海賊船で船上パーティー
ライアンさんとマゼラン3世の壮絶なバトルの後、海賊船では俺たちの歓迎会を兼ねて宴が開かれることになった。さすが海賊だけあって飲みも豪快だ。ラム酒や麦酒を樽ごと飲み干すようなやつらもいる。
「しかし、ライアンの兄貴すげぇっすね。一体どうやって、あんな動きを身につけたんです?」
ライアンさんの周囲には人だかりができている。なんかこうしてみると、海賊の宴って言っても、普通の飲み会とそれほど変わらないように思える。料理も豊富で、飲むというよりはほとんど食べるという感じのポテトスープやローストビーフ、鳥の丸焼き、シーザーサラダなど、普通のレストランでだされるようなメニューが並ぶ。
専属の調理師がいるらしく、普段から海賊達の料理を賄っているらしい。他にも会計士などもいるとのことだ。略奪した金品に税金でもかけるのだろうか?
しかし、これが意外に重要な職らしく、奪った金品の値定めや、すぐには金に換えづらい強奪物の売買ルートまで、一手に担ってるそうだ。会計士というよりは、金品取引請負人とでも言い換えた方がよさそうだが。
「ねぇカシワ、ライアンさんと海賊の船長さんが戦ったって本当なの?」
リアが尋ねてくる。そういえば、リアとライラはまだそのころ透明になって部屋に隠れてもらってたんだっけ。俺はリアにさっきみた戦闘の様子を伝えた。と言っても、ライアンさんの動きに関しては、ほとんど肉眼では見る事が出来なかったため、ほとんど伝えられるようなことはないのだが・・
「おうよ、俺でも目で追うのがやっとだったぜ。普通の人間なら、ありゃ見れねぇだろうな。」
「ああ、かなりのスピードだったからなぁ。人間であれだけ動けるってことは、相当修行とかしたんだろうな。」
カルロスとリッチマンも話に割り込んできた。カルロスとリッチマンは、かろうじてライアンさんの動きを目で捉えることが出来てたみたいなんだよな。俺には正直、音しか聞こえなかった。なんかたまに動いているのがいるなぁってくらいだ。
ライアンさんの方を見ると、今度はさっき助けた女海賊と話をしている。ディアナとか言ってたっけ。
「あんた、やるじゃないか。うちの親父とタメはれるやつなんざ、探してもそうはいないさね。」
ディアナがライアンさんに腕組みしている。おお、なんかいいかんじになってるじゃないか。周りの海賊達もはやしたてる。ライアンさんは少し照れているようだ。
しかし、ライアンさんは一体どういうつもりで海賊船への招待など受けたのだろう。思ったよりも怖くないし、宴も楽しいから結果オーライといえばそれまでなんだが、ライアンさんはさっき作戦と言った。何かライアンさんなりの目的があるのだろうか?
「ところで、マゼラン3世殿。折り入って頼みがあるのですが、聞いてもらえますかな?」
ライアンさんが、再度船長の方に向き直る。
「マゼランでよい。何だ言ってみろ?娘の命の恩人の頼み事とあれば、寛容にもなるが、奪った金品を返せとかそういう話か?」
「いえ、まぁそれも出来ればお願いしたいのですが、頼みは別のものです。海賊の方であれば宝石類の取り扱いには、それなりに慣れているのではありませんかな?」
「確かに、宝石類を奪う事や海底遺跡などから探し出すこともあるからな。それがどうした?おまえも宝石が欲しいというのか?」
「せっかくですが、私自身は宝石にそれほど興味はありませんよ。ところでノルヴェ村という地名は聞いた事がありますか?宝石鉱山を近くに持つ辺境の地にある村なのですが。」
「ノルヴェ村か・・最近は、あまりいい噂は聞かんな。どこぞの貴族が手を出してからというもの、あそこの宝石は質が落ちていてな。おそらく、採掘の過程で無茶な取り方をしているのであろう。せっかくの原石が傷だらけになっておる。元がよいものであるだけに、実にもったいない事だ。」
「実は私の連れの一人にそのノルヴェ村出身の者がおりましてな。ライラと申す者です。ライラ、悪いがちょっとこっちに来てくれるか?」
ライアンさんがライラを手招きする。いきなり話をふられた事に驚いたライラだったが、気を取り直してライアンさんの元に駆け寄る。
「なんかボクに用?」
「ああ。こちらのマゼランさんはな、海賊ではあるが義を重んじる立派なご仁だ。もっとも金品の強奪はしているから、善人とは言えんが・・それでな。こちらのマゼランさんに協力を仰ごうかと思う。ライラ、お前の姉さんと村での出来事を、マゼランさんに話してみないか?」
ライラは戸惑う。正直村での出来事はあまりに凄惨なため、あまり出会う人々に話たくはないのだろう。無理もない。だがライラはしばらく逡巡したものの、やがて意を決したように顔をあげた。
「分かった。話すよ、ボクの村のこと、姉さんのこと・・」
それからライラはゆっくりとノルヴェ村の惨状を話しはじめた。今、村人達がどんな目に遭わされているか、最後に姉さんと分かれたときの様子、元々は自分たちで経営していた村の変貌。貴族ゴクアや領主タイタンのこと・・
話をしている間、周りの海賊達もみな、しんとなってライラの話に耳を傾ける。ライラの話に泣いてる奴らまでいた。なんだ、海賊って言っても、そんなに悪い奴らじゃないみたいだな。ライラの話が終わった後、マゼランが静かな口調でライラに尋ねる。
「それで、お前は姉を助けたいというわけか。だがな、俺たちは所詮海賊だ。おまえに同情はするが、ゴクアとかいうやつは貴族の中でも相当な権力を持つのであろう?悪いが、俺たちにそのゴクアとかいう貴族を始末しろって話なら断らせてもらう。」
まぁそうなるよな。いくらマゼランたちが海賊の中じゃ、いい人たちだとしても、そもそもゴクアとの間じゃ実力差がありすぎる。ゴクアの私兵団だけでも、その人数は、おそらくここの海賊全員をゆうに超えるだろう。数は力だ。だが、ライアンさんは余裕の笑みを浮かべている。
「ふふ。別にあなた方にそこまでしてもらおうなんて考えてませんよ。ほんのちょっとした協力をお願いしたいだけです。それにこれはあなた方にとっても利になることです。」
マゼランはライアンさんの方に向き直る。
「おまえは一体俺たちに何をさせたいのだ?この船に乗ってきたのも、それが目的なのであろう?」
「ええ、そうです。なぁに簡単な事ですよ。あなた方が強奪した・・いや取引した宝石のうち、あなたの目で見てこれは価値のあるものだと判断した宝石を、以前のゴクアたちが来る前にノルヴェ村で採掘した宝石として公表してほしいのです。それと反対に、これは粗末だと思える作りの宝石を今のノルヴェ村の宝石として同時に取り扱ってほしい。出来れば、二つの宝石は同時に取り扱ってくれる事が一番でしょう。素人が見ても、価値の差が歴然とするほど、見た目の美しさから、何から何まで異なる二つの宝石を同時に取り扱ってほしいのです。」
「・・なるほど、それでノルヴェ村の宝石の価値がゴクアたちがやってきてから、急激に落ちたということを世間にアピールするわけか。なかなか考えるじゃないか。」
「これは私どもの仲間の一人、ランシアという方と相談して決めたやり方なんですがね。これを繰り返せば、上手くいけば、今のノルヴェ村産の宝石の市場価値が下がるでしょう。値下がりした宝石をまとめて買い、我々がノルヴェ村の件を解決した後、ノルヴェ村の宝石の価値が元に戻ったときに売りさばけば、その差額はそっくりそのまま、あなた方の利益となるわけです。こちらの案はもう一人の仲間ニーナという方が提案した案ですが、あなた方にとっても悪い話ではないでしょう?」
「そんなに市場価値が都合良く変動してくれるとは思えんが・・だが、まあよい。その行動が娘の命の恩人であるおまえや、そこのライラとかいう娘のためになるというなら、協力してやろう。」
「ありがとうございます。なぁに大丈夫ですよ、今のノルヴェ村・・というかゴクアの評判を下げる手はまだまだ、先ほど名をあげたランシアが考えてくれています。ゴクアのような野心を持つ貴族に取って、世間の評判というものは、それほど軽くはないはずです。ゴクアがノルヴェ村に対して行っている仕打ちが世間の目にさらせれるようなことになれば、間違いなくダメージはあるでしょう。そして市場価値というものは、商品やサービスそのものの品質に加え、世間の評判というものが大きく作用してきます。きっと面白い事になると思いますよ。」
・・これがライアンさんの作戦だったのか。だからライラたちまで海賊船に連れてくる必要があったんだな。おそらく俺の知らない間にキューちゃん念話でランシアやニーナと情報交換しつつ作戦を練っていたのであろう。
世間の評判か・・そうだよな。戦いの勝敗を左右するのは何も剣や魔法だけじゃない。相手が最も嫌がるであろうことを効率的につく。これも立派な戦いの一つだ。
以前にランシアがニーナにどれでもいいからノルヴェ村産の宝石を一つ購入してほしいって頼んでたのも、おそらく今のノルヴェ村産の宝石の市場価値をさげるための画策だったのだろう。ランシアのやつ、あの時点でここまで読んでいたのか。
「へぇ〜、ライアン、色々と考えてんじゃないのさ、ますます気に入ったよ。さぁ、とりあえず飲みなよ。ライラおまえも飲むだろ?うちのラム酒はちょっと他では味わえないよ。」
女海賊ディアナがライアンとライラにラム酒を進める。ライアンさんは飲めるだろうが、ライラは未成年じゃないのか?いや、こちらの世界じゃ20歳じゃなく、もっと前から成人になるらしいから、酒も大丈夫らしいが。そういえばカルロスもリッチマンも酒は強いんだよな。カルロスなんて、もうひと樽空けそうな勢いだ。
俺は酒は飲まないので、代わりに飯の方に目を移す。特にここのポテトスープが気に入って、何倍もおかわりしている。そんなに色々な材料が入ってるわけじゃなく、ベーコンやパセリが入ってるだけのシンプルな作りだが、塩胡椒がいい具合に効いていて、なかなかに上手い。それにボリュームもある。スープだが、これだけで一つの料理としても成り立つかもしれない。
「リアは酒飲まなくてもいいのか?」
俺がリアに話しかけると、リアは首を横に振った。
「ここのお酒ってきついのが多くて。多分アルコール度数が他より高いんじゃないかな。美味しいんだけど、最初の一杯で十分ってかんじ。カシワはお酒飲まないんだよね?」
「まぁ一応日本じゃ20歳未満は禁酒ってことになってるからな。それに正直俺にはまだ酒のうまみってのがよくわからないし。しっかし、皆よく飲むよな〜 アルコール度数が高いはずの酒樽がどんどん空になっていくってすごいことだよな。」
「そうだね。お酒が強くないと海賊にはなれないなんて決まりでもあるのかしらね。」
「いや、ここの酒は純粋にうまいぜ。飲めないやつにはちぃっときついかもしれんが、渋みと甘みがほどよくブレンドされてやがる。きついって言っても、口当たりはいいしな。」
いつの間にか、カルロスが俺たちのところにやってきていた。こいつあれだけ飲んで全く顔色変わらないんだな。カルロスの話によるとここのラム酒はほのかな甘さを感じつつも、口の中に含むとまろやかなかんじになるらしい。コクもあるということなので、純粋なラム酒ではなく、中にべつのものも入っているのかもしれない。俺も一杯だけ飲んでみようかな。っていうか、カルロスのやつ、ちょっと前まで船酔いだったはずだろ。ライアンさんに回復してもらったとは言え、そんなに飲んで平気なのかよ。
いつの間にか料理もどんどん新しいのが追加されてくる。マルゲリータや、ボロネーゼなんかもあるようだ。俺はポテトスープでけっこう満腹になっていたのだが、せっかくだからということで、さらに追加された料理をとりにいった。
まさか海賊船で船上パーティーやることになるとは思わなかったが、思わぬ形で、ノルヴェ村を助けるための収穫もあったし、これはこれでいいか。カルロスはその後、再び酔い続けるまで、ひたすらラム酒を飲み続けた。俺とリアは何人かの海賊と仲良くなり、これまでの武勇伝をひたすら聞かされ続けた。
結局ランダ村まで船長が俺たちを送ってくれる事になり、俺たちはデッキの上で眠るまで、ひたすら海賊主催の船上パーティーを楽しんでいた。




