聖者の集いからの依頼
「なんだ、せっかく来たってのに誰もいねぇのかよ。」
カルロスはギルドでみた広告のことをミス研の皆に伝えようと思って急いできたのだが、この時点ではまだ、部室には誰もいなかった。カシワはリッチマンと一緒にランシアの実験室で実験サポート(ランシアのおもちゃ)をさせられていたし、ニーナはまだ講義中だ。リアはリリィとルドルフを連れて遊びに出かけている。カルロスは一人で部室で待つのも退屈だったため、適当に大学構内を散歩してみる事にした。
元々抜群の運動神経を誇るカルロスは普通に廊下を歩いているだけで、様々な運動部から熱烈な勧誘を受ける。カルロス自身、体を動かすことは好きなのだが、正直学内の部活では物足りなかった。カルロスの身体能力は、他の生徒に比べてあまりにも高すぎた。といっても、オーディーンには稽古中に手も足もでないのだが、一般の学生レベルという観点からすれば、カルロスは明らかに異彩をはなっていた。これが多少相手より優れている程度なら、優越感にひたったり、後輩の指導でもしてやろうかという気になるのだが、圧倒的にレベル差がありすぎると、遊びにすらならなくなってしまう。
最初のうちは何度か勧誘を受けた運動部に顔を出していたカルロスだが、次第に退屈になり、しばらくは一人で冒険者ギルドの仕事を学生の身分を偽って引き受けたりしていた。
それをリッチマンに見つかってしまい、焦ったカルロスはリッチマンに脅しをかけてみたのだが、リッチマンは見かけからは想像もできないほど強かった。それまで喧嘩でほとんど負けた事のないカルロスだったが、リッチマンのあらゆる属性魔法を駆使した戦い方に、自分とは違った強さを見いだして感心し、喧嘩しているうちにリッチマンのことが気に入ってきた。そのときからリッチマンに誘われ、ミス研の部員となったのだ。
学園内の大広場にある休憩所に来てみると、ミワが一人で歩いていた。どうやら丁度、講義を終えたところらしい。ミワも俺の方に気づいたみたいで、手を振ってくる。
「お疲れ、カルロス。今から部室に行こうと思ってたの。カルロスも?」
「いや、俺は一足先に来てたんだけどよ、まだ誰もいなくてな。ちょっと散歩してたとこだ。」
俺はミワと一緒に部室に戻る事にした。もうそろそろ他の連中も集まりだす頃だろう。おお、そうだ。ミワに先にギルドで見かけた広告のこと話しておくか。
「なぁミワ、実はさっき冒険者ギルドに行ってきたんだけどよ、変な広告見つけたんだよ。」
「広告?」
俺はミワに広告の内容を説明した。この前捕まえた聖者の集いの神官アムドが冤罪だとかぬかすやつがいて、アムドを陥れたやつを探し出せとかいう、根も葉もないデタラメなことが書かれてあった広告だ。俺の話を聞いてミワが顔を青くする。
「あの連中、まだ全然懲りてないのね・・ねぇ、またカシワやリアが捕まって拷問かけられるなんてこと起こらないわよね。」
「それは大丈夫だろう。連中のエルドォワ支部はもう壊滅してるしな。あそこにいた連中は、ほとんど逮捕されたはずだぜ。強制労働者たちも無事保護されたみてぇだしよ。証言もとれてるから、本部の方に調査が行くのも時間の問題だろう。いくら王都の警備兵達がお役所仕事だって言っても、さすがにこれだけの事件なら、動いてくれるはずさ。」
「そう・・そうよね。それでも一応警戒だけはしておかないと。でも、誰が何のために、そんな依頼を冒険者ギルドに出したのかしらね。」
「さぁな。俺にはよく分からねぇが、何か企んでやがることは確かだろうな。だが、ギルドに依頼だすにしても金はどうすんだ?ニーナのおかげで、違法勧誘して集めた寄付金は、裁判所からの命令で全額返済の義務が生じてるはずだし、そんな余裕ねぇはずなんだが・・ダメだ、やっぱり俺には分からねぇや。ミワはなんか思い当たる事あるか?」
「私も全然。さすがに冤罪なんてのは通らないとは思うけどね。」
「だよな。ランシアかリッチマンが来てたら相談してみようぜ。あいつらなら何かしら思いつくだろ。」
「あ、そういえば、さっきうちの店にランシア来てたのよ。フレンチトーストセット頼んでた。なんか店の修理までしてくれたみたいなのよね。そういえばカシワと何か話してたみたいだったけど。」
「大方、実験の被験者にでもさせるつもりなんだろうよ。ランシアのやつ、なんかやたらカシワのこと気に入ってたみたいだしよ。ああ、もちろん、実験ターゲットとしてって意味だぜ。」
「カシワがランシアの実験対象ね・・まぁどうでもいいことだわ。ランシアの実験内容なんて私には全然分からないもの。」
「俺もだ。おっ、話してるうちに部室についたようだな。なんだランシアにリッチマン、ニーナ。カシワとリア以外は全員揃ってんじゃねぇか。」
部室にはカシワとリア以外の全員が既に椅子に座って、いつものように大量の菓子袋を散乱させながら、お茶会をしていた。
「皆もう来てたんだな。カシワとリアはまだか?」
カルロスが尋ねるとリッチマンが気まずそうに答える。
「いや、それがカシワは部室には俺とランシアと一緒に来たんだけどな。ランシアのやつが・・」
「私のあまりに魅力的すぎる美しさに耐えられなくなって逃げ出しちゃったみたいなのよね。」
ランシアが頬に両手をついておどけると、すかさずリッチマンがランシアの頭をはたく。
「違うだろ。おまえのあまりに凄まじすぎる実験に耐えられなくなって逃げ出したんだ。言葉は正確に伝えような。」
「いったーい、何するのよ、もう。せっかくの髪型が台無しになっちゃうじゃない。私に触りたいって気持ちはわかるけど、もうちょっと考えなさいよね。」
「だから違うって。なんだその逆セクハラ発言は。だいたいおまえは・・」
他のメンバーがそんなランシアとリッチマンの様子を見て、驚きの表情を見せる。特にランシアは変わっているなとは思っていたが、こんな風に庶民的というか、はっちゃけた言動をとる女性だというイメージがなかったのだ。もっと高潔でどちらかというと普通なら近寄りがたい雰囲気を持つ女性に思えていた。だから、ランシアの意外性に驚き、逆に今までよりも親密さを感じることになった。
ニーナがそんなランシアに紅茶とラスクを差し出し、隣に座る。
「へぇ、ランシアってそんな話し方もするのね、意外だわ。でも私は好きよ。ランシアっていつも何考えてるか分かんないなぁって思ってたけど、実は何も考えてなかったりして。ぼぉーっとしてても頭はいいから質問にはスラスラ答えちゃうのよね。」
「ちょっと、ニーナまで何よ?別にそんなことないってば。皆私の事、誤解し過ぎよ。どこにでもいる普通の学生なんだから。」
「どこにでもいる普通の学生はミスティア連合のようなチンピラ集団壊滅させたり戦争回避させるような案をポンポンと思いついたりしないって。私達、そんなランシアにいっつも助けられてるのよね。感謝してるのよ、ランシア。」
「やめてよ、もう。そんな改まって言われると、こっちも照れるじゃない。」
「あはは。ランシアが赤くなるなんて可愛いとこあるじゃない。今のランシアの姿見たら、学園中の男どもが交際申し込んでくるわよ。」
「そんなこと言って変な男に申し込まれても困るわよ。だいたい私にはもう・・いや、何でもないわ。」
そんなランシアの言葉尻を捕まえて、さらにニーナのエスっけが増す。
「へぇ、ランシアってもしかして好きな人いるのね。私にはもう、何かな?ニーナ姉さんに教えてごらん。ほれほれ。」
ニーナが調子に乗りランシアの脇をくすぐる。ランシアが身をよじらせて抵抗し、ニーナがさらに責める。ばたつかせたランシアの足からは白い太ももがくっきりと見える。端から見ているとなんとなくエロい。カルロスはニーナとランシアの女性二人がじゃれ合う様子を食い入るようにじっと見つめ続けている。
「もう、いい加減にしないと怒るわよ。こら、やめなさいって。ちょっと、どこ触ってるのよ。女性同士でもセクハラは成立するのよ。あ・・こら、ダメだって。」
ミワがその様子を見ながら、カルロスの肘をつつく。
「ねぇカルロスってば。見とれてないで聞きなさいよ。さっきの話相談するんでしょ?」
「今いいとこなんだからよ、、あ、ああそうだな。相談だったな。でももう少し見ててから・・」
「もう・・いいわ。私が伝えるから。ねぇ皆、ちょっと聞いてほしいんだけどさ・・」
ミワはカルロスから先ほど聞いた冒険者ギルドの広告の件を皆に伝えた。さすがにニーナもランシアをからかうのをやめ、ランシアも冷静な表情に戻る。最初にミワの言葉を聞いて意見を述べたのはリッチマンだった。
「神官アムドが冤罪ねぇ・・こりゃおそらく聖者の集いの連中がエルドォワ支部を壊滅させた張本人、つまり俺たちミス研をあぶりだそうとして、仕掛けたことなんだろうな。この依頼だしたのは、おそらく本部の連中、それも、教団内でそれなりに高い地位にある人物だろう。じゃなきゃ、こんな目立つ事できないからな。もしかしたら、教祖本人かもしれない。それで、この依頼って誰か受けたやつはいるのか?」
カルロスはギルドでのことを思い出す。確かあの時、受付嬢は既に引き受けた方がいるって言ってたな。依頼を受けるのは一人または一グループじゃなくてもいいかなっていう話もしてたと思う。
「ああ、依頼を受けたやつはいるみたいだぜ。誰かまでは分からねぇけどよ。それでどうするよ?連中このまま放っとくと、また何しでかすか分かんねぇぜ。」
皆はしばらく考え込む。そうこうしているうちにカシワが部室に戻ってきた。
「ふぅ・・もう、ランシアの実験の話は終わっただろう。あんな思い、一日に二回もしてたまるかっての。お、皆揃ってるじゃん。あれ、どうしたの?」
カシワは皆が何やら考え込んでいる様子を見て、訝しげに首を傾げる。カルロスがもう一度カシワに冒険者ギルドで見た広告のことを話す。カシワの方も今リアはリリィとルドルフを連れて遊びにいってる事を伝えた後、皆と同じように考え込んだ。聖者の集いが何を考えていくのか知らないが、このままだとまた、リリィやルドルフ、それに多くの強制労働者たちや違法勧誘をうけた人達のように、教団の犠牲となる者が出てくるだろう。冒険者ギルドに出された依頼内容がエルドォワ支部の連中を逮捕させた原因となったやつらを探し出すってことなら、ミス研のことも連中に知られてしまうかもしれない。
「やっぱりこのままじゃまずいよな・・連中が何考えてるか分からないけど、早急に手を打たないと。」
俺がつぶやくとカルロスやニーナもうなずく。ミワ姉は心配そうに俺を見上げる。しばらくしてるとランシアが唐突に切り出してきた。
「ねえ、私達も聖者の集いの仕掛けたこの依頼、受けてみましょうよ。」




