正義って何だろう?
寒くなって目を覚ますと、あたりは一面に寝転がってる奴らがいる。リアとライラはディアナの部屋を借りて寝たようだ。カルロスは豪快ないびきをかいて爆睡し、リッチマンはデッキから海の景色をぼぉーっと眺めている。ライアンさんとディアナは二人でずっと談笑していたらしく、眠らなかったみたいだ。
空を見上げると、満天の星空ってかんじで輝いている。プラネタリウムみたいだ。都会じゃ見れない風景だよな。今は何時くらいだろうか?深夜かもしかしたら明け方近いかもしれない。
「ちょっとトイレ行ってくるか。」
俺は海賊船のトイレを借りようとしたが、場所が分からない。どうしよう?海に向かってしてもいいが、大丈夫かな?起きてたのは俺とリッチマン、ライアンさんとディアナだけみたいだったようで、他の奴らは皆そこらへんに転がっている。起こしちゃ悪いので、俺は一人でトイレを探索する事にした。
「おい、あんた、どこ行くのさ?」
後ろから話しかけられ、振り返るとディアナがいた。さっきまでライアンさんと話してたかと思ったが、どうやら部屋に戻って眠るつもりらしい。
「あ、すいません、ディアナさん。ちょっとトイレ借りたいんですが、場所が分からなくて。」
「それなら、こっちだ。ついてきな。」
俺はディアナさんに案内され、トイレに向かう。こうして見るとディアナさんはなかなかスタイリッシュで、バランスが整った体つきをしている。赤髪のセミロングヘアーに、見事にフィットした青いレオタードのような服を身につけ、さらに上から黒くて小型のマントを羽織っている。赤、青、黒のバランスは色の組み合わせとしてどうかとも思うが、不思議とディアナさんが身につけていると、それが自然な感じに見える。ディアナさんが歩くたびに腰が小刻みに揺れるのが、眺めていて見飽きない。いや、こんなことしてちゃリアに悪いな。俺が一人で妄想している間にいつの間にか目的地に着いたようだった。
「ほら、ここだ。なぁ、あんたにちょっと聞きたいんだけどさ?」
ん?なんだろう。自慢じゃないが俺が知ってる事なんてほとんど無いぞ。さっきのライアンさんが船長にした話だって俺も聞くまでしらなかったしな。
「ライアンってさ、独身なのか?」
おおっと、そっちの話か。そういえばライアンさんって家族とかいたっけ?俺も聞いてなかったな。
「悪い、俺も知らないんだ。気になるなら後で聞いてみよっか?」
「あ、ああ、頼むよ。いや、別にどうでもいいことなんだけどさ、あはは・・」
分かりやすいやつ・・っていうか、こんな典型的なキャラ今時いないだろ。まぁ女性の身で普段から海賊なんてやってれば、恋愛話なんて疎くなるのかもな。こいつの立場からすれば、周囲は男だらけなんだから、もてるとは思うが、どうやら他の海賊たちには、その手の興味は持ってないらしい。
俺はディアナにライアンさんのことを伝えると約束し、用を足した後、どこに行こうか考えた。デッキにはまだ皆寝転がってるだろう。まぁとりあえずライアンさんに妻子がいるかどうか聞いてこようか。
俺はライアンさんの元に行き、ディアナから頼まれた事は伏せて、ライアンさんに家族の事を聞いた。どうやらライアンさんは独り身らしい。付き合ってる女性なんかもいないみたいだ。ディアナに伝えれば喜ぶだろう。
俺はディアナの部屋に向かった。まだリアたちは寝てるだろうか?だったら起こしても悪いな。ディアナにライアンさんのことだけ伝えて、俺もどこかで一眠りするとしよう。ディアナの部屋をノックすると、ディアナから返事がくる。
「カシワか?空いてるよ。」
俺はドアを開け、ディアナの部屋に入る。なんだ、リアもライラも起きてるじゃん。三人で仲良くポーカーをやってる。いや、仲良くか?見るとライラの元に大量のチップ代わりと思われる銅貨が積まれている。
「二枚チェンジでよし・・ベット。」
「私はドロップ。ライラはどうする?」
「コールよ。勝負ね。オープン。」
リアは降りたらしい。ディアナが先にカードを見せる。フルハウスだ。だがライラは余裕の表情を浮かべている。
「フォーカード。また私の勝ちね。いや〜悪いわね、皆。」
・・飛空挺のカジノでもそうだったが、ライラってギャンブル強いんだな。ライラの元にさらに銅貨が積まれる。だが賭けてると言っても、せいぜい銅貨数枚分だろう。俺は頃合いを見計らって、ディアナにライアンさんは現在独身である事、特に付き合ってる人もいないみたいだということを、そっと耳打ちして告げた。
「そっか、へへ・・そっかそっか」
ディアナは嬉しそうだった。だがそれがかえってディアナのギャンブル運をさらに減少させたのかもしれない。俺が耳打ちした後から、さらにディアナのツキが下降線をたどりだした。最初からライラが圧倒的に勝ってはいたのだが、ディアナからライラへ流れる銅貨の量がますます増して行く。ディアナの手元に残ったチップが残り数枚となった頃、ついに、ディアナは降参宣言をした。
「はぁ〜負けたわ。ライラ強すぎ。それにカシワもタイミング考えてよね。まったく。でもさ、ライラ思ったより元気そうじゃん。村でそんな悲惨なことがあったわりにはさ。」
ライラはディアナに対し、笑顔を浮かべる。だがその笑顔はどこかぎこちない。確かに見た目はライラは元気そうに見える。だが、俺やリア、ライアンさんは知っている。ライラは今は精一杯、皆を心配させまいと、無理してでも明るく振る舞っているのだ。俺はディアナに、なるべくライラが傷つかないように、ライラのことを伝えようと思った。
「なぁ、ディアナ。呼び捨てでもいいかな?」
「いいわよ、別に。むしろ、その方が助かるわ。女で海賊なんてやってるとね、なかなか気の合う対等の普通の友達ってのを見つけるのに苦労するのよ。だから遠慮なく、じゃんじゃん呼び捨てにして。」
「そっか・・ディアナも大変なんだな。分かったよ、少なくともここにいるメンバーは皆対等な友人として付き合って行こう。でさ、ライラのことなんだけど、彼女が本当に元気になるのはやっぱり姉さんを助け出したときだと思う。だからさ、ライラのこと、改めて宜しく頼むよ。」
ライラが俺の方を見る。やばい、かえって余計なお世話だったよな。ごめんよ、ライラ。そんなつもりじゃなかったんだ。だが、ライラは少しほっとしたような顔を見せた。
「カシワ、ありがとう。やっぱボクの空元気、見抜いてたんだね。そりゃそうか・・ボクは何としても姉さんを助けたい。でも、こんなに大勢の人たちの協力を得られるなんて、正直思ってなかったんだ。だから、皆本当にありがとう。」
「何言ってるのよ、ライラ。お礼を言うのは、きちんとお姉さんを助けてからでいいわよ。ねぇ、カシワ。」
リアが俺の方を向いて尋ねてくる。そうだよな、ライラの姉さん助けて、空元気じゃない本当の元気を取り戻させてあげないとな。
「そうだな。なぁライラ、もう俺たちは全員おまえの味方だ。もし、辛いんだったらさ、あんまり無理しなくてもいいからな。お前の姉さん、リニアさんはちゃんと助けるから。だから俺たちに気を使う事なんか無いよ。一人にして欲しいって言うんならそうするし、一緒にいて欲しいって言うんなら一緒にいる。
変な遠慮とかしなくていいからな。」
「そうよ、私達は別に頼まれたから、あなたのお姉さんを助けるわけじゃない。私達が勝手にあなたの力になりたいって思って行動してるだけなんだから。」
俺たちの話を聞いて、何故かライラではなくディアナの方が感嘆したようだった。
「あんたら、人良すぎでしょ。もしタチの悪い海賊に捕まったらカモにされちゃうタイプよね。でも、あたいは嫌いじゃないよ。ふぅん、ライラ、頑張ってたんだ。じゃあそのチップは遠慮なくとっときな。といっても、銅貨だから、いくら数十枚あるっていっても、たかが知れてるけどね。」
「ありがと。そうなのよ、ディアナ。この人たち、本当どこか甘ちゃんっていうか、あか抜けてない部分があってさ。でも、私もこの人たち皆大好き。感謝してるんだ。」
・・なんか褒められてんだか、けなされてんだか、分からないが、まぁいいや。さすがにもうそろそろ暖かい場所で一眠りしたい。デッキで寝たけど、全然疲れがとれてないもんなぁ。俺もディアナの部屋で寝るというわけにもいかないので、結局船内にあった倉庫をかりることにした。ディアナから場所を聞き、倉庫室へと向かう。
「あっ」
倉庫室に入ると、さっき海賊船に乗る前に乗ってた船で見張り役をやっていた船員がいた。やっぱりこの人、海賊との内通者だったんだな。向こうも俺の顔を覚えていたようだが、その後のマゼランとライアンさんとのやりとりなども聞いてたらしく、親しげに話しかけてきた。
「さっきはどうも。」
「いや、どうもじゃないでしょ。あなた、やっぱり海賊と通じてたんですね。なんでこんなことしてるんですか?」
「通じてるっていう言い方は語弊がありますね。私は元からこちら側の船の乗組員、つまり私も海賊の一人なんですよ。グエンと申します。宜しく。私のような立場の人間は他にも大勢います。富裕層がある程度以上乗るような船に、船員として潜り込み、航路や客質、客数などを報告するのが私の役目です。必要に応じて、混乱を大きくしたりすることもありますが、逆に出来るだけ客に怪我をさせないための配慮なんかもするんですよ。」
・・ダメだろ、そんなの野放しにしちゃ。だがマゼランにライラたちに協力してもらう約束をしてもらった以上、敵対行動をとるわけにもいかない。
「グエンさんは海賊から足を洗う気はないんですか?」
「ありませんねぇ。少なくとも今は。船長のマゼラン3世には恩もありますし、普通に船員として働くよりも、こちらの方がずっと実入りもいい。何より自由なんですよ。その分リスクもありますがね。いずれは王都の兵士たちに逮捕される運命だとしても、やっぱりこちらの生活の方がいいですよ。」
「でも、被害に遭われている方もたくさんいるんですよね?」
「被害と言いますが、私達は女子供は狙いませんし、貧しい方、一所懸命働いてる方もターゲットからは外すようにしています。私達が狙うのは富裕層で、特にその中でも自分自身は碌な労働もせずに、利益だけを貪り食ってるような連中ですよ。それにね、そういった方々から有り難く頂いた金品を、逆に貧しい人たちや、普段からちゃんと働いている人たちに還元もしてるんです。私達のおかげで救われたって人も大勢いるんですよ。」
・・そういうものなのだろうか?どんな理由があろうとも、ターゲットが誰であろうとも金品を強奪するような行為は許されるものではない。だが、彼らのおかげで助けられたという人々も大勢いる。
正義か悪かで言えば間違いなく悪なんだろうけど、そもそも最初から弱い人たちを虐げて、利益を貪ってる連中をきちんと裁けないのも問題なんだよなぁ。だからって海賊行為は許されないんだけどさ。
「俺はやっぱりグエンさんのように海賊を認める事は出来ないよ。でも、あんたらのおかげで救われてる人々が大勢いる事も確かなんだろ。俺は王都の騎士団とか裁判官ってわけじゃないんだし、人を咎める立場には無いけどね。
ふぁぁ、それより眠いんだ。悪いけど話は後にして、ちょっと眠らせてもらえるかな。」
「どうそ、ご自由に。毛布もありますよ。」
「サンキュー、有り難く使わせてもらうよ。」
俺は毛布にくるまり、何が正義かなんて柄にも無い事を考えながら、いつの間にか眠りについていた。




