思いがけないご褒美
「くっくははははは」
スフィンクスは笑い出した。なんだろう?そんなにまずい答えだったかな?
「何故、わらわがお主らを食わなければ、ならんのだ。お主らの目にはわらわはそんなに凶悪な魔物に見えるというのか?」
「えっ?いや、あの・・そういうわけでは・・」
「くくっ、くはは。ああ、よいよい。確かにそういう目でわらわを見る者も確かにおるでな。この姿がまずいのかのぅ。どれ、これならどうじゃ?」
スフィンクスの体が紫色の煙に包まれだした。煙がなくなると中から、一人の少女の姿が現れる。
「何を驚いておる。わらわじゃ。お主らがいうところのスフィンクスなるぞ。どうじゃ、この姿なら、人を食べるようには見えまいて。」
確かに・・しかも可愛いし。目の前の黒髪ロングヘアの少女は、白のワンピースを着ていて、服からは小さい手足がちょこんと出ている。瞳は大きいが小顔で、顎が少しだけ角張っている。悪くない顔立ちだと思う。カルロスやリッチマンもかなり驚いたようで、目の前に突如出現した美少女にみとれている。かくいう俺も見とれてしまったのだが、リアの手前あまりニヤニヤするのもまずいと思い、必死で自重する。
「もう、男って本当みんな同じよね。ねぇリアさん、こうなったら、ボクたちだけであの魔物と戦おうよ。」
美少女と化したスフィンクスの前で何も出来ないでいる俺たちを尻目に、ライラが呟く。リアは苦笑するだけだったが、正直俺もこんな可愛い子相手に戦う気なんてもうおきなくなってしまった。
「それでさ、結局答えはなんだったんだ?」
「答えとは何じゃ?」
「いや、だからさ、あんたが何考えてるかあてろって話だったじゃん。」
「おお、そうだった、そうだった。すっかり忘れてもうたわい。にゃははは。」
・・忘れるなよ。自分から謎掛けしてきたんだろうが。しかも、いかにもってかんじで登場していておいてさ。
「それではヒントをやろう。その1、わらわは非常に腹が減っておる。」
「え?さっき、俺たちの事、食う気はないっていったじゃん。」
「最後まで聞けい!その2、別にお主らを食う気はない。」
「んじゃ、何だよ?」
「だから、聞けっていうとるじゃろうが。その3お主らは旨そうなパンと干し肉を持っておる。」
「・・要するに俺たちのパンと干し肉を分けてほしいってそういうことか?」
「おお、正解じゃ。わらわの謎掛けに見事答えるとは、お主やるではないか。」
・・謎掛けでもなんでもないし。ったく、だったら、最初から手の込んだ事しないで素直にそう言えっての。しょうがない、まだ余ってるし少しぐらい分けてやってもいいだろう。だけど一応皆にも確認しておかないとな。
「なぁ皆、別に構わないよな。少しぐらい、こいつに食料あげてもさ。」
「いいんじゃねぇのか?ライラのいた村までは、もう少し距離があるけどよ、その分と帰りの分を取り除いても十分余るだろうしな。」
「ああ、俺も構わないよ。どうせほとんどホロの中で寝てるだけだから、そんなに体力も使わないしな。」
カルロスもリッチマンも別に異論はないようだ。だが、ライラが少しだけ困った表情を浮かべる。
「でもさ、ノルヴェ村についてからの食料ってどうするの?今のノルヴェ村には飲食店なんてないし、姉さんを助けるのにどれくらいかかるかも分からないのに、食料を減らすのはまずくないかな?」
ああ、そのことか。なら、問題ない。ノープロブレムだ。
「なぁライラ、おまえはまだ、あんまり知らないだろうけどさ。俺たちの仲間にランシアっていう悪知恵を・・いや、策を立てるのが得意なやつがいてさ。おまえの姉さんを助けるだけなら、もう算段がついてるんだ。と言っても、まだおまえに作戦は伝えられないけどね。意地悪してるわけじゃないよ。おまえをわざわざ危険に巻き込みたくないだけだ。んでさ、おそらくだけど姉さん助けるだけなら、半日もかからないと思う。今回はゴクアやタイタンは相手にしないつもりだし、姉さん助けたら即時撤収だからさ、食料についてはそんなに心配しなくていいと思うよ。」
「えっ?だめだよ。ランシアさんって、港町ハーバーでちょっと会った人だよね。あんまりよく知らないし、頭はいいのかもしれないけど、でもゴクアたちのこと甘く見すぎてるよ。見張りの兵士の数だって多いし、タイタンはあらゆる魔法がきかないの。そんな中で囚われの身となっている姉さんを助けるなんて、並大抵のことじゃないわ。」
「安心しろって。お前がそんな顔してちゃ、逆に姉さん助けたときに、姉さんに笑われちゃうよ?まぁノルヴェ村の惨状を身を以て体験してきたお前が信じられないのは無理無いけどさ、必ず姉さんは助ける。それも出来るだけ早急にね。ってことで、スフィンクスさん、お待たせ。いいよ、少しならパンと干し肉わけてあげる。」
俺はライラの頭を軽くポンと叩いた後、ホロの中にあった食料を少しスフィンクスに手渡した。
「おお、おお、かたじけないのう。うむ、これは旨そうじゃワイ。ところで、お前さん達何やらワケありなのかえ?そうじゃ一宿一飯の恩義じゃ。もっとも宿の方はもろうておらんがの。だが、わらわの謎掛けにも答えた事だし、よかろう。カシワとか言ったな。ちょっと近う寄れ。
なんだ?何かくれるのか?そういえば、こいつの考えあてたら褒美くれるんだっけ?俺はスフィンクスの方に近寄る。少女の小さな手が、俺の頭をなでる。なんだ?なんか体が暖まっていく。というか暑くなっていく。俺の周囲を覆う熱はどんどん強まり、やがて熱の渦が周囲の砂をも焦がす程の高温に達したかと思うと、今度は逆にどんどん温度が下がっていき、しばらくすると最初から何も起きてなかったかのように通常の状態に戻った。
「今のは一体・・」
「なぁに案ずるでない。お主の体のな、一部の機能を変換しただけじゃて。なかなかに役立つと思うぞ?有り難く受け取るが良い。まぁもっとも返品はきかぬがの。ふぉっふぉっふぉ。」
・・ちょっと待てコラ。俺の体の一部をどうしたって?人に断りも無く、人体改造手術みたいなことしてんじゃねえ!しかし、見た目には何にも変化は無いように見える。手足も動くしな。
はっ?まさか一部の機能ってあそこじゃ・・いや、大丈夫っぽい。ふぅ。でもだったら、何を変換したって言うんだ?
「あの、スフィンクスさん。すいませんが、どこも変わってないように見えるんですが?」
俺が尋ねるとスフィンクスは愉快そうに俺を見つめてくる。
「まぁすぐには気づかんか。無理もない。くくっ。気づかんなら楽しみは後でとっておくがいい。いずれわらわに感謝する日がやってくるぞえ。」
「いや、教えてくださいよ。」
「ダーメ、教えてあ〜げない。」
なんだ、そのノリは!?人の体を勝手に分けの分からん事してそりゃないだろ?だが少なくとも外見上はなんともなさそうだし、五感も変わらないように思える。いや待て。五感?そういえば、なにかやたらに皆の動きがスローに見える。普通にしていれば、これまでのあまり変わらないのだが、神経を集中して見ると、風に舞う砂の一粒一粒まではっきりと見える。もしかして改造ってこれのことか?
「なぁ、もしかしてさ。あんたが俺にした事って動体視力をあげることか?」
「ほう、気づいたか。だが視力だけじゃないぞ。聴覚、嗅覚、触覚、味覚すべてが以前とは段違いのはずじゃ。さらにじゃ、もっと面白いものもある。こう全身の力を全て抜く感じで目を閉じて落ち着いてみるがいい。」
五感全てって、そりゃすごい!たかがパンと干し肉の引き換えにしちゃ、めちゃくちゃ豪勢じゃないか!これならリアを抱くときに感じる感覚も・・いや、違う。そうじゃなくて、弱い俺でもリアを守りやすくなる。そのうえさらに面白いものか・・
とりあえずスフィンクスの言う通り、目を閉じて全身をリラックスさせてみる。なんだろう、また体が暖まっていく感じがする。もういいだろうか?目を開けると・・特に何も変わってないように見える。
「なぁスフィンクスさん・・」
「ほう、気づいたか。だが視力だけじゃないぞ。聴覚、嗅覚、触覚、味覚すべてが以前とは段違いのはずじゃ。さらにじゃ、もっと面白いものもある。こう全身の力を全て抜く感じで目を閉じて落ち着いてみるがいい。」
・・え?なんでさっきと同じ台詞を吐いてるんだ?
「スフィンクスさん、その台詞、さっき聞きましたけど?」
「くっくっく。聞いたか、そうかそうか。わらわの台詞を二度聞いたのじゃな?」
「それがどうかしたんですか?」
「おい、カシワの仲間の者どもよ。わらわは同じ台詞を二度はいたかね?」
「いや、別にそんなことねぇぞ。」
「カシワ、一体何を言ってるの?」
ん?どういうこと?スフィンクスのやつ、”ほう、気づいたか”で始まる台詞を確かに二回はいてるじゃないか。
「みんなこそ、何言ってるんだよ。もしかして、またからかってるのか?たった今、スフィンクスが同じ台詞はいたじゃないか?」
「カシワこそ、どうしたのよ?もしかして、砂漠の旅で疲れちゃった?」
なんだ?なにかがおかしい。皆と話が食い合わない。俺が考え違いをしてるだけなのか?いや、違う。もういちど、さっきのリラックスするかんじをやってみるか。俺は再び目を閉じて、体の力を抜いていく。先ほどと同じように体が暖まってくる。目を開けてみたが、やっぱりなにも変わらないじゃないか・・
「カシワこそ、どうしたのよ?もしかして、砂漠の旅で疲れちゃった?」
え?リアまで同じ台詞を二回?なんだ、なにがどうなってるんだ?新手のドッキリか、いや、皆して俺の事をからかっているだけなのか?
「リア、からかうなよ。リアまで同じ台詞二回も言うなんて。」
「カシワ、さっきから何を言ってるの?本当に大丈夫?」
なんだ?からかってるんじゃないのか?いやちょっと待て。これってまさか・・
「くっくっく。カシワよ。お主もそろそろ気づいたであろう。そう、お主は今、時をほんの数秒間だけ遡ったのじゃよ。お主にはな。ほんの僅かな時間だけじゃが、時を遡る能力が身に付いておる。この能力の使い方はお主しだいじゃが、使いようによっては、かなり役に立つであろう。わらわに涙して感謝するが良いぞ。」
なんてことだ・・俺はパンと干し肉の引き換えとして、とんでもない能力までもらってしまった。っていうか今この状態でカジノいったら無敵なんじゃないのか?リニアさんだけ助けたら、ゴクアやタイタンなんてほっといて、飛空挺にでも戻るか?まぁそういうわけにもいかないか。でも、こんな能力カジノで頻発させたら、間違いなくイカサマ疑惑かけられるだろうな。
何にしても、目の前のスフィンクスという名の美少女が言う通り、かなり役に立ちそうだ。うん。リアが見てなければお礼のキスをし、思いっきり抱きしめてあげたいところだ。いや、リアを裏切ってどうする。そうじゃない。ここはリアを守るための力が手に入ったと喜ぶべきだろう。
俺はスフィンクスにニッコリと微笑む。スフィンクスも俺に微笑み返す。リアが尋ねる。
「カシワ、さっきから何やってるのよ?言っておくけど、スフィンクスからお礼もらったのってカシワだけじゃなく、私もなんだからね。」
え?リアもなにか特殊能力もらったのか?まぁこのスフィンクスには、そういう力があるみたいだしな。
「へぇ、リアもなんか力をもらったんだ。どんな力?」
「知りたい?」
「うん。」
「目を見た人の心を、少しだけ読めるようになる能力よ。スフィンクスにキスして抱きしめたいですって?カシワの浮気者!変態!」
・・・・また時を遡ろっか?いや、もう数秒以上たっている。俺はとりあえずリアの機嫌を直す能力が欲しくなった。




