教団の真実
とある集落にある教団、聖者の集いの本部。その奥の間で教祖ジャークは幹部集会を開いていた。
「いよいよだ。オーディーンの協力を得る事に成功し、ハマーンから武器を購入する目処もついた。武器の購入金の方はもうまもなく届くのであろう。」
しかし、話しかけられた幹部の一人は頭を上げようとせず、冷や汗を垂らしている。
「それが、申し訳ありません、教祖様。我が教団の聖なる薬の販売は、完全に失敗しました。薬に関わっていたメンバーは全員行方不明。収益も全くありません。」
ジャークの顔色が変わる。何だと?そんな馬鹿な事があるか。
「おい、どういうことだ、説明しろ。」
「それが私の方でも事態を把握できておらず・・ただ、薬に関わっている連中は突然姿を消したとしか、分かっておりません。大変、申し訳ありません。」
何が起こっている?金が手に入らなければ、ハマーンから武器を購入する事も出来ないではないか。
「おいジャミール、冒険者ギルドに出した依頼の方はどうなった?その後ハマーンから何か連絡はあったのか?」
しかし、ジャミールもまた頭を上げようとはしない。
「それが全く音沙汰が無い状況でして。何か詳細が掴めたら連絡をもらう約束だったのですが・・こちらからもハマーンの元を何度か尋ねてみたのですが、いつ行っても本人は不在の一点張りで取り次いでもらえないのです。」
「そんな馬鹿な話があるか!だいたいハマーン程の大商人が約束を反故にすれば、それはハマーンの面子にも傷がつくではないか。」
「お言葉ですが教祖様、ハマーンは武器商人でございます。たとえ冒険者ギルドでの仕事が失敗したとしても、それは本来の業務とは別の事。おそらく世間は気にもしますまい。」
ジャークは頭を抱え込む。一体どうなっている?本来であれば麻薬で得た金をハマーンからのさらなる武器購入と兵隊集めに使い、オーディーンの協力も得てエルドォワ王に攻め入る準備は整っていたはずなのだ。そうだオーディーンだ。あいつはどうしたのだ?
「誰かオーディーンをここに呼べ。あいつがいれば一人だけでもかなりの戦力になる。さすがに一人でエルドォワ王を倒すとまではいかないだろうが、小軍隊一個分くらいの働きはしてくれるであろう。」
その場にいた兵の一人が返答をする。
「それが、オーディーン殿はここのところ姿をお見せにならないようでして、おそらくエルドォワ街にはいると思うのですが。」
「だったら、すぐにここに連れてこい。」
今度は別の兵が答える。
「いえ、それがオーディーン殿はある国から重要な任務を受けたため、そちらに集中したいとの事。申し訳ないが我が教団に力を貸すのは、その仕事が終わるまで待ってくれとのことでした。」
「・・・いつ、終わるのだ?その任務とやらは」
「それがかなり難しい任務のようで、数年では終わらないかもしれないとのことです。」
そんな馬鹿な話があってたまるか!金は手に入らない。エルドォワ支部を陥れた連中の正体も分からない。ハマーンもオーディーンも協力してくれない。
これではエルドォワ王を倒して代わりに王座に就くどころか、教団の現状維持すら難しい。これらは只の不幸が重なっただけの偶然なのだろうか?
いや、ここまで立て続けなら偶然とはさすがに考えられない。誰か我が教団を愚弄しているものがいるのだ。まさかエルドォワ王がこちらの意図に気づいて、先手を打った?
だがエルドォワ王は小心でそんなに切れ者とも思えなかった。もっともそういう風にわざと自分を見せていただけとも考えられなくもないが・・
いや、違う。エルドォワ王ではない。誰か別の者の力が働いているのだ。くそっ誰だ俺の理想を邪魔するふざけたやつってのは!こうなったら無理矢理でもエルフの娘とサキュバスの娘のかわりになる生け贄をさらってきて、悪魔光臨の儀式を行うか。
「おい、誰でもいい。生け贄となる娘をさらってここに連れてこい。」
「それは難しいと思います。」
何だと?これ以上さらに俺の言う事に反対するというのか?
「いい加減にしろ!何故皆俺の言う事に反することばかりなのだ?」
「申し訳ありません。しかし、エルドォワ支部壊滅の一件依頼、我が教団は王都の役所からも目を付けられております。下手に娘をさらい、万が一その行為がばれるようなことがあれば、それこそ一気に役人どもがうちの教団に乗り込み、ほとんど全員しょっぴかれることになるでしょう。」
・・・なんということだ。打つ手がまるでないではないか。いや、まだ手はある。以前ハッサンが持ってきてくれた大量の武器が残っている。ハッサン自身は逮捕されてしまったようだが、やつの残してくれたこの武器と、今ここに残っている教団の信者たちだけでも、それなりには戦力になる。エルドォワ王に直接仕掛けるのが難しいなら、ゲリラ戦にでも持っていけばいい。
エルドォワ街の井戸水に毒でも仕掛け、その責任を王になすりつけるって手もある。街の者が大量に亡くなるような事態になれば、王は嫌でもその責任をとらされるであろう。何なら俺が自ら先導きって、エルドォワ王を断罪してやってもいい。
「くっくっく。まだ手はいくらでもある。俺は必ずこの革命を成功させ、王の座についてみせる。」
「無理だな。おまえがつくのは裁判所の被告人席だ。」
誰だ?俺にふざけた口を聞いたやつは?俺は周囲を見渡し・・愕然とする。ほんの一瞬のことだ。ほんの一瞬前まではおれはこいつらと普通に会話してたじゃないか。なのに何故?全員倒れているんだ?死んではいないみたいだが、こんなに皆が一斉に気を失うなんてことあるのか?
「こいつら、よっぽど疲れてたんだな。教祖様の目の前で寝ちゃうなんてさ。」
どこから声がする?待てよ。姿隠しの魔法か?俺は魔力を集中し、自分を愚弄している者の姿を捉える。見つけた!いやまだ半透明状態だ。もっとよく姿を見せろ。見せてみろ・・え?俺はその人物の姿を捉え、愕然とする。オーディーンだ。それともう一人。ネクロマンサー族の男。さっき俺を愚弄する声をかけてたやつはオーディーンとこの男なのか?
だが確かにオーディーンなら、瞬く間に皆を打ち負かして気絶させるぐらいわけないだろう。もう一人もかなりの魔法の使い手のようだ。おそらくこいつも眠りの魔法をかけたのだろう。くそ、オーディーンに裏切られたのか。よく見ると他にも連れが何名かいるようだった。中には学生っぽいやつらもいる。
「オーディーンさん、リッチマン、お疲れ様。あんたが教祖ジャークか?全く苦労させられたよ、ここまでくるのに。でも今度こそ最終局面だ。俺たちはあんたを捕まえて、役所に突き出す。聖者の集いは今日で解散する。」
オーディーンの連れの一人と思われる男が声をかけてきた。まだ学生っぽいやつら。こんなやつらが我々の教団をここまで追いつめたというのか?
「まぁ、最後ぐらいちゃんと姿を見せて勝負させてもらうとするか。おいリッチマン、俺の姿隠し解除してくれ。」
「いいのか、カシワ?わざわざ敵に正体教えてあげる必要なんてないだろうに。」
「いいんだよ。このシチュエーションならそっちの方が格好いいんだからさ。」
「なに、カシワって戦闘でも格好を気にするようなオシャレさんだったの?意外。全然そういうこと気にしない人かと思ってた。」
「いや、気にはするぞ、ランシア。こう見えても俺はデリカシーってものをしっかりと身につけているんだ。」
「へぇ〜」
「へぇ〜」
周囲のミス研メンバー一同から白い目が向けられている。いや、姿隠しの魔法のため、姿は見えないのだが・・
「なんでそこで信じてくれない!?本当だって!信じてくれよ、皆〜」
ジャークは目の前のやりとりを見て、さらに混乱する。なんだこの阿呆どもは。こんなやつらに我が教団がここまで追いつめられたというのか?くそっ、まずはこのカシワとかいうやつから血祭りにあげてやる。俺は王になれるほどの逸材なんだ。例えオーディーンだろうと、わけのわからん連中だろうと一人でも始末してみせる!!俺は目の前に姿を現した男に向かって、巨大な火柱の魔法をかける。焼き尽くせ!この無礼な連中はすべて俺が消失させてやる!俺は天才。俺は優秀。俺は万能。俺は神なんだ!!だが、男もその周りの連中も火柱を見ても、怯えるどころか、避ける様子すらない。
「なに、こんなのが教祖様の攻撃なわけ?これじゃフィアー先生の講義の一回目の模擬戦にも及ばないじゃん。なんか、拍子抜けだな。あらよっと。」
?何が起こった?目の前の火柱があっという間に土になっていく。馬鹿な?火が土になるなんてこと物理的にありえないだろ。火はプラズマなんだから、土のような個体にそもそもならんはずだ。
「カシワ、やるじゃない。火の周りを土で覆って、防熱効果をだすなんて。それにこうすれば火の周りの酸素もなくなるから、自然に火が消えるってわけね。」
「さっすが、ランシア。分かってる〜 火なんて周りの酸素さえなくなっちゃえば、それ以上燃える事無いからね。見た目はちがうけど、アルコールランプをふたかけて消すのと同じ要領さ。」
なんだと?くそっ!こうなったら肉弾戦で勝負だ。俺はカシワとかいう男に斬り掛かる。だが、別の男が俺の剣を受け止めた。
「お、肉弾戦の喧嘩か?だったら俺にやらしてくれよ。何の出番もねぇってのも、ちょっと癪なんでよ。」
「しょうがないな、カルロス。じゃ、あと任せるよ。」
「了解。」
カルロスだと?オーディーンじゃないのか?まぁいい。俺の攻撃に何発まで耐えられるか試してやろう。カルロスとかいうやつは透明のままだが、相手の姿が見えなくても関係ない。俺なら十分動きを捉える事ができる。俺はカルロスにターゲットを変えて斬りつけた。ふん、カルロスという男は俺の攻撃を見て驚いているようだ。どうだ、この剣さばき?俺は魔法だけじゃなく、剣での攻撃も一流なんだ。
「おいおい、こんなのが聖者の集いラスボスの教祖様の攻撃かよ。そこらのガキに毛が生えた程度じゃねぇか。あんまりへたれてるんで驚いちまったぜ。ま、これが罠であえて弱くみせてるってのも考えられるけどよ。もし、そうならもうちっと真面目にやってくれねぇかな?」
何?こいつハッタリもいい加減にしろ!俺はカルロスとかいう男に渾身の力を込めて斬り掛かる。どうだ手も足も出まい。
「・・だからよ。斬り掛かるときに余計な力いれてどうすんだよ?かえって隙だらけになる。基本中の基本じゃねぇか。もういいや、面倒くせぇから終わらせちまうぜ。」
カルロスは教祖ジャークの腹部に峰打ちで攻撃を加える。教祖の体が二つ折りになったところで、もう一発、今度は教祖の脳天にやはり峰打ちで攻撃を加えた。聖者の集いのラスボスである教祖はあっけなく地面に崩れ落ちる。
「なぁ、本当にこいつが聖者の集いの教祖なのか?ちょっと弱すぎだろ。」
「うーん、私もちょっと意外だったけど、でもシチュエーションから見て間違いなさそうだし・・」
口々に皆が疑問を掲げる。まぁでもとりあえず、こいつを役所に突き出さなきゃな。リッチマンが小型化の魔法で教祖を小さくしようとしたが途中で手を止める。教祖はまだ目を閉じてはいなかったのだ。まだやる気なのかと一瞬身構えたが、どうやらすっかり戦意喪失してしまったらしい。ま、あそこまで明確な実力差見せつけられれば戦う気なんか起きないわな。
「何故だ?俺は完璧なはずだ。力も知恵も全部。なのに何故こんなことになる?」
ジャークとか名乗っていた教祖は首を振り、地面に屈する。俺はちょっと思いついたことがあり、目の前の教祖に話しかけてみた。
「なぁあんたさ、アダルトチルドレンって言葉知ってるか?もしくはピーターパン症候群って言うのかな?俺も心理学とかそんなに詳しくないから、正確な事は言えないんだけど・・」
「なに?どちらも聞いた事がない言葉だが、それがどうしたのだ?」
まぁやっぱりそんな言葉この世界にはないか。正直、俺もちゃんと説明出来るかどうか不安なんだけど、とりあえず教祖ジャークに話しを続ける。
「んとね、要するに大人になりきれない大人ってやつ。あんたみてると多分それに当てはまるんじゃないかって思ったんだよね。あんただけじゃなく、他のこの教団の連中もかな。こんな狭い集落にいてさ、拷問だのなんだのわけわかんないことばっかやってれば、そりゃ頭おかしくなるって。」
要はコナ○君の逆バージョンだな。
「なんだと貴様?これ以上さらに俺や教団を愚弄するのか?」
「するよ。人に平気で迷惑かける連中なら、俺は愚弄するし、軽蔑する。」
「このっ!」
ジャークは俺に斬り掛かろうとしたが、体を起こすことが出来ないようで、目だけで俺を睨んできた。だが、そんなこと今の俺にはどうでもいい。
「無理すんなよ。はっきりいってあんた弱いんだからさ。ま、俺もそんなに人の事言えないんだけどね。なぁ、あんたさ、普通に勉強したり仕事したりしたことないだろ?だから、そんな弱いのに自分の事、何でもできるなんて思い込んで、王になるなんて馬鹿な事考える。ま、それでも教祖なんてものになれたんだから、余計に勘違いしちゃったんだよね。神官アムドだっけ?あんな頭はまわりそうなやつも、あんたに仕えていた。あいつも損得勘定が得意で、なまじ魔法の才能があったもんだから、勘違いしちゃったんだろうな。そんな勘違いするやつらどうしが集まって、どんどん歪んだ考えが増長して、この阿呆教団”聖者の集い”が誕生しちゃったんだ。」
「貴様・・殺すぞ。絶対に殺してやる。」
あらまあ、ジャークさん、そんな殺気立っちゃって。目をギラギラさせて。その情熱もっと別の方向に向けろよな。俺は心の中でつぶやきながら、ジャークを見下ろす。
「あんたさ、リアたちを生け贄にしようとしたこともあったみたいだけど、もしリアたちがここに連れてこられたとしても無理だったと思うよ。はっきり言って、あんたカルロスやリッチマンはもちろんとして、多分リアよりも弱いもん。オーディーンさんなんて雲の上の上だろうね。アムドとかいう神官の方が実力だけだったら、あんたより百倍ましだろうさ。」
ジャークの目が真っ赤になって、さらに睨みを増す。でも正直まったく怖くない。俺にはそれは自分を知らない者の哀れな目にしか思えなかった。俺はカルロスから剣を借り、わざとジャークに突きを繰り出してみせる。寸止めでジャークの目の前で止めたが、それだけでジャークは怯える。
「どうだ?怖いか?だがな、あんたはこれよりずっと酷い事を大勢の人々に強いてきたんだ。リリィやルドルフのような幼い子供達まで酷い目に遭わせてさ。最低だよ、あんた。さっき俺の事殺すとかほざいてたけど、今ここでその喉貫いてやってもいいんだぜ?」
俺は剣先を今度はジャークの喉元にあてた。ジャークの額から汗が吹き出る。俺は剣先をジャークの喉に数cmだけ食い込ませた。ジャークの喉元から一筋の血が流れる。
「一応あんたにも赤い血が流れてたんだな。痛いか?そうさ、これが人を傷つけたときの痛みだ。人は傷つけられれば痛い思いをするんだよ。」
俺は剣を振り上げ、ジャークに向かって振り下ろす。
「ひっ!」
ジャークは目をつむる。俺は今度は剣の峰でジャークの頭を軽くこづいた。
「もしあんたやこの教団が仮にも人を救う事をうたってるんなら、今度は本当に人の役にたつことしてみろよ。罪を償い終わったら、まずはこの狭い集落でて、仕事探して働いてみろ。言っておくが、寄付金集めとかヤクの売買とかじゃないぞ。普通の人々がやってる普通の仕事だ。それが一人前にできるようになれば、あんたが今までやってきたことが、どれだけ馬鹿げた事で、人の迷惑になることだったか、少しは理解出来るはずさ。ちょっと余計な話しちゃったかな?リッチマン、そろそろ頼むわ。」
俺はリッチマンにジャークを預ける。リッチマンはジャークに小型化の魔法をかけ、口にテープを張り、いつものように道具袋の中に入れた。こいつはこのまま役所に突き出す。罪は相当重いだろうから、出所するまでにはかなりの年月を要するだろう。
出てきたら、さっき俺がいったとおり、普通に働いてくれるだろうか?それは俺が決める事じゃない。何の更正もせず、また同じような過ちを繰り返すかもしれない。そのときはまた別の誰かがこいつの罪を裁くんだろうな。もうすぐ王都の近衛騎士団の連中もここに来る。今ここで眠っている教団の幹部連中も一人残らず連れて行くだろう。聖者の集いは今日で解散だな。
「さてと、皆そろそろ帰ろうか。そうだ、グラ爺がさ、焼き鳥をコーヒーに合う形にアレンジした料理を開発したから試食してみてくれって言ってたんだよ。役所行ったら、帰りに皆で喫茶満腹亭にこないか?」
俺の言葉に皆嬉しそうな顔をする。美味しいものを食べれば、それだけで人は幸せになる。人が幸せになるのに、何も歪んだ教団の教えなんか必要ないんだよな。
そうそう、騎士団連中が来る前に連中の持ってた武器も回収しとかないと。こっちはハマーンにプレゼントだ。武器はジャークがさっきまで座っていた教祖の椅子のある部屋のすぐ隣の部屋にあった。リッチマンがまとめて小型化の魔法をかけた後、ジャークを入れた袋とは別の袋に武器を格納する。俺たちは今度こそ聖者の集いのあった集落を後にした。今日も明るい日本晴れだ。(ここ日本じゃないけどね。)
なんかブックマーク数増えててビックリしました。評価ポイントまでつけてくださった方いたんですね。皆さん本当にありがとうございます。まだまだ未熟ですが、これからも頑張りますので、どうか宜しくお願いします。




