チューギーの決断
「なぁリア、機嫌なおしてくれって。大体、俺の心読めたんなら、俺がリアをもっと守れるようになりたいって部分だって読んだはずだろ?ほとんど同時刻に思った事なんだからさぁ」
「うっ・・そりゃ嬉しくなくもないんだけど、その・・」
「その・・なんだよ?」
「もう、カシワのバカ。恥ずかしいじゃない。知らないっ!」
リアは相変わらずいつも可愛いな。後で頭でもなでてやるか。いや、今なでよう。リアは怒った表情を浮かべながらも、黙って頭をなでられている。やっぱり可愛い。俺は調子に乗ってリアにキスしようとしたが、今度はリアにはたかれてしまった。さすがに反省しなきゃな。だがそれでもリアは俺に寄り添ってきた。
スフィンクスに思いもかけない形で、かなり有用そうな報酬を受け取った俺とリア。残念ながら、報酬を受け取ったのは俺たち二人だけらしい。カルロスとリッチマンが羨ましそうにこちらを見てくる。
うっ・・そんな目で見るなよ。別に俺が頼んだわけじゃないんだからさ。っていうか、カルロスたちにも能力あげるよう頼んでみるか。
「なぁ、スフィンクスさん。俺の連れ、カルロスやリッチマン、それとライアンさんやライラにもさ、能力付与っていうか、なんか与えてくれって言ったら図々しいかな?」
「別に構わんよ。構わんが・・わらわは疲れた。人に能力与えるというのはじゃな、わらわの体力と気力を引き換えにしておるのじゃ。じゃからな、わらわの頼みも聞いてくれぬかのぅ」
なんだろう?五感の鋭さに加えて、時を数秒巻き戻るなんて、めちゃくちゃすごい能力もらったんだ。リアも少しだけだが心を読む力なんてものをもらったわけだしな。元々パンと干し肉だけじゃ割にあわないと思ってたし、俺としちゃ全然異論はない。
「ええ、構いませんよ。こんなすごい能力もらったんですからね。ただ、時間がかかるような頼みなら少しだけ待ってもらえますか?今、俺たちは友人の姉を助けに向かっているところなんです。その後でなら、俺たちに出来る事でしたら、協力させてもらいますよ。」
「ふむ。事情ありか。お主らも苦労しておるのじゃなぁ。まぁよい。わらわの頼みはどちらにしろ、すぐに解決出来るような者でもないしのぉ。お主らが抱えておる今の問題を解決したら、また来るがよい。と言っても場所が分からぬか。ふむ困ったのぉ。」
「あの・・それなら、もしよかったら、念話で連絡をとることが出来るかと思います。」
「念話じゃと?」
「ええ、俺たちの仲間にキューちゃんっていう便利なやつがいましてね。説明すると長いんですが、論より証拠です。今ここで実際に試してみましょうか?」
俺はキューちゃんに頼んで、いくつかの言葉を念話でスフィンクスに伝えた。もちろん俺自身の口は全く動かしていない。これにはスフィンクスも驚いたようで、場所を選ばず心に念じた事を相手に伝えるという芸当にそうとう興味を持ったようだった。
「ほぅ、お主らもなかなか不思議な力を持っておるではないか。今度は逆にわらわの方が驚かされたようじゃな。確かにこれならいつでも好きなときに連絡をとりあえるな。よし分かった。では、友人の姉とやらを助けたら、またわらわを呼ぶがよいぞ。」
「ありがとうございます。じゃ、そのときにまた宜しく。皆は悪いけど、スフィンクスの能力付与の件はそれまで待っててくれるか?」
「ああ、仕方ないな。とっととライラの姉貴助け出して、スフィンクスの頼みとやらを聞いて、俺らもパワーアップしたいからな。」
カルロスが頷くと、リッチマンも同意する。
「そうですね。それまではお楽しみってことでとっておくことにしましょう。」
「じゃあ、スフィンクスさん。そのときが来たら、また宜しくお願いします。」
「ああ、気をつけてな。わらわも無事にお主らの思い人を助けられるよう、祈っておいてやろう。」
「ありがとうございます。それではまた。」
俺たちは、スフィンクスと別れ、再び、砂漠の旅を続けることになった。その後は幸い、特に不思議な出来事や厄介なトラブルもなく無事、ノルヴェ村の近くまでたどり着く事が出来た。
「あれか・・こりゃ、想像以上にやばいな・・」
遠目で見ても、ノルヴェ村の惨状は悲惨の一言につきた。以前に聖者の集いに捕まったときに、強制労働させられている人々を見た事があったが、これはさらにその上をいく。これが本当に人の暮らしなのだろうか?
行き交う人々に活気がないなんていう生易しいものではない。ほとんどの人々が起きながら眠っているような、目の焦点がまるで定まっておらず、ただ見張りの兵士達の奴隷と化していた。間違っても、兵士達は村人を守っているわけではないことは確かだ。
「リアとライラは馬車の中で待っててくれ。それとライアンさんはもしものときのために、リアやライラの側についててくれますか?さすがに兵士達もここまでは、来ないとは思いますが、万が一ライラがここにいることが知られれば、まずいことになりますので。ライアンさんのような強い方が護衛しててくだされば、俺たちも安心して行動に移る事が出来ます。」
「わかりました。二人のご婦人方はこのライアン、責任をもってお守りしましょう。」
「よろしくお願いします。じゃあ、リア、ライラ、行ってくる。」
「うん。カシワ、それにカルロスもリッチマンも気をつけてね。」
「ボクもここで姉さんの帰りを待ってるよ。あの・・あんまり無茶はしないでね。」
「平気さ。今回は戦いに行くわけじゃないからな。じゃあ行ってくる。」
待ってろ、リニアさん。あともう少しで妹のライラに会わせてやるからな。だから頼む。まだ生きていてくれよ。俺とカルロス、リッチマンはいよいよノルヴェ村へと歩き出した。
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「リニア殿。誠にすまぬ。結局、俺にはリニア殿を助ける事が出来なかった。ゴクア様からの命令でな、明日には、刑が執行される事になってしまった。なんどもゴクア様に考えを改めてくださるようお願いしたのだが、本当に申し訳ない。」
「チューギー様。頭をあげてください。あなたは本当によくしてくださいました。知っていますよ。私のために、わざわざ入手の難しい食料を調達してくださった事、刑までの間、少しでも私の気が和らぐよう、さりげなく花々を飾ってくださった事、私が安心して眠れるよう、私が寝入っている間、ならず者の兵士達から私を守るためにドアの前で寝ずの見張り番をしてくださったこと。それにいつも私の気を紛らわそうと、おしゃべりの相手をしてくださいました。妹も無事、村を脱出出来たのですし、最後にあなたのような方と出会えた。私は幸せ者です。」
チューギーは目の前の可憐で気丈な女性を正視することが出来なくなっていた。騎士が人前で涙を見せるのは、恥ずべき事だが、今はそんなこともどうでもいい。チューギーはリニアへの思いから、涙があふれてくるのを止める事が出来なくなっていた。
「何が幸せなものか!何故あなたのような立派な方が、一体何の罪で処刑などされるというのですか。しかも、明日、あなたの首をはねるのはこの私なのですよ!それこそ、罵倒して殴りつけてくれた方が、ずっとましというもの。私は最低の騎士です。いや、もはや騎士などではない。ただの外道にすぎまぜん。」
「ふふ。本当に外道であれば、自分のことをそのように責めたりはしませんよ。チューギー様は立派な騎士様です。さぁ騎士様が私のような女のために涙など流す必要はありません。どうぞ最後まで堂々と胸を張っていてください。私にとってはそれが一番の救いなのですから。」
「リニア殿!」
チューギーは思わずリニアを抱きしめていた。自分でも何故そのような行動にでたのか分からない。いや、本当はわかっている。リニアを助けたいのに助けられない自分。その弱さと不甲斐なさ。だがそれだけはない。チューギーはいつのまにかリニアを一人の女性として見ていたのだ。
自分が処刑されるという運命にも関わらず、いつも心配するのは妹の事と自分の事。リニアは自分の気が和らぐように、チューギーが色々してくれたと言っていたが、本当は逆。リニアの方こそ、チューギーの気が和らぐように、ずっと気遣っていた。
本当は誰よりも辛い立場のはずなのに、そんなことはおくびにも出さず、絶えず笑顔を振りまき、周囲に気を配り、常に優しさを忘れない女性。そんなリニアにいつのまにか男女としての愛情をいだくようになっていた。そのリニアをよりによって、明日、自分の剣で首をはねることになる。
リニアにとっても残虐な行為だが、チューギーにとっても過酷な話だ。いや、これからチューギーは生き続けなければならない分、下手したらリニア以上に辛いことかもしれない。
「チューギー様。どうなされたのですか?変ですよ、今日のチューギー様。いつもはこんなことしないのに」
「ええ、変です。変ですよ。リニア殿をお助け出来ない弱い自分。そして、そんな弱くて卑しいにも関わらずリニア殿をいつの間にか、お慕いしていた自分。リニア殿。最後に私の思いを聞いてください。私はリニア殿を愛しています。リニア殿の優しさ、気丈さ、美しさ。全てを愛しています。リニア殿程高潔で気高い、そして慈愛に満ちた女性は他におりません。」
「チューギー様・・」
チューギーはリニアを抱きしめる力をより強めた。リニアの方もチューギーを抱きしめ返す。リニアがチューギーに抱きしめられながら震える。本当は怖かったのだ。それも当然の事。明日、自分の首がはねられると分かっていて、怖さをかんじないものなど、よっぽどの異常者でもない限り、いない。
「やはり、リニア殿が処刑されるなんて絶対に間違っている。俺は今日、今この時点で騎士をやめる!逃げ出そう、リニア殿!」
「チューギー様。そんなことしたら今度はあなたの身まで危なくなってしまします。」
「構うものか。目の前で震えている愛する女性すら助けられないで、何が騎士なものか。俺はもうゴクアの忠臣であることを辞める。只の裏切り者でかまわん。いくぞリニア殿。」
「どこへ出かけられるのですかな?」
チューギーとリニアは同時に後ろを振り返る。そこにはタイタンが大勢の兵士を連れて、立ちはだかっていた。




