア、さっきランダ村で変わった土産物買ったんだって?」
リアは砂漠に入る前、ランダ村で食料品などの準備をしているときに、ついでに木彫り細工の人形を購入したようだ。はにわの形によく似ているが、額の部分に小さな青い石が組み込まれている。この地方では有名なお守りの一種らしく、旅行の安全の願いが込められているそうだ。
「うん、ほら見て。けっこう可愛いでしょ。」
リアがそういって人形を差し出す。うーん・・やっぱり女の子の可愛いの感覚はいまいち良くわからん。俺には只ののっぺらぼうにしか見えないんだが・・まぁそんな正直な感想をいって、リアの機嫌を悪くする必要はないだろう。
「ああ、可愛いね。サイズてきにも持ち運びやすいし、ご加護があればいいな。」
「でしょ、でしょ。だからね。カシワの分も買ってきたんだ。はい、あげる。」
俺はリアから対になっていると思われる、はにわの人形を受け取った。こちらの額には赤い石がついている。
「へぇ、額の石の色が違うんだ。」
「これね、二組一セットになってて、互いに思い合ってる二人が両方の人形を肌身離さず持ってれば、願いがかなうらしいよ。」
「そっか、じゃあ大事にしなきゃな。ありがとう、リア」
俺が人形をポケットにしまうと、すかさずカルロスとレナが俺たちを冷やかす。はいはい、もうからかわれるのは十分だって。いい加減飽きるだろう・・あれ?レナって俺たちと初めて会ったときのままの服装だ。
革のジャケットに長めのブーツ。胸の部分が大きく空いていて、髪型も相変わらずピンクと緑のストライプになっている。これが都会のBarやクラブなら決まってるし、どこかのバンドでもやってると言われても通じるだろう。しかし、ここは砂漠だ。昼は暑いし、夜は寒い。レナのお気に入りのスタイルなのかもしれないが、砂漠に適した服装だとはとても思えない。
「そういえば、レナはそんな格好で砂漠平気なのか?」
「ああ、全然問題ないよ。私はこう見えても、暑いのも寒いのも、けっこう強いんだ。それより、あんたの彼女の方を心配した方がいいんじゃないのか?」
俺はリアの方を見る。そういえば、なんか微妙に顔色が悪そうだ。もしかしたら、熱射病にでもなったのだろうか?
「リア、なんか具合悪そうだけど、大丈夫か?」
「うん・・ちょっと、熱にやられちゃったかも。少し休んでてもいいかな?」
「ああ、もちろん。無理すんなよ。ノルヴェ村だって、別にリアが行く必要はないんだからな?」
「それって、私がお荷物ってこと?」
リアの一言で、俺は慌てて弁明する。
「いや、違うって。そんなつもりで言ったんじゃないって。ただ、わざわざ危険な場所にリアを連れて行きたくないっていうか・・気を悪くしたんなら、ごめんよ。」
「うんうん、いいの。ありがとう、カシワ。でも、カシワが一人で危険なとこ行って、私がお留守番なんて絶対イヤ。だから、足手まといかもしれないけど、連れてって。お願い。」
「リア・・」
そんな俺たちの会話を聞いて、レナとカルロスが再度、冷やかしを入れ、盛大にため息をつく。
「一人で危険なとこ行くって・・一応、私達もいるんですけど?」
「リアの頭ん中じゃ、カシワしか見えてねぇのさ。」
「あ、ごめんなさい。そういう意味じゃ・・」
今度はリアが、さっきの俺と同じように、慌てて弁明しだした。その様子を見て、カルロスとレナが笑い出す。
「あんたたちって、お似合いよね。色んな意味で。ほら、もういいから、あんたは寝てなさい。村に着くまでには時間もあるし、それまでにしっかり体調を整えておくのよ。」
レナがリアに毛布を投げる。リアは礼を言って、毛布を丸めて枕にして、馬車の隅で寝転ぶ。一瞬毛布にくるまるのかと思ったけど、そんなわけないよな。こんなに暑いんだし。
「あれ?カルロス、ちょっと前見て。けっこう遠いけど、見えるかしら?」
レナの言葉に従い、御者席に座っているカルロスが目をこらして、はるか遠くにある前方を見つめる。何だろう?俺にはここからじゃ、何も見えないし、感じない。
「どうしたんだ、レナ?何か見えたのか?」
「ええ。どうやら、お客さんのお出ましのようよ。いつでも戦闘出来るように準備して頂戴。」
魔物の出現か?俺には相変わらず何も見えなかったが、レナの目には既に敵の位置も、実体も確認出来ているようだ。
「カルロスは何か見えるのか?」
「ああ。あれは、ちょっと厄介かもな。砂走りだ。」
「砂走り?」
「この地方の砂漠地帯に特有の魔物さ。見た目は大型のムカデってとこだが、砂の中を自由に移動する事が出来る。パワーもスピードも結構あるしな。油断してると、あっという間に食われるぞ。」
やばいな・・俺がまともに立ち向かっても、かなわないかもしれない。だが、一般の魔物なら、カルロスがいれば何とかなるだろう。レナもスピードに関して言えば、相当なものだ。
「私も戦うわ。」
見るとリアが起きだして、ドワーフのアクスさんから、もらった弓を装備しようとしている。
「ダメだ。」
「ダメよ。」
ほぼ同時にカルロスとレナから制止の声がかかる。リアが一瞬ビクッとするが、レナが構わず続ける。
「本当に足手まといになりたいの?いいこと?あなたが戦っても、正直言って、それほどの戦力にはならないわ。でも、あなたには回復魔法が使えるんでしょ?それは、他の私達には出来ない事よ。砂走りが相手じゃ、私だって、多分無傷じゃ済まされない。あなたには、あなたが出来る事を精一杯やって。何も武器や魔法で戦うだけが、戦闘じゃないわ。」
レナはそういって、リアから弓を取り上げ、リアの脇に置く。リアはしばらく、うつむいていたが、しばらくすると顔をあげ、分かったわ。と一言呟いた。しかし、ますます、まずいぞ。レナが躊躇するぐらいなら、俺だって、正直役に立てるとは思えない。
はっきり言って、今の俺じゃ、レナよりも弱いだろう。今の俺がまともに使えるのって、土属性アースぐらいのもんだ。後、最近覚えたので闇属性の影の転移魔法っていう、自分専用の移動魔法があるが、俺が使っても戦闘には役立てられないだろう。
これがもし、カルロスが使用するなら、効果はある。相手の背後に回り込み、好きなように斬りつけられるだろうし、それ以外にも攻撃の幅は格段に広がるはずだ。
だが、俺のように剣がそれほど得意でなく、魔法も限られたものしか使えないのなら、相手に近づくことは出来ても、そこから先につなげる事が出来ない。逆にカウンターくらって、餌食になるのがオチだ。だから俺はカルロスとレナに提言した。
「俺はサポート役にまわるよ。遠距離から隙をついて、砂走りの行動を攪乱する。後は二人の援護だ。悪いが、直接攻撃するのは二人に任せる。」
カルロスにもレナにも異論はないようだ。俺が下手に剣を持って、戦いに参加しても、やっぱり只の足手まといだしな。俺たちが相談している間も砂走りはどんどん近づいてきており、ついに俺たちと向き合う形となった。
遠くからでは分からなかったが、間近で見ると相当デカイ。目算だが、おそらく全長15mほどあるんじゃないだろうか。これなら、一口で俺たちを丸呑みすることも可能だろう。カルロスは馬車を止めて、地面に降り立ち剣を構える。隣にはレナが二つの短刀を持って、砂走りを迎える。レナは双剣を使う事も出来るらしい。
まずはレナが仕掛けた。女性の足とは思えない跳躍力で、一気に砂走りの体を駆け上がったかと思うと、砂走りの片方の目に短刀を突き立て、素早く身を翻し、戻ってくる。さすがに早いな。間違いなくオリンピック金メダル級の動きだ。この世界の住人の運動神経は、元の世界の常識ではとてもはかれない。
対照的にカルロスの方は、じっと構えを崩さず、砂走りを見つめている。何かを狙っているようだ。隙をうかがい、一気に切り込むつもりなのだろう。だったら、俺が手伝える事といったら、砂走りに隙を作ってやる事だ。
俺は土属性アースの魔法を砂走りの目と口元に限定して、かけてみることにした。正確には目と口元のすぐ前の空間に土の壁を作り出す。俺の魔力じゃ、砂走りそのものを土化させることなんて、おそらく難しいだろう。
だが、砂走りの目の前に土の塊を作り出す事ぐらいなら出来る。砂走りの視界が一瞬だけ土の壁によって、遮られる。カルロスはその隙を見逃さない。砂走りの視覚が遮られた一瞬の間に、カルロスは自分の剣を砂走りの口の中に突き刺し、そのまま横に切り裂いた。
激しくのたうち回る砂走り。カルロスは今度は砂走りの上に乗っかり、マウントポジションをとる。体格差があまりに、ありすぎるため、押さえ込むなどといった行為は不可能だが、そんなことはおかまい無しに、カルロスは何度も剣を突き刺す。砂走りから、緑色の体液が飛び散って行く。
暴れだした砂走りの尻尾が、カルロスとレナの両方を吹き飛ばした。血を吐き、うめき声をあげるレナ。だがそれでも構わず、レナは砂走りのもう片方の目にも短刀を突き刺し、完全に視力を奪う事に成功した。その後もレナが砂走りに攻撃を繰り返し、ついに砂走りは地面に倒れた。カルロスの方は・・動かない。
どうしたんだ?腕を押さえて・・いや、腕が・・腕が無くなっている・・
「カルロス、大丈夫か?」
俺は無我夢中でカルロスに駆け寄った。大丈夫なわけがない。自分で叫んで、言ってることの矛盾にすら気づかなかった。俺はカルロスを担いで、急いで馬車の中に行き、リアの元に連れて行く。リアがカルロスの腕を見て悲鳴をあげる。
「リア、なんでもいい。早く回復魔法を。」
リアは大急ぎで、カルロスの腕に回復魔法をかける。血はとまったが、亡くなった腕が生えてくるような事は当然ない。レナがカルロスの切り飛ばされた腕を持ってきた。なんてことだ・・いや、考えるより、悩むよりまず、冷凍保存だ。
腕を冷凍させて、リッチマンに見せれば、あるいは回復可能かもしれない。しかし、どうする?俺たちの中に冷凍関係の魔法を使えるやつはいない。・・そっか、カルロスの腕だけ持って、俺がとりあえず影の転移魔法で、リッチマンのところに行こう。
リッチマンなら、冷凍は出来るはず。回復は・・いや、考えるのは後だ。俺は、リアとレナにカルロスを任せ、しばらくここで待機するように言い、カルロスの腕を持って、王都フランへと転移した。




