普通の観光無理みたい
「なぁ、カルロス、俺にも少しだけ剣の使い方教えてくれないか?ごく基本的なものだけでいいからさ。」
カシワはカルロスに剣の稽古をつけてもらうことにした。自らが気体になれる便利魔法に制限を課されてしまった以上、自分が今出来る力を少しづつ高めていくしかない。おそらく、どれほど頑張っても剣でカルロスに追いつく事も、魔法でリッチマンに追いつく事も出来ないだろう。それでも、いざというときにリアを守るため、少しでも自分が出来る事はやっておきたかった。
「まぁ別にいいけどよ。まずは基礎体力身につけた方がいいな。定番だが腕立てや走り込みから、はじめてみるか。」
カシワはカルロスの言う通り、体力トレーニングを行う事にした。カルロスもカシワの力はある程度把握しているため、最初から無理な注文はつけない。というか、いきなり無理めのトレーニングをしても体を壊すだけだ。
ただの精神論や体を痛めつけるだけなら、それでもいいが、実戦に役立つ力を身につけるなら、きちんと適宜休息も取り入れた、効果的なトレーニングを行う必要がある。
ランダ村に滞在しているわずかな間、しかも観光の合間に行う程度では、それほど効果がでるとも思えないが、なにもしないよりはましだろう。俺はカルロスの指示に従って、体力作りと、ごくごく基本的な型や打ち込みの初歩などを習得していった。
「よし、じゃあ稽古はこれくらいにして、観光の続きと行くか。今日はどうするよ?」
カルロスが尋ねてくる。基礎的なことしかやっていないとは言え、それでも俺からすれば中々のハードトレーニングだ。汗で体中がべとついている。
「まずは、シャワーだな。んで、さっぱりしたら、皆で羊の牧場にでも行ってみるか。この村はショーパブなんかもあるらしいから、そっち行ってもいいかもな。」
「リアとレナの意見も聞いて決めるか。んじゃ、宿屋の一階のロビーで待ってるぜ。」
「ああ、すぐ行くよ。」
俺はカルロスに言ったとおり、シャワーを浴び、稽古での汗を流した後ロビーに向かう。運動後のシャワーってなんでこんなに気持ちいいんだろうな。この瞬間のために運動しているってやつ、けっこう多いんじゃないかな。後は、運動後の一杯とかね。いや、俺は未成年だから牛乳だけどさ・・
ロビーにつくと全員既に揃った状態で、今後の観光予定なんかを相談していた。本当ならニーナがしっかり旅行プランをたててくれてたんだが、それはもう言うまい。それに行き当たりばったりの旅行ってのも、これはこれで楽しいしな。
「あ、カシワ、お疲れ〜。ねぇ今、皆で話してたんだけどさ、ラクダに乗ってみない?」
「ラクダ?どっか行くのか?」
「違うの。そうじゃなくて、ラクダに乗って、ここら辺をぶらっと散歩するだけ。せっかくこんなところにいるんだから、普通じゃ出来ない事やってみたくてさ。」
ラクダね・・前回の馬車の御者席に座った事を除けば、普通に馬にも乗った事無いんだが、ラクダなんて乗れるのかな。でも失敗してもいい経験になるかもな。
「いいんじゃないか、別に。うん、俺も一度くらいは乗ってみたい。」
「じゃ、決まりね。早速だけど行ってみようよ。」
俺たちは、前回この村に来たときに馬車を借りた店に行き、今度はラクダを借りる事にした。店主のおじさんも俺たちの事を覚えていてくれたみたいで、この前帰ったばかりなのに、また来たのかと半分呆れて、半分嬉しそうだった。俺たちは馴染みの客として認定されて、普通よりはるかに安い金額でラクダを一時間だけレンタルさせてもらった。
「さぁてと、まだ日差しは高くならないみたいだね。のんびり散歩するには、いい時間帯だな。」
ラクダに乗る作業自体は、思っていた程難しくはなかった。最初のうちは、何度も振り落とされるかとも思ったが、元来おとなしい動物みたいで、係員の指示に従って、手綱を操作している限り、思った通りの行動をとってくれる。
「せっかくだからさ、この村の近くにあるオアシスのとこまで行ってみようぜ。」
カルロスの言う通り、確かに、このまま村の近くを徘徊してるだけじゃ、飽きるよな。そんなに遠い場所でもないみたいだし、多少時間オーバーしても、延長料金を払えばいいだけだ。俺たちはカルロスに同意し、オアシスを目指してみる事にした。
しかし、いくら進んでもオアシスは見つからない。見渡す限り砂丘が延々と続いているだけだ。もうそろそろ日差しも強くなってくる頃だろう。引き返した方がいいかもしれない。
「なぁカルロス、オアシスはあきらめて戻ろうぜ。」
「いや、それがよ・・なんかやべぇみてぇだぜ。右の方見てみろよ。」
カルロスの差す方向を見てみる。なんだありゃ?竜巻のようなものが、いくつもできてこちらに少しづつだが迫ってきている。砂嵐ともなにか違うようだが・・
「あれ、ランダ村特有の大型砂嵐ってやつじゃん。ここ数年、ほとんど起きた事の無い幻の砂嵐だよ。すごい偶然!」
レナが竜巻を見てはしゃぎだす。何それ?数年起きた事の無い、希少な砂嵐に遭遇しちゃったわけ?っていうか少しづつだと思ったら、どんどん向かってくる速度が増してきてやがる。このままここにいたら、俺たちも危ない。
「とりあえず、急いで逃げよう。」
「無理だな・・ランダ村の方角からも砂嵐が来てやがる・・」
カルロスの言葉に後ろを振り返る。嘘だろ・・今はまだ遠目だが、向こうからも竜巻が団体さんできてやがる。ちょっと気分転換にラクダに乗っただけで、何でこんなトラブルに遭うんだよ。この旅行間違いなく呪われてるだろ。
しかし、どうする?砂漠の中で闇雲に逃げ出したら、方向を見失ってしまう。前に来たときは馬車もあったし、冒険者慣れしているライアンさんや優れた魔法の使い手であるリッチマンがいてくれたから、砂嵐とかも正直そんなに怖くはなかった。
だが、今の俺たちに砂嵐をどうこう出来るやつはいないだろう。しかも通常の砂嵐ではなく、数年に一度とかいう変わった様式の大型の砂嵐だ。皆が安全にこの場を切り抜けられる一番手軽でいい方法ってなんだろう?とりあえず皆を一カ所に集めて、俺の土の壁を周囲にはって、嵐が治まるのを待つとするか。
「皆、一カ所に集まってくれ。アースで周囲に壁を作るから。」
リアとレナを中心に、挟み込む形で俺とカルロスが両脇に立ち、俺たちの周囲に土属性アースで土の壁を形成して行く。相手は砂なので、天井部分にも土の壁を作り、下に少しだけ空気を取り入れるための穴を空ける。
嵐が過ぎ去るまでの間、俺たちは身を縮めて待つ事にした。不幸中の幸いだが、この砂嵐は敵からの襲撃などではなく、只の自然現象である。時間さえ経過すればおさまってくれるだろう。
「リア、大丈夫か?砂が目に入ったりしてない?」
「平気。カシワは?」
「俺も大丈夫。」
俺はリアの安全を確認した後、カルロスやレナの様子も見る。もっともカルロスなら砂嵐程度、俺がいなくても何とかするだろう。レナはどうなるか分からないが、様子を見ている限り問題はなさそうだ。
「なんだよ、声かけるのはリアだけかよ?」
「あたしたちだって巻き込まれてんのは同じなのにねぇ」
カルロスとレナが揃って俺に不平を言ってくる。
「あ、いや、そんなつもりじゃ・・」
「くっ、ははは、こんな砂漠の砂嵐の中でもカシワがからかわれるのは、変わらねぇみてぇだな。」
「だから、何度も言ってるが、俺は別にからかわれるのが好きってわけじゃないからな!」
だが、俺の言動はむなしく響き渡るだけのようだ。もうどうにでもしてくれ・・いっそ、土の壁とっぱらってやろうか。などと思っていると、ランシアからの念話が届いた。こんな嵐の中でも届くなんて、キューちゃんって本当に便利だよなぁ。
「ノルヴェ村の人たちは一旦全員を逮捕してもらうことにしたわ。あなた達はタイタンの足止め宜しく〜」
・・・ちょっと待て。何を言ってるのかさっぱり分からん。なんでノルヴェ村の人が逮捕されるんだよ!?逮捕するならゴクアやタイタンだろ?だが、俺の方から念話したら、ランシアに”忙しいから説明は後ね”の一言で済まされてしまった。
くそっ、何がどうなってる?ランシアのことだ。何か考えがあるのは分かる。だが、村人を逮捕する意図も、そもそも何の罪で逮捕するのかも、さっぱりわからん。いや、そんなことよりタイタンの足止めって俺たちにどうこう出来るものなのか?
正直言って、今のメンバーの中で戦闘力という意味で役に立ちそうなのはカルロスぐらいだろう。レナも相当速い動きを持って入るが、攻撃力はそんなにないはずだ。怪力で強靭な肉体を持つタイタンが相手では、分が悪いかもしれない。タイタンには魔法もほとんど効かないらしいから、カルロスをサポートしようにも限度があるしな。
しばらく考え込んでいると、いつの間にか砂嵐はやんでいた。これから俺たちはノルヴェ村に向かうことになる。ランシアが何を考えてるのか知らないが、おそらく意味はあるのだろう。
ランシアなら、本当にノルヴェ村の人々を有罪で牢獄にぶち込んでおしまいなんて、訳の分からない策は立てないはずだ。俺は実験中のランシアは恐怖の対象でしかないが、こういうときのランシアは信用している。再びノルヴェ村か・・俺たちは意を決して、再び歩き出す事にした。




