各自の仕事
レナという新たな仲間を加え、再びランド村にやってきた俺たちは、ランシアたちが行動を起こすまでの間、しばらくこの村に滞在する事になった。今、この段階で俺たちだけでノルヴェ村に行っても、さすがに何もできないだろうしな。
それともう一つ、ランシアから、あまり宜しくない知らせが届いた。俺の使用している気体になる魔法、正確には無属性魔法ファンデルワールスって言うらしいが、これ以上あまり多発しない方がいいらしい。
ランシアによると、魔法理論と物理学の量子力学などを組み合わせた理論研究の結果、あの魔法はきちんとした修行を積んだ後じゃないと、相当体に悪いらしい。今のところ俺の体に、病気などの症状はないが、このままいけば、最初は腰痛、リューマチ、肌荒れなどから始まり、徐々に病状が進行、最終的には自分で立ち上がる事すら出来ない症状に悪化する可能性があるそうだ。
「まいったな・・これからノルヴェ村に向かおうってときに、あの便利な魔法の禁止令がでるなんて。」
カルロスやリアも、結構俺の能力はあてにしていたようで、がっかりしていた。そうだよな。誰だって気体になれるなんて、超絶便利能力があれば、頼りにしちゃうよな。でもこれで俺がまともに使えるのって、土属性アースぐらいしかなくなっちまったぞ。
まぁ火と闇属性なら多少は使えるけど、はっきり言って、リッチマンやランシアの十分の一の効果もないだろう。やばいな。いきなり俺はお荷物確定か?武器を使った肉弾戦なんて、そんなに褒められた腕じゃないしな。そういえば、ドワーフのアクスさんからもらった剣があったんだっけ?せっかくの名刀だけど、俺には宝の持ち腐れだよなぁ。カルロスにあげるか。
「なぁカルロス。前に俺やリアが気球から放り出されて、森で遭難したときにさ、ドワーフのおっさんから、こんな剣もらったんだけど、カルロス使ってみるか?」
カルロスは俺から剣を受け取り、いくつかの構えをとったあと、誰もいない場所で振り回す。すごいな、俺が剣を振ってもそんなに音とかでないんだが、カルロスが振るうと一振りするごとにシュッと心地よい空気音が響く。
「ふうん。中々いい剣じゃねぇか。そんなに重くもないしな。でもこれはカシワがとっとけよ。俺は自前のこの剣がやっぱ一番だからよ。」
俺はカルロスに剣を返してもらうと、カルロスの所持している剣について尋ねてみた。
「なぁカルロス、おまえの持ってる剣ってさ、やっぱ相当な業物だったりするのか?」
「ああ、まぁな。こいつはちょっと訳ありの剣でよ。昔俺がちぃっとばかしグレてた頃にダチが使ってた剣さ。強度の割には軽いし、長時間持ってても疲れない。それによ、形状記憶合金で出来てるらしくてな。打ち合いで多少凹んだくらいなら、後で湯につけとけば元に戻るって優れものさ。」
カルロスの話を聞いてリアも興味が出てきたようだ。
「へぇ、そんなすごい剣なんだ。私もちょっと触ってみてもいい?」
「ああ、いいぜ。でも、いくら軽いって言っても、リアにはちょっときついかもな。」
リアがカルロスの剣を持って振り回す。リアも俺と同じで、あんまり剣を振ってもいい音はでないみたいだ。元々リアは剣より弓の方が得意だって言ってたしな。ちなみにリアは、ドワーフのアクスさんから、専用の弓をもらっている。
「うん、やっぱり私にはちょっと向いてないかも。カルロスいつもこんなの振り回して戦ってたんだね。なんか見直しちゃった。」
「ついでに惚れ直してくれてもいいんだぜ。」
「それはダーメ、私にはカシワしかいないも〜ん」
リアはカルロスに剣を返した後、俺の腕を組む。なんかこう、改まって皆の前でこういうことされると照れるな・・いや、嬉しいんだけどさ。リアの柔らかい腕の感触と、美しい髪の香りを堪能しながら、俺もリアの頭を優しくなでた。
「ちぇっ、いいよな、二人とも幸せそうでよ。なぁレナ、俺たちも真似しようぜ。」
「私とあんたは別に付き合ってるわけじゃないだろ。やりたかったら一人でやりな。」
「一人でどうやって出来るんだよ?」
それを聞いて、俺とリアが笑い出す。レナも釣られて笑う。カルロスだけが少しムッとしてたが、最後はカルロスも一緒になって笑い出した。ランシア達から連絡がくるまで、早くとも数日はかかるはずだ。
この前来たときはランダ村は只の通過点にすぎなかったもんな。元々は観光旅行に来てるんだし、少しぐらいゆっくりしていってもバチはあたらないだろう。
「なぁ皆、せっかくだからさ、ここの名物のケバブ食べてみないか?」
ランダ村は砂漠に面してはいるものの、羊の牧場などもあり、ここでは極上の羊肉を使用したケバブが旅行客に人気みたいだ。値段は少し高めでひとつあたり銅貨八枚するのだが(ちなみに銅貨一枚で喫茶満腹亭のコーヒー一杯飲める)、おそらくそれだけの価値はあるだろう。
俺たちはランダ村の屋台でケバブを人数分それぞれ違う味付けの物を購入し、皆で少しづつ食べて分け合う事にした。一言でケバブと言っても、オーソドックスなものから、チーズ味、チリビーンズが入ってるもの、一風変わったスープにつけて食べるタイプの物など様々あり、ランダ村ならではの独特の味わいが楽しめる。
「おお、こりゃうめぇ。やべぇな、おかわりしてぇけど、高いんだよな。」
「銅貨八枚だからねぇ。まぁ後一個ぐらいならいいんじゃない?」
「よし、じゃあこいつにするか?」
カルロスが手に取ろうとした物をみる。カレー味か・・なんか元の世界の祭りの屋台でも、こんなの見かけたっけ。新たに追加したケバブを一切れずつ人数分にわけ、口の中に放り込む。
おおっ、カレー味なのに肉汁がどんどん出てきて、それでいてあっさりしている。こいつも旨いな。ここにグラ爺がいないのが残念だ。グラ爺なら、大抵の料理は一口食べれば、材料から調理方法まで大抵把握出来るから、満腹亭で再現出来るのに。俺たちは砂漠沿いの街で、この旅行始まって初の、ごく普通の観光らしいことを楽しむ事にした。
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「さてと、やっと王都フランに着いたわね。ニーナ、まずは織物工場に向かいましょうか?」
「えっ、織物工場?どういうこと?役所に行って、ゴクアたちのノルヴェ村での行為を訴えるんじゃないの?それにノルヴェ村産の宝石はもう購入しなくていいの?」
「宝石の件はマゼランたちに任せておけば大丈夫。役所にはリッチマンとチューギーさんに行ってもらう事にするわ。特にチューギーさんの証言があれば、役所もそれなりの反応は見せてくれるでしょ。でも、ゴクワは相当な権力者って話だからね。もみ消されちゃうかもしれない・・」
「じゃあ、意味ないじゃない。」
「大丈夫よ、リッチマンがついてるもの。さあてニーナ、私達は織物工場に行って素敵なお洋服の原材料達を見繕ってきましょうよ。」
「ちょっと、何考えてるのよ?ノルヴェ村の人たちは?」
「全ての道は一つに通ずってね。案外、意外な物が意外な形で役に立つかもしれないわよ〜、さ、行こ行こ。忘れがちだけど観光旅行なのよ、これ。楽しまなきゃ損じゃない。それじゃリッチマン、チューギーさん、後宜しく〜」
ランシアは戸惑うニーナを連れて、フランの街角にある織物工場へと向かう。リッチマンはランシアたちに手を振って見送るが、チューギーは浮かない顔だ。
「あの、リッチマンさん、大丈夫なんでしょうか?」
「俺にはさん付けなんていりませんよ、チューギーさん。第一言いにくいでしょ?」
「いや、そういう問題よりも・・」
「ハハッ、ランシアのことですか?気になりますよね、ランシア、美人だし。」
「いや、それも違う問題で・・」
「分かってますって。ランシアがああいう態度に出るときはね、もう大体のプロットが出来上がってるんです。だからチューギーさんは何の心配も無く、王都フランに行って、チューギーさんが知りうる限りの事を洗いざらい話してください。」
「リッチマンさん・・いや、リッチマン。あの、本当に信じていいんですね?」
「ええ、お任せください。それじゃ、俺たちも行きましょうか?」
リッチマンとチューギーはフランの役所に出向く。とりあえずは通常の手順通り、受付で手続きをとり、待機室で待つ。チューギーは内心震える。今から自分がやろうとしていることは、かつての主君ゴクアへの裏切りであり、巨大な権力者への宣戦布告でもある。
だがこれもリニアやライラを守るためだ。そもそもついこの前までは、自分の手でリニアを葬るところだったのだ。それが、信じられないような奇跡の末、リニアも自分も無事にこうして生きている。今更何を怖がる事があるだろう?
「リッチマン、あなた方には本当に何とお礼を言ってよいか、感謝の言葉も見つかりません。でもいいのですか?役人に告訴するのは私だけでいい。何もあなたまで危険に身をさらす事は無い。今まで助けて頂いた分だけで十分すぎるほど恩義を感じています。」
「何を言ってるんですか?リニアさんやライラを本当に安心させるために必要な事何でしょ?俺の事なら心配いりません。遠慮せず、堂々と胸を張ってきてください。」
係員がチューギーたちを呼ぶ。いよいよだ。チューギーは一度大きく深呼吸し、役人との面談室の扉を静かに空けた。




