サバイバルツアー開始
「うぁぁぁっぁぁっ」
俺たちは揃って悲鳴を上げる。リアをしっかり捕まえて離さないようにする。しかし、だからと言ってどうすればいい?後、数分で地上に激突する。このままじゃ全員最悪の事態を迎える事になる。
やばい、本当にやばい。心臓が激しく鼓動する。リアも俺に必死にしがみついて目を閉じる。ライラや添乗員の人たちも、限りない大声で絶叫の悲鳴をあげているが、どうすればいい?恐怖に怯えながらも、俺は必死に頭を働かせる。
「カシワ、死にたくないよ、助けて!!嫌ぁぁぁぁぁぁぁ」
「落ち着け、リア。いや落ち着くのは無理だな。でも考えるんだ。絶対に助かる方法はどこかにある。くそっ。せめてここが海の上とかだったら・・いや、例え下が海でも、この高さならコンクリートに叩きつけられるのと変わらないか。ん?待てよ?海、水、液体、気体・・」
そうだ、俺は無属性魔法とやらの超マイナー魔法が使える。物質を構成する原子、さらにその原子を更正する素粒子に直接働きかける魔法だ。俺自身は自分を気化させたり、元に戻ったりもできる。しかし、それでもリアたちまで助ける事は出来ない。ダメだ。時間が無い。
このままじゃ間違いなく皆お陀仏だ。新しく身につけた影の転移魔法なんてのもあるが、あれは文字通り自分の影の中に入り込む魔法だ。皆が空中に浮かんでいるこの状況じゃ使えない。
ちくしょう、諦めないぞ。せめてリアだけでも助けてみせる。地面に衝突するまで後数分、いや、一分もないかもしれない。その間に手を考えなきゃ。しかし、いくら俺が自分を気体に出来ても、皆を助ける事なんで無理だ。
いや、違う。気体じゃない。液体にするんだ。自分を気化できるなら、自分を融解させることも出来るんじゃないのか?
・・やっぱりそれもダメだ。ランシアの実験をもっとこなせば、いつかは出来るようになるかもしれないが、そんな急激に便利な魔法が使えるわけない。
何かもっと俺に今出来る手段で、この状況を救える方法・・俺に使える魔法ってなんだっけ?無属性魔法を除けば、土属性アースや火属性、闇属性魔法だ。だが、火や闇属性の魔法はそこまで広範囲には覚えていない・・そっか、アースだ。アースで十分じゃないか。
「リア、俺にしっかりと摑まって、絶対に離すな。ライラ、添乗員さん、聞こえるか?俺の方に近づく事は出来るか?」
「無理に決まってるじゃない!ボク達、今空中に放り出されてるんだぞ?」
「諦めるな。海を泳ぐのと同じ感覚で、俺の方に近づいてこい。添乗員さんもお願いします。時間が無い。早く!」
ライラと添乗員さんが俺の方に寄ってくる。いいぞ、少しづつだが、近づいている。
「リア、添乗員さんの手を掴んで!もう片方の手ではしっかり、俺に摑まってるんだぞ。」
リアは頷き、右手で俺に摑まりながら、左手を添乗員さんの方に伸ばす。俺も片方の手でリアの体をしっかり支えながら、もう片方の手をライラの方に伸ばす。」
「ライラ、掴まれ。もう少しだ、頑張れ。でも早くしてくれ。」
ライラも俺の手を掴んだ。これでいい。俺はアースを俺たち四人の周囲にかける。周りが土で覆われていく。地上に着くまであと数秒も無い。急がなきゃ。俺は出来る限り、俺たちの周りを覆う土の厚みを増し、かつ土を球状になるようにしかけていった。
後もう一つだ。ある程度の大きさの土の球体が出来たところで、今度は俺自身を気体にし、リア、ライラ、添乗員さんを包み込む。俺自身がクッションがわりになって、リアたちを衝撃から守るわけだ。ライラや添乗員さんは俺が自分を気化するなんて芸当に大層驚いたが、詳しく説明してる時間など無い。
「うわぁぁぁぁ」
俺たちを包み込んでいた土の球体がついに地面に衝突した。そのまま土の球体は地面を転がり続ける。
よかった!やっぱり球体なら壊れたりはせず、転がってくれるようだ。これだけでも大博打だったが、
あの時間の全くない極限状況では、これが精一杯の思いつきだった。
俺は気体になった状態で、リアたちをなるべく地面や土の球体内の壁に触れさせないよう、配慮した。
土の球体はなおも転がり続ける。いつまで、転がるのだろうか?
リアたちは・・全員気を失っている。だがところどころかすり傷やすり傷などはあるものの、命に別状はないようだ。それにこの状況なら、気を失ってるのはかえって好都合かもしれない。下手に恐怖でパニクって暴れられるよりも守りやすい。俺は転がっている間、ひたすらリアたちを守り続けることだけを考えていた。
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どのくらいの時がたったのだろう・・一時間か、いやもしかしたら、本当は数分しかたってないのかもしれない。気がつくと土の球体は止まっていた。俺は自分の体を元に戻し、ついでに自分で作った土の球体を消していく。リアもライラも添乗員さんもまだ気を失っている。俺は皆の容態と傷口を確認した。
俺自身は回復魔法は使えないが、様子を見る限り、どうやら皆傷を負ってはいるものの無事のようだ。
リアが目を覚ましたら、回復魔法をかけてもらえばいいだろう。
しかし、寒いな。今、俺たちがどこにいるかも分からないが、まずは暖をとった方がいい。出来れば食事もとりたいが、とりあえず、たき火でもするか。俺はそこら辺に落ちてた枝や葉っぱを集めて、火属性魔法で火をつけた。
「・・・カシワ、ここは・・私達助かったの?」
リアが目覚めたようだ。他の二人はまだみたいだが、もう少し寝かせておこう。
「リア、目が覚めたようだね。どこか痛いところはない?」
俺はリアに近寄り、様子を伺う。
「大丈夫。カシワは怪我とかしてないの?」
「俺は気体だったからね。他の人たちも命には別状無いみたいだよ。まずはとりあえず、リア自身の傷とライラと添乗員さんの傷も回復してあげてくれるかな?」
リアは自分とライラ、添乗員さんの傷を回復する。俺はリアの隣に座って、たき火にあたった。
「ここどこなのか分からないけど、やたら寒いよね。リアは大丈夫?そうだ、まず皆に連絡取らないと。」
俺はキューちゃんを通じて、皆に念話する。俺とリアが無事だと知って喜んでくれた。今いる場所も伝えたいのだが、どこなのか全く検討がつかない。分かっているのは、どこかの森の中だってことだけだ。
モンスターや大型動物なんかが現れたときの対処方法も考えとかないとな。
影の転移魔法で、皆の元に戻る事も考えたが、あれは独り用なので、リアたちをここに残してしまう事になる。何より、さっきの土のボール作りなどで、魔力疲れをおこしていた。
何か食べるものも探さなきゃな。動物を狩って焼いて食べるなんてサバイバルなことをするとは、考えてなかったが、しばらくはそうするしかないだろう。
「ここは?ボク助かったの?」
「私達、助かったんですか?」
ライラと添乗員さんも気がついたみたいだ。さっきリアが二人に回復魔法をかけてくれたのだが、一応、俺とリアは二人の元にかけより、無事かどうかを確かめる。
「大丈夫かい?ライラ。添乗員さんも大丈夫ですか?一応傷はリアが回復してくれたんですが、どこか痛むところとかあったら言ってください。」
ライラと添乗員さんはひとおとり手足を動かし、それぞれ自分の体の状態を確かめた。問題はなさそうだな。
「ありがとう。まさかあの状況で生き残れるなんて思わなかったよ。」
「俺もさ。もう切羽詰まって、とりあえず思いついた事をやってみるしかないって状況だったからな。今思い返すとぞっとするよ。もう当分気球には乗りたくないな。添乗員さんには悪いけど。」
「いえ、私もですよ。あんな怖い思いは二度としたくありません。ですが、気球に乗るのは私の仕事ですからねぇ。あ、そうそう。まだ名前を言ってませんでしたね。ライアンと申します。この度は助けて頂き本当にありがとうございました。また、このような事態になってしまい、誠に申し訳ありません。」
「とりあえず皆、助かってよかったですよ。ところで、ここがどこらへんかってお分かりになりますか?」
俺はライアンに尋ねてみたが、彼も首を横にふる。
「申し訳ありません。あのような状況でしたので、どこら辺に落下したのか確認する余裕がありませんでした。お役に立てず申し訳ない。」
「いえ、仕方ないですよ。でも、どうしよっかな。せめて一番近くにある村か街にでもたどり着ければいいんだけど、方角もわからないしなぁ。リアは何かいい案ある?」
「ごめん、私も全然。だれか近くに人がいるようなら、光の矢を空に向かって打ち上げて、目印作ってもいいんだけど、多分この状況じゃ意味ないわよね。」
「そうだな・・まぁ何にしてもしばらくはサバイバル生活、続けることになるだろうな。空を見て飛空挺や気球が飛んでるようなら、そのときは光の矢を打ち上げて、救助信号を出すのもいいかもね。こういう場合って下手に動かない方がいいのかな?でも、このままここにいても事態は進展しなさそうだな。」
「ボクもそう思う。とりあえずひと方向に進む方向を絞って、歩き続けてみるっていうのはどうかな?もし、行き止まりなら、そこで右折か左折するとしてさ。」
「うーん・・まぁそうだな。あんまりいい案とも言えないけど、そうするか。大丈夫?皆もう動けそう?」
三人とも立ち上がる。うん、普通に歩くのも問題なさそうだ。考えてみれば、あれだけの事故が起きた後に普通に行動出来るって、奇跡だよな。魔法の力は偉大だわ。
「一応、どんなモンスターや動物が出るか分からないから、用心しながら行こう。もし、変なものや気になるものを見つけたら、無駄や勘違いでも構わないから、教え合って慎重に歩いて行った方がよさそうだよね。」
「うん、ボクもそう思う。何か武器とかも用意しといた方がいいのかな?」
「あ、そうだ。ライラとライアンさんは戦闘は出来るの?」
ライラは首を横に振ったが、ライアンさんは少し考え込んだ。
「私は少しなら戦えます。こう見えても気球が不時着した場合に備えて、社内である程度訓練を受けてますから。月属性魔法も使えますよ。」
「へぇ、月属性ですか。まわりに使える人そんなにいないんですよね。一人リッチマンっていう全属性の魔法を使えるっていう、凄い友人がいるんですが、そいつくらいですかね。」
「全属性ですか?それは凄い。そういえば、カシワさんもさっき自分を気体にするなんて芸当をやってのけてましたが、あれは何の魔法なんですか?」
「ああ、あれは無属性魔法と言いまして、物体を原子や素粒子なんかのレベルから操れる魔法らしいんですよ。さっきお見せしたように自分を気化したり元に戻す事もできます。と言っても、まだまだ研究段階でして、正確な事は分かってないようです。」
「そんなすごい魔法が使えるんですか!あなたも相当偉大な魔導士の方なのですね。」
「・・残念ながら、違いますよ。俺が無属性魔法っていうのを使えるようになったのは、ランシアっていう、いざというときは頼りになるのに、実験中だけは悪魔みたいなことする友人もいるんですが、そのランシアのおかげなんですよね。他に特技としては混合魔法っていう異なる属性どうしを組み合わせた魔法の適正もあるらしいです。後は無詠唱で唱えられることくらいかな?」
「十分すごいじゃないですか!おかげで私達も命拾いしましたし。無事帰り着く事が出来たら、もちろんお礼させてもらいますよ。」
とりあえず俺たちは、南の方角を目指して歩いてみる事にした。南を目指したのは、どうせ、方角が分からないようなら、南に向かえば少しは寒さが和らぐかもって考えからだ。俺たちはなるべく進路が一直線になるようにしながら、ひたすら歩き続けた。




