旅行プランは大幅変更
港町ハーバー。多くの貿易船が行き交うこの港は、様々な国からの物資が届く。王都フランほどではないが、人の数も多く、また常に喧噪が絶えないことでも有名だ。よくいえば、それだけ活気があるってことでもある。
「はいはい、今ならこのカニ、一箱まとめて銅貨三十枚で提供だ。これを見逃すと損するぜ。」
「こっちは、フルーツ段ボール一箱ぶんだ。銅貨二十枚の大安売り。すぐに完売だから、一人三箱までの限定販売にさせてもらうぜ。」
港の側には屋台も多く並んでおり、スープカレーや麺を炒めた焼きそばのようなものなど、様々なものが売られている。俺たちは無事、サイクロプスやらヒグマなんていう、厄介そうなモンスターや動物に遭遇する事無く、ブロージュの森を抜け、この港町までたどり着くことが出来た。
街についてまずは、アクスさんとの約束通り、この街の冒険者ギルドと武器屋によって、アクスさんから頂いた武器を見せたり、アクスさんを褒めて宣伝したりしておいた。アクスさんは試作品って言ってたけどアクスさんからもらった剣も弓も相当な業物らしい。特に古株の武器屋の主人なんかは相当驚いていた。
今はとりあえずミス研メンバーにここの場所をキューちゃんの念話で伝え、シーサイドカフェで皆の到着を待っているところだ。
森の中にいたときは、分からなかったが、実は王都フランから距離的にはそんなに離れていなかった。考えてみれば、気球のコースを最初に見せてもらったときに、そんなに遠くまで行くようなコースがそもそも無かったもんな。
列車は相変わらず爆弾テロ騒ぎが収まっておらず、運休が続いてるようだが、場所さえ教えれば、ランシアやリッチマンなら近くまで転移魔法でこれるはずだ。それにランシアは空も飛べるしな。
でも、全員分につかまれた状態で飛ぶのは、さすがのランシアもきついか。
他のミス研メンバーは幸い、気球に乗る前に暴風雨がきたみたいで、気球には乗らずにすんだようだ。ミワ姉なんかは特に口うるさいくらいに俺とリアの事を心配していた。もしかしたら、ミワ姉には心配性の気があるかもしれない・・
いや、でも、他のメンバーだって俺たちのこと心配してくれてたし、仲間が気球から空中に放り出されるなんてハプニングが起きれば、そりゃ焦るよな。立場が逆なら、俺だってミワ姉のことを心配してただろう。もちろんミワ姉だけじゃなく、他のどのミス研メンバーにも同じ目なんかに遭ってほしくはない。
「しかし、綺麗な港町ですね。大型の船もあんなに停泊している。俺たち元々エルドォワ街ってところから、こっちに旅行に来てたんですが、エルドォワ街の埠頭は正直ここの半分の大きさもありませんよ。」
俺が街の感想を述べると、ライアンさんが街の説明を簡単にしてくれた。
「ここは世界でも有数の港町ですからねぇ。行き交う人々も大勢いますし、売られている商品の種類も実に多種多様です。私どもの扱う気球のガスなんかも、ここで購入する事が出来るんですよ。」
「へぇ〜、そうなんですか、ライアンさん。カシワと私は元々旅行で来てただけなんですけど、こういう港町って、なんかずっといたくなりますよね。」
「うん、ボクもそう思うよ。色んな人がいて、色んな物が売ってて、こんな光景、ノルヴェ村じゃ考えられないもん。」
リアやライラもこの街がすっかり気に入ったようだ。俺もこういう港町って好きだ。人々の活気もあるし、色々な物が手に入る。とれたての海の幸も食えるしな。
「あ、いたいた。カシワ、リア、大丈夫だった?心配したんだよ〜」
俺は声をかけてきた方を振り返る。ニーナだった。他のメンバーも全員いる。気球に乗ってから、ここまでくるのに、そんなに時間は立ってないはずなのに、ひどく懐かしい。気球から落ちたときは、もう皆に会えないかもなんて、ちょっと思ったし。
「皆、お疲れ〜 心配かけちゃって悪かったね。俺もリアもこのとおり大丈夫だ。あ、それと紹介するよ。キューちゃんの念話ではもう話したけど、ライラとライアンさんだ。ライラ、ライアンさん、こちらが道中で話してた俺たちミス研メンバーの仲間達だ。」
「宜しくね。」
「宜しく〜」
皆それぞれ、挨拶し握手をかわしあう。ミワ姉も含めて、もう皆、ライラのいたノルヴェ村からライラの姉であるリニアを助ける事は賛成してくれている。どうせ、列車にはまだ乗れないんだから、ニーナがせっかく計画してくれた当初の旅行プランは実行出来ないしね。
「おまえがライラか?カシワから既に話は聞いてる。姉貴を助けたいんだろ?俺たちも協力するぜ。」
「しっかし、本当、ひどいことする連中って世界中どこでもいるわよね。ノルヴェ村ほど悲惨な事例はさすがにそんなにはないだろうけどさ。」
カルロスやランシアもライラの肩をたたいて、慰める。ライアンさんは俺たちの様子を眺めながら、人数分のコーヒーを注文してくれた。さすが、気球の添乗員さんだけあって、よく気が利く人だ。
「もう、カシワ危ないことしないでって言ったのに、またこんな事件引き受けちゃって。気球から落ちたときの怪我とか本当に大丈夫なの?ちょっと見せなさい。」
ミワ姉が俺とリアの体を見て、傷などが残ってないかチェックする。
「ごめんよ、ミワ姉。でもミワ姉だって、ライラやリニアさんみたいな人、放ってはおけないだろ?」
「そりゃそうだけどさ。・・もうしょうがないわね。でも気球から落ちて無事なんて、すごいじゃない。普通だったら、こんなふうに会話なんて出来ないわよ。」
「まぁ不幸中の幸いっていうか、思いついた方法が上手くいってくれて本当によかったよ。でも、正直あんまり思い出したくはないな。」
「そうよね。ごめんなさい、もう聞かないわ。でもどうするの、一応ここ来る前に調べてみたんだけど、ノルヴェ村って同じヨーロ大陸にあるとはいえ、相当遠いわよ。考えられる手段としては、ここから船に乗ってランダ村ってところまで行って、そこから馬車でも借りるかんじかしら。」
ミワ姉とノルヴェ村までの行き方について話していると、ニーナとランシアが机に地図を広げた。
「見てよ、みんな。ノルヴェ村ってここ。ランダ村からさらに砂漠を一つ超えたところにある小さな村みたい。ライラの言う宝石鉱山っていうのが、このノルヴェ村のすぐ側にある鉱山のことよね。どうしようかしら?私達の旅行は一週間の予定だったけど、ちょっと旅行の予定を延ばす必要がありそうね。カシワとミワは一応、グラ爺さんに連絡をとってみてくれるかしら?」
そんなに遠いのか・・俺とミワ姉はキューちゃんの念話でグラ爺に事情を話した。反対されるかと思ったが意外にもあっさりと許可してくれた。グラ爺は元々人情家だ。ライラやノルヴェ村の事情を聞いて同情してくれたらしい。むしろしっかりとライラとリニアさんを助けるまで帰ってくるなと言われた。有り難いんだが、喫茶満腹亭の経営の方は大丈夫なんだろうか・・
俺はミワ姉と相談し、一週間たったら、ミワ姉だけ一足先に喫茶満腹亭に戻る事となった。グラ爺が許可してくれたとは言え、満腹亭の仕事をグラ爺一人に任せるのは、やっぱり悪い。本当は俺も戻るべきなんだろうが、ミワ姉もやっぱりライラとリニアさんのことは気になるようで、俺にくれぐれも危ない真似はしないよう念を押しつつも、二人をしっかり助けるように言われた。グラ爺もミワ姉も本当に人情家なんだよなぁ。
魔法大学の講義の方は、後でいくつか挽回しなければならないものがあるものの、基本的にはなんとかなりそうだった。ただ、フィアー先生の講義だけは、フィアー先生にキューちゃん念話したところ、後で特別補習をしてくれることになった。ランシアの凶悪実験と同じくらい、こちらの講義も覚悟しておいた方がいいだろう。
「みんな、なんで見ず知らずの私のためにそこまでしてくれるの?」
ライラはミス研メンバーが当然のようにノルヴェ村に行き、ライラの姉さんリニアを助ける相談を始めた事に驚いていた。
「だって、あなたカシワとリアの友人なんでしょ?だったら私達にとっても友人。助け合うのは当然じゃない。」
「まっ、そういうことだな。俺らが好きでやってることだ。おまえは何にも気にする事ねぇよ。」
ニーナとカルロスが何を当たり前のことをといった感じで返答し、また地図に向き直る。やっぱり思った通り、ミス研は最高に阿呆なやつらの集まりだ。これから怪力のタイタンや権力者の貴族ゴクアを相手にするっていうのに、いつもの日常生活と何ら変わらない様子なんだから。俺はそんなこいつら全員大好きだ。
ライラがまた泣き出しそうになる。こいつ意外に涙もろいんだな。俺は森の鹿肉のときと同じように、黙ってハンカチをライラにあげた。
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「ゴクア様。もうこんなことおやめください。あなたの曾祖父様は、それは立派な貴族でした。街の者の幸せのためだけに日々精進し、いかなる困難にもめげず立ち向かう勇気と、決して上の者の言いなりにはならない強い意志を持つお方でした。あなたは血のつながりはないとはいえ、そのお立場を受け継ぐものです。どうかノルヴェ村を解放してあげてください。」
ゴクアの部チューギーは、再びゴクアに頭を下げる。チューギーはゴクアの曾祖父の代からゴクア家に代々仕える騎士で、ゴクアの曾祖父ショーダイ・ハマ・シーダッタに幼い頃家族共々路頭に迷っていたところを助けられ、それからずっと、ゴクア家に忠誠を使っている。
チューギーの言う通り、ゴクアの曾祖父ショーダイは権力者でありながら人格者であり、人々からの信頼も厚く、最近の貴族には珍しく弱気を助け、強気をくじきの精神で、時には自分の身を犠牲にしてでも人々の願いを聞き入れる真の貴族だった。だが唯一の欠点として子宝には恵まれなかった。
また、最初にいただいた養子に関しても、まだ幼いうちに病死してしまったため、次に頂いた養子に関しては何をやっても叱る事が出来なかった。養子の子供、つまりはショーダイにとって孫の代となるゴクアにいたっては、何ら手の施しようのない状態まで、成長させてしまった。それでもショーダイはゴクアを自分の実の孫同然に育てようとしたのだが、やがてショーダイも流行病で亡くなると、ゴクアはその恐ろしい本性を見せ始めたのである。
「ほう、チューギー。おまえ、この儂が曾祖父のショーダイよりも劣るとそう言いたいのか?」
「いえ、決してそのような・・」
「気に入らんな。昔からおまえのその目が気に入らなかったんだ。時折儂を蔑むような、哀れむようなその目がな。」
ゴクアは手元にあったワイングラスをチューギーの顔面目がけて投げつけた。ガラスの破片がささり血だらけになったチューギーに対し怒鳴りつける。
「ふん。そういえば最近タイタンがおもちゃにしているリニアとか言う娘がおったな。面白い趣向を思いついたぞ。一月待ってやる。おまえ、そのリニアとか言う娘を手なずけてみろ。そしてひと月後、リニアが安心しきったときに、皆の見ている前で、おまえのその剣でリニアを刺し殺すのだ。」
!?何を馬鹿な・・そんなこと出来るわけない。しかし、チューギーにとっては義とは命よりも尊いものだった。ゴクアがどんなに卑劣で残酷な人間であろうとも、仕える騎士としては絶対の忠誠を誓わねばならぬ。しかし、忠誠を誓うという事は即ち、何の罪も無い娘の命を奪うという事。それは騎士道精神にあるまじき行為だ。どうすればよいのだ?それならいっそ・・
「言っておくが、自害など許さんぞ。お前の命は儂のものじゃからな。勝手に捨てるようなことがあれば、それは儂への反逆行為と見なし、おまえの大好きなノルヴェ村をさらにさらに素敵なものにしてやろう。」
くっ!チューギーの意図を見抜き先手をうったゴクア。チューギーはただうなだれるしかなかった。ひと月の間に奇跡が起きる事を祈るしか無いのだろうか。ひと月以内にリニアという女性を助け、タイタンやゴクアを制してくれるような、そんな奇跡を。・・起きるわけが無い。チューギーもまた絶望の縁に立っていた。
「神というものがいるなら、このチューギー。たった一度だけ頼む。この腐りきった現状を打破する奇跡。そんな奇跡を起こしてくれ!」
チューギーはゴクアに頭を下げながらも、ひたすら祈り続けた。




