村人の今後を考えて
「ねぇ、ライラ。あなた海賊船に乗ったって本当なの?」
「そうなの。信じられないでしょ?でも意外に快適だったんだな、これが」
ライラとリニアは今、港町ハーバーの繁華街からはちょっとだけ離れた場所にある洒落たレンガ作りのカフェバーにいる。行列こそないものの、ほとんど空席が無いくらい中々の人気店だが、圧倒的に女性客が多い。デートなどで来ているカップルは、男性側の方が若干居心地が悪そうだ。
ライラはコーヒーフロートを、リニアはシナモンティーとモンブランを注文し、今はこれまでお互いにどんなことをしてたか、情報交換している。と言っても、リニアの方はノルヴェ村で相当つらい生活をしてきた。
チューギーの愛情と温かさにより救われている部分はかなり大きいだろう。もし、リニア一人だけなら、神経が持たなかったかもしれない。でも今は妹ライラもチューギーも、そしてリニア自身もこうして無事にいられる。リニアにとっては、それだけでも信じられない事だ。
「でも本当、夢みたいよね。今私達がここで、こんな風に穏やかな一日を過ごせるなんて。」
「なにしんみりしてるのよ、姉さん。ほら、追加注文しなくていいの?もう、カップもお皿も空じゃない。」
「やめてよ、太るでしょ。あ、でもこっちのセイロンティーもらおうかしら。すいませーん、ちょっと、お願いしまーす」
リニアとライラは久しぶりに、二人だけでの午後の一時を満喫していた。もうここにはタイタンや見張りの兵士はいない。何の束縛も無く、好きなところに行き、好きな事をすることが出来る。しかし、ノルヴェ村に残された人々は、今もまだ奴隷生活を強いられている。
リニアは妹ライラと過ごす、かけがえのない一日を楽しみながらも、まだ時々、恐怖と不安で胸が圧迫されることがあった。ライラの方もそれは同様だ。
普段は明るく振る舞ってはいるし、大好きな姉と過ごす一日は何物にも代え難い宝物のような価値のあるものだったが、時折見せる表情にはどこか陰りがあった。だがせっかく再会出来た姉にそんな顔は見せたくない。ライラは不安を覆い隠すように、絶えず笑顔で姉に接していた。
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ニーナとランシアは王都フランの街角にある織物工場に足を踏み入れていた。観光客向けに、工場見学のできるツアーがあり、そのツアーに申し込んで、今は他の観光客達と一緒に工場内を案内されている。
「ねぇ、ランシア。織物工場に来たのって何か理由があるんでしょ?只の観光なら他にいくらでも見回るとこあるし。」
「もちろん。ここの織物工場はね、衣服だけじゃなくて、家の調度品や絨毯なんかも取り扱ってるの。」
「ふぅん、そうなんだ。でも、それがノルヴェ村やゴクア達と何か関係あるの?」
「ふふっ。さぁどうでしょう。あ、この鞄、可愛い。」
ランシアは、畳を原材料にして出来たバッグを手に取る。普通なら布をあてている側面に畳が使われており、なかなか変わった外観となっている。
「ちょっと、ランシア。もったいぶらないで教えなさいよ。」
「別に調度品や衣服は、ゴクアたちとの関係なんてないわよ?じゃっ、次ぎに行きましょうか。今度はガラス細工のお店行きましょうよ。」
「えっ?そうなの?ランシアのことだから、なんかここで生産される生地とかがゴクアの弱点になってるとか、想像しちゃったんだけど。」
「あのね・・なんで織物工場の生地が、権力者貴族の弱点になるのよ。そうじゃなくって・・あっ、ちょっとここの工場長に挨拶してくるね。」
ランシアはニーナをその場に置き去りにして、織物工場の工場長と何やら話しに行く。ニーナはその様子を眺めながら、ランシアがさっき手にしてた畳を材料にした鞄を手に取る。一見変わってるが、機能的だし、保湿効果もありそうだ。きっと様々な利便性が考慮されているのだろう。
ランシアの行動も、どこか似ているかもしれない。パッと見では何の意味も無い行動だが、どこかに目的があるのだろう。そしてその行動は、最終的にはリニアやライラを助けることにつながるはずだ。ニーナが考え込んでると、いつの間にかランシアが横に立っていた。
「お待たせ〜、ニーナ。あ、その鞄ニーナも気に入ったんだ。可愛いよね〜」
「可愛いかどうかは分からないけど、面白い作りね。さ、今度はガラス細工の店だっけ?もうこうなったら、どこまででも付き合うわよ。」
「ニーナったら、急にどうしちゃったのよ?あ、もしかして、やっとニーナも観光楽しむ気になった?そういえば元々、ニーナが旅行の計画たててくれてたんだよね。なんか、こんなことになっちゃったけどさ。今度また来ようよ。」
「うん、今度は余計なトラブル抜きでね。」
ニーナとランシアはその後、ガラス細工の店に続き、土産物店、飲食店街、その他王都フランの街中にある観光旅行者向けの店を、隅から隅までいき歩いた。
訪れた全ての店で、店内のサービスを楽しんだ後、ランシアが店主あるいはオーナーに何やら話をもちかける。その様子を見ていて、ニーナも少しづつだが、ランシアがやろうとしていることに感づきはじめた。
「ねぇランシア、あなたのやろうとしてることってノルヴェ村の交流先を広げる事でしょ?」
「ん。どうして?」
「もう、私にまでとぼけることないでしょ。ノルヴェ村は宝石の産地じゃない。だから最初の織物工場では、衣服と宝石を組み合わせた新たな産出物の提案をしてたのね。ガラス細工店や土産物店もそう。飲食店はちょっと分からないけど、私達が今日行った店のほとんどがノルヴェ村の宝石と組み合わせることの出来る生産物を取り扱ってる店よね?」
「んー、まぁそれもあるんだけどね。ちょっと違うかな。私がやったのはね、ノルヴェ村の人たちの就職先の確保なの。最後にはノルヴェ村の人たちに、村で平和な生活を営んでもらいたいって思ってる。
でもさ、このままだと例えゴクアやタイタンを退けたとしても、第二、第三のゴクアがやってくるかもしれないじゃない。宝石鉱山なんて、いかにも貴族から目をつけられる物件があるんだし。だからさ、ノルヴェ村を王都フランの国王の管理下に位置づけてもらおうと思うの。
もちろん村人が自営できるなら、それが一番いいんだけど、実際問題、ゴクアやタイタンの奴隷にされてるのが現実なんだし。だったら、ちゃんとした国の領土としてノルヴェ村を組み込んでもらって、その代わりノルヴェ村の人たちの身の安全の保証をしてもらった方がいいんじゃないかと思うのよ。」
ニーナはランシアの発言に呆れていた。ノルヴェ村が村人だけで自営した方がいいのか、ランシアの言う通り国の配下に入れてもらった方がいいのかは、ニーナには分からない。ただ、それを考え実行に移せる人がどれほどいるだろう?
しかもおそらくは、ランシアは今の考えを、一番最初にライラからノルヴェ村の話を聞いた時点で、ある程度計画していたのだ。
「でもランシア、それとノルヴェ村の人たちの就職先の確保はどう結びつくのよ?」
「一時的な措置なんだけどね、ノルヴェ村の村人達には、村を一回捨ててもらおうと思ってるのよ。と言っても、本当に捨てるわけじゃないわ。ただ、ゴクアたちがいる間は村を離れてもらおうってわけ。
私達がゴクアを断罪したら、また村に戻ってもらって、そのときは今度こそ安心出来る平和な生活を送ってもらうつもりよ。その間、この王都フランのような大規模な都市、つまりゴクアが簡単には手を出せないような都市で仕事をしてもらおうってことよ。
それに、ここで働いているうちにノルヴェ村の宝石の新たな利用方法を見いだせる事が出来れば、一石二鳥じゃない。それこそ、さっきニーナが言ったように、ノルヴェ村の宝石と組み合わせることの出来る生産物を検討するとかさ。」
「・・本当にランシアってすごいわ。でもどうやってノルヴェ村の人たちをここまで連れてくるの?それだって一筋縄じゃ行かないでしょ?」
「問題はそこなのよね。カシワが気体になる方法も使えなくなっちゃったし。リッチマンの小型化の魔法も、二、三人ならともかく村人全員となるとちょっとね。それにタイタンにはほとんどの魔法が通じないみたいだし。だからね・・」
ニーナはランシアの言葉に耳を傾ける。なるほど、そんな手もあるのか。何も魔法だけが解決手段ではない。もっとオーソドックスな方法でも十分対応できるのだ。ただもう少しだけ準備がいる。それまではランシアとの観光旅行をもっと楽しもう。ニーナはランシアの手を取り、再び王都フランの大通りを歩き出した。




