ノルヴェ村に向けて出発
「さてと、まずはこれからどうするかってことなんだけど、リニアさんを助けるには、方法は主に三つ。一つは貴族ゴクアや領主タイタンの目を盗んで、うまくリニアさんを連れ出す。二つ目は正面突破で正攻法で助ける。最後の一つはリニアさんが自分で村から抜け出してくれるよう、手助けする。たしかライラが村から逃げたときは、茂みの奥にある井戸が下水道に通じていて、そこを通って、村の外に出たって話よね?」
ランシアがライラに確認する。
「ええ、そうよ。ただし、今はもうその井戸は封鎖されていると思うわ。私が逃げた方法は、ゴクアやタイタンも気づいているだろうしね。ゴクアやタイタンの目を盗んで村に入るのは容易じゃないと思う。」
「村に入るだけなら、そんなに苦労はいらないと思うわよ。ゴクアはノルヴェ村でとれた宝石を取り扱ってるのよね?だったら宝石取り扱い業者にでもなりすまして、予めアポイントをとればいいだけなんだから。でも、問題はそこから先・・リニアさん一人を助けて終わりにするか、ノルヴェ村を解放までもっていくかってことよ。」
「姉さんを助けるにはゴクアの私兵団やタイタンを何とかしなくちゃならない。彼らは四六時中村を見回っているわ。私は明け方近くに抜け出す事が出来たけど、その時間でも表には見張りがいる。」
「ふふ・・正直言ってね、あなたのお姉さんを助けるだけなら、実はそんなに難しい事でもないの。そのタイタンってのがいくら強いって言ってもね。そうね、まずはそこからスタートしようかしら?」
「えっ?姉さんを助けるのが難しくない?どういうこと?」
しかしランシアはライラのその問いには答えず、地図を眺めて、リッチマンと相談を始める。ランシアの頭の中には既にいくつかの策と仮説が構築されているのだろう。その中から実行可能なもので、かつ出来るだけ短期間で解決できそうなものをピックアップしていく。
立てた仮説は、情報を集める段階でいくつか修正を試みて、まとまった形になって行く。これだけなら普通の人でも時間をかければ出来るが、ランシアの場合、そのスピードが著しく早い。そのおかげで、瞬く間に常人が考えつく仮説よりも数多く、また幅広く仮説を立てる事が可能なのである。既にランシアの頭の中にはリニアを助けるだけならプランがもう出来上がっている。だがランシアはその先を見据えている。即ち
ノルヴェ村そのものを救おうとしているのだ。
「ニーナ、悪いけどあなたは王都フランに一回戻ってくれるかしら?ちょっと頼みたい事があるのよ。」
ニーナはランシアの方に顔を向ける。またいつものように裁判手続きなどをしろというのだろうか?しかし、ここは海外だし、ゴクアとかいう貴族の事も、ノルヴェ村のこともライラから聞いた情報以外ほとんどよく知らない。そもそもノルヴェ村に一度も行った事も無い。ライラの言う事におそらく嘘はないのだろうが、それを立証するなんて、少なくとも今の段階では不可能だ。
「なによ、ランシア。もちろん協力はするけど、正直今の段階で私に出来るようなことなんて、あまりないわよ?」
だが、ランシアは全く動じない。
「ふふ、ニーナ、そんなことないわよ。もう十分材料は揃ってるじゃない。ところでライラ、あなた飛空挺のカジノで大勝ちしたのよね?少しそのお金をまわして欲しいんだけど頼めるかしら?」
急に話をふられたライラは一瞬驚いたようだが、すぐにランシアの方に向き直る。
「それは構わないけど、でもどうするの?もし王都フランの役人を買収する方法を考えてるなら、ちょっとこのお金じゃ足りないと思うわ。」
「そんなことするわけないじゃない。ふふ、宝石を購入するのよ。ノルヴェ村から産出された宝石をね。と言っても一番安い者で構わないわ。王都フランには世界中の物資が集まる。ノルヴェ村の宝石だって例外じゃないわよね。ライラの持っているお金で買える値段の一番安いものを一つ購入したいの。ニーナ、宝石を購入するとき、ノルヴェ村産だっていう証明書もついでにもらってきてくれるかしら?」
「宝石なんて購入してどうするのよ?って言いたいところだけど、あなたのことだから何か考えがあるのよね。分かったわ。ライラはどうする?ライラのお金で買うなら私と一緒にフランに行く?」
「そうね。ライラがこのまま私達と一緒にノルヴェ村に行っても危険を増すだけだからね。後、王都フランへは私も一緒に行くわ。ミワも一週間で喫茶満腹亭に帰るなら一緒に行きましょうよ。」
そっか・・ってことは、ノルヴェ村には俺とリア、カルロスとリッチマン、それとライアンさんだけで行くのだろうか?だが、ライラがランシアの意見に反対した。
「ボクもノルヴェ村に行くよ。戦闘では役に立たないだろうけど、それでも姉さんを助けるならボクも行きたい。」
ライラ・・気持ちは分かるが、正直戦闘において足手まといになるなら、ランシアたちと一緒に王都フランに行ってもらった方がいい。
「だが危険だぞ?それにリアもランシアたちと一緒に王都フランに行く方が安全だろう。ノルヴェ村には俺とカルロス、リッチマン、ライアンさんだけで行こうと思う。男だけのむさ苦しい旅になるが、戦闘や荒事ならカルロスとリッチマンの方が頼りになるだろう。それにライアンさんは冒険者経験もあるしな。幸いキューちゃんのおかげで離れていても情報連絡はいつでも出来るんだから。」
俺は皆に提案してみた。カルロスとリッチマンも同意する。ライラも渋々だが承知してくれた。結局女性陣は全員王都フランに行く事になり、ノルヴェ村には野郎連中だけで行く事に決まった。ライラ、もう少しだけ待っててくれ。すぐに姉さんに会わせてやるからな。ランシアが俺たちがノルヴェ村に向かう前に最後に一言つげてきた。
「カシワ、とりあえず最初の目的はリニアさんの救出だけでいいわ。指示は私がキューちゃんを使ってだしてあげる。それと、タイタンなんだけど・・ひょっとしたら巨人族の一人かもしれない。もしそうなら厄介な事に怪力ってだけじゃなく、ほとんどの魔法も効かない可能性もあるの。だから今まで見たいに小型化や姿隠し、眠りの魔法とかはタイタンに対しては、聞かないかもしれないわ。」
何だって?いきなりハードルあがったぞ!?どうせ今まで見たいに姿隠しで潜り込んで、適当な隙をついてタイタンを小型化すれば解決かと思ってた・・全部パァじゃないか・・なんてこった。
「そんな顔しないでよ、カシワ。あなたたちにはこのランシア様がついてるのよ。それに言ったでしょ、リニアさんを助けるだけなら、そんなに難しくはないって。第一カシワ、あなた今やカルロスやリッチマンに引けを取らないくらいの強さを持ってるのよ?無詠唱で魔法が使えて、しかも自分を気体にしたり元に戻したり出来る。これって脅威よ?」
まぁ確かに変わった魔法を使えるようになったって点では、ランシアに感謝しないとな。但し、その代償として協力したランシアの実験は、ある意味ノルヴェ村以上に悲惨なものなんだが・・
「じゃあ、皆言ってくるよ。とりあえずはランダ村ってとこに行けばいいんだよな?」
「そうよ、ここから連絡船に乗って、ランダ村に行って、そこから馬車に乗って頂戴。それじゃ健闘を祈ってるわよ。」
俺たちは、ランシアたちと別れ、港町ハーバーの港へと向かった。船にのって、デッキに身をよりかからせる。カルロスが一服するといってタバコを吸い出した。俺はタバコを吸わないから分からないが、どうも喫煙者に取って港や船で海を眺めながら吸うタバコというのは格別のものらしい。
「ああっカルロスったら、またタバコ吸ってるぅ。肺が真っ黒になっちゃうよぉ」
えっ!?俺は後ろを振り返る。なんで?そこにはリアとライラの姿があった。
「リア、なんで?それにライラも。二人は王都フランに向かったんじゃないのか?」
「それがね、ライラがやっぱりどうしても姉さんの救出に自分も行きたいって言い出してさ。それに私も・・」
「なんだよ、リア?」
「私もカシワとずっと一緒にいたいから」
「リア・・」
ライラが手をパンパンとならす。
「ハイハイ、そこまでよ。さぁてそれじゃ皆で出発進行ー」
ライラが勢い良く右手をあげる。カルロスがそれを咎める。
「馬鹿か?リアはまだしも、戦闘経験の無いおまえが一緒に行ったら、どう考えても足手まといにしかならんだろうが。今からでも遅くない。ランシアたちと一緒に王都に行け!」
憤るカルロスの肩をリッチマンがポンと叩く。
「まぁいいじゃないか、カルロス。今回はタイタンやゴクアと闘うわけじゃない。リニアさんを救出に行くだけだ。それにやっぱりライラの立場からすれば姉さんを助ける場面に出会いたいだろうさ。」
ライラがそんなリッチマンに対して顔を赤らめる。
「素敵!やっぱりイケメンって言う事が違うわよね。そこの無骨な誰かさんと違って。ねぇリッチマンだっけ?ボクと一緒に船旅楽しもうね。」
ライラがリッチマンの腕に自分の腕をまわした。なんだ?もしかして、ライラのやつリッチマンに惚れたのか?まぁリッチマンは元々もてるからなぁ。ライラの言う通りイケメンだし、頭もいいし、優しいし。
なんだかんだで俺たちは、リアとライラを加えて、ノルヴェ村に向かう事になった。まずはランダ村まで船で行き、それから馬車かラクダを借りて砂漠を超える。結構大変そうだなぁ。おそらく着くまでに、どんなに急いでも数日はかかるだろう。
ポォーーーっ
船の汽笛がなった。ノルヴェ村か・・またまた厄介そうなところだ。初めての海外旅行がとんでもないことになってきたな。だけど少しだけワクワクする。俺たちはデッキに立って、海の向こうを眺めた。限りない水平線がどこまでも広がっている。こうして見ると世界って本当に広い。ライラ、早く姉さんに会えるといいな。俺たちは船が出港してもしばらくの間、ずっとどこまでも続いている水平線を眺め続けた。




