それぞれの思い
「見てみて、ルドルフ。こんなに大きな乗り物が水の上に浮かんでるなんて信じられない。お船って凄いね。あ、向こうではお魚釣ってるよ。ちょっと行ってみようよ。」
リリィとルドルフがはしゃいでいるのを俺とリアは手をつなぎながら眺める。リリィもルドルフも元気になってくれたみたいで嬉しい。ルドルフの方も、怪物になって記憶削除されて自我を無くされていたとは言え、リリィを傷つけてたことをずっと悔やんでたからな。もちろん、それはルドルフ本人の意思でやってたことじゃない。リリィもそのことを分かってくれている。その二人が今は手を取り合って、遊覧船からの景色に興奮して騒いでいる。二人の喜んでいる様子を見ていると、こっちまで嬉しくなってくる。
「ご乗車されているお客様に申し上げます。今回このクルーズでは、エルドォワ音楽団の方々による演奏会を予定しております。皆様こぞって、船内中央部にある大広間の方へお集まりください。」
船内アナウンスが流れてくる。俺たちは大広間の方へと向かった。すでに演奏会の準備はできており、アコーディオンやトランペットなどの楽器類を持った面々が整列している。演奏が始まると、船内の係員からアイスコーヒーやウーロン茶、麦酒などが希望により渡される。
俺たちは飲み物を受け取り、演奏を聴くため、向かいにあるベンチに腰掛けた。
「ご来場の皆様。本日は我が楽団ミケランジェロの演奏会にようこそおいでくださいました。心ゆくまでお楽しみいただければと思います。それでは早速ではございますが、はじめさせていただきたいと思います。」
ミケランジェロ楽団による演奏会が始まる。楽団というからオーケストラのような曲を想像したが、軽いアップテンポの曲やテクノ系に近い曲などが多く流れる。どちらかというとオーケストラというよりはポップスに近いだろう。見ると周囲の観客たちが曲に合わせて踊りだした。
そうか、この演奏会はただ座って聞いているってわけじゃなく、こうやって曲に合わせて客に踊りをさせるサービスだったのか・・
リリィとルドルフもペアを組んで、独特の踊り(らしきもの)を懸命に踊っている。上手い下手は関係無しに、小さい子が何かを一所懸命頑張っている姿って可愛いな。しばらく見ているとリアが俺を誘ってきた。
「ねぇカシワ。私達も踊ろうよ。」
踊りか・・正直全然自信は無いんだよなぁ。そもそも人前で踊ったのなんか、幼稚園のお遊戯会ぐらいしかないんじゃないか?
「リア、踊りたいけど、俺多分うまくないと思うよ。それでもいいかな?」
リアはそんな俺の自信の無い表情を見て笑いかける。
「大丈夫よ。私がちゃんとリードしてあげる。ほらおいで。」
リアが俺の手を引っ張り、踊り場へと連れ出す。俺はリアの動きに合わせてステップを踏んでみた。ワンツー、ワンツー。いや、アンドゥトロワか?そりゃバレエか。だめだ。全然体が思うように動かん。リリィとルドルフが可愛いなんて言ってる場合じゃないな、こりゃ。
俺の動きは華麗とはとても言えないものだったが、リアはそんな俺を馬鹿にしたりはしない。手を取ってひとつずつ、次の動きを教えてくれた。おかげで、俺はリアの温もりを感じながら、少しづつだが踊りを覚えていくことが出来た。
しばらくして、踊りに慣れ始めた頃、再びアナウンスが流れる。
「それでは続いてチークタイムに入ります。そのままの位置でお待ちください。」
チークタイムもあるのか・・こりゃ、演奏会というよりは、昔バブル時代に流行ったと言われるディスコみたいな感じなんだな。俺とリアもチークタイムに入る。リリィとルドルフはチークタイムというのが、どういうものかは分からないようだったが、とりあえず周囲の真似をしている。俺も人の事はいえず、同じく周囲の真似をしているだけだったのだが、唐突にリアが俺の顔を見上げて囁いてきた。
「ねぇカシワ、私ね、本当は怖かったの。もちろん皆が助けてくれるって信じてたけど、あのときカシワが捕まって、私も鎖に縛られて、あのままだったら、教祖とかいう人にどんな目に遭わされてたか分からない・・カシワ、あの時、私のために、ずっと見張り兵に殴られ続けてたんだよね。ごめんね。痛かったでしょ。光と聖属性の魔法なら任せてなんて言っておいて、結局何の役にも立てなかった・・」
リアが俺の顔をみつめてくる。その目にはうっすら涙が浮かんでいた。俺はそんなリアを優しく抱きしめる。
「リア・・言っただろ。俺はどんなときでもリアの味方だって。リアが無事で本当に良かった。殴られた事なら別に何ともないさ。リアの回復魔法のおかげですっかり傷も癒えたし、だいたい俺はあのフィアー先生の気合いはいりまくりの講義を受けてるんだぜ?こういっちゃなんだが、あの程度の攻撃を何度くらったとしても、フィアー先生の授業での模擬実戦に比べれば天国みたいなもんさ。それにリアは十分に役に立ってるよ。確かに戦闘面ではもう少し強くなる必要はあると思うけど、それは俺も同じ事だし。リリィとルドルフの楽しそうな顔を見てみなよ。あんなに小さいのに酷い目に遭わされて、それでも今笑顔でいてくれている。それは間違いなくリアのおかげなんだよ。カルロスの力やランシア、リッチマンの知恵とは別の形で・・、事件の被害者の心を救うっていう一番重要な部分でリアは役に立っているんだ。それは誇っていい事だと思うよ。」
リアはそんな俺の言葉を聞いて、再度俺を見つめ、そして俺にキスしてきた。突然のことで戸惑った俺だが、リアの唇の感触に、リアの温かさと柔らかさに心が飲み込まれていく・・
俺はこの日初めてリアとキスをした。ミケランジェロ楽団の演奏はその後もしばらく続き、やがて遊覧船は定刻通り、航路を順調に廻って海から眺めるエルドォワ街の風景を乗客達に楽しませた後、元の波止場へとたどり着いた。
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「カシワたちはリリィとルドルフ連れてお出かけか。そろそろ俺も勉強して、それからオーディーンの修行受けにいかなきゃな。本当ならオーディーンの修行だけに集中したいんだが、まぁ仕方ない。親父やお袋に迷惑かけちまうわけにもいかねぇしな。」
カルロスは起き上がり、一度魔法大学の図書館に行き、勉強する。一緒に図書館について来たリッチマンに数学を教えてもらったおかげで、思ったより早く予定課題を済ませる事ができた。やっぱり頭のいいやつは教え方もうまいもんだ。一通り予定していた勉強を思ったより早い時間で済ませる事ができたため、そのままオーディーンの滞在している宿の方へと向かう。まだ宿にいるだろうか?もしかしたら、もう仕事に出かけてしまってるかもしれない。キューちゃんを使って念話でオーディーンに問い合わせてもよかったのだが、オーディーンはキューちゃんのことなど知らないし、いきなり念話しても訝しがられてしまうだろう。やっぱり直接宿屋に行くか。
オーディーンの宿泊している宿屋に着くと、思った以上に彼目当ての野次馬や観光客などが多くいることに面食らう。だが、オーディーンは残念ながら、やはりここにはいないようだ。冒険者ギルドに行ってもう依頼を受けたのだろうか?だとすると、今は依頼遂行中か・・今日は修行してもらうのは難しいかもしれないな。せっかく勉強がはかどって、早く終わったというのに残念だ。仕方なしにカルロスは、大学にあるミス研の部室に戻ろうとし・・、せっかくだから冒険者ギルドを覗いてみるかと思い直し、ギルドの方へと向かった。
「いらっしゃいませ。本日はご依頼の要望ですか、それとも依頼案件のご紹介の要望でしょうか?」
ギルドに入ると受付嬢がお決まりの挨拶をしてくる。なんだろう?受付嬢の顔が少し赤くなっているように見える。熱でもあるのだろうか?
「あぁ、悪ぃ。俺は別に冒険者ってわけじゃねぇんだ。それに依頼に来たわけでもない。ちょっと知り合いがきているかどうか覗きにきただけなんだが・・やっぱりここにもいねぇみてぇだな。邪魔したな。」
カルロスは周りを見渡し、ここにもオーディーンの姿がいないことを確認すると、そのままUターンして帰ろうとした。そのときふと、ギルドに張り出されていた広告が気になり、受付嬢に尋ねる。
「なぁ、この”探偵依頼”ってのは、どんな仕事なんだ?」
「あ、はい。その案件は先ほど既に引き受けた方がいらしたんですが、内容がちょっと変わった者でしたので、別に依頼を受ける方が一人または一グループじゃなくてもいいかなってことで、広告という形で張り紙したんです。実はつい先日、逮捕されたある神官がいるんですが、その神官が冤罪であり、陥れた人物を捜し出してほしいという依頼でして、確か逮捕された方の名はアムドとかいう名だったと思います。」
アムド?まさかと思いカルロスは受付嬢に尋ねる。
「なぁ、もしかして、その逮捕された神官って聖者の集いって宗教団体のやつじゃねぇよな?」
「ええ、そのような名前の宗教団体でした。ご存知の方なんですか?」
なんと言う事だ・・あの時カシワやリッチマンと一緒に捕まえた神官を巡って、まだこんな問題が起きていたとは。やべぇな、こりゃ。ミス研の連中に早めに相談しにいった方がよさそうだ。
「いや、人違いだった。ありがとな。俺はまだ学生だからよ。卒業したら、世話になるかもしれねぇから、そのときは宜しくな。それと風邪引いてんなら無理すんなよ。」
カルロスは受付嬢に礼を言って、その場を立ち去る。受付嬢の顔が赤かったのは、病気などではなく、オーディーンと直に話すことができた感激と照れがまだ残っていたからなのだが、そんなことはカルロスは知る由もない。
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ニーナとミワはハンナさんの教会にまだ残り、昨日泊めてもらったお礼をするため、ハンナさんの手伝いをしていた。
「ニーナ、あのときはごめん。取り乱してて。ニーナが悪くないってことはわかってたはずなのに、カシワとリアが拷問にかけられるかもしれないって思うと、全然冷静になれなかった・・」
「もういいって。ミワはいつものミワでいてくれればそれでいいよ。カシワもリアも無事だったんだし、エルフの子供達も救出出来たんだから、これ以上何もいうことないって。」
ミワは自分が取り乱していたときのことを振り返る。いつもの私ではなかった。あのとき偶然拾った手帳には聖者の集いによる凄惨な拷問内容が事細かに書かれていた。その内容がカシワとリアに及ぶかもしれないと思うと、とても冷静ではいられなかった。
だが、それだけだろうか?カシワがカルロスたちに救出され、部室に戻ってきたとき、思わず抱きついてしまった。カシワの温もりがまだ自分の感覚の中に残っている。カシワが神官アムドを捕らえるため、もう一度教団に行こうとしたとき、思わず反対した。
あのときカルロスやリッチマンが行くのは止めなかったのに、カシワが行くのは止めようとした。それは何故?単純に戦闘力の問題だったのだろうか?確かに喧嘩慣れしているカルロスや全属性の魔法が使えるリッチマンに比べれば、カシワは弱いだろう。でもそれだけじゃない気がする。
カシワとリアが捕まったときから、カシワのことだけが頭から離れない。カシワが側に居ると落ち着く。私はもしかしたら、カシワのことが好きなのだろうか?今まで弟のような存在だと思っていたが、今カシワは自分の中でどんどん大きな存在になっている。でも、カシワにはリアがいる。私はどうすればいいのだろう?
「ミワ、どうしたの?私のことなら本当に気にしなくていいよ?」
気がつくとニーナが心配そうにこちらを見ている。
「ありがとう、ニーナ。うん、私はもう大丈夫。さ、残りの片付けと掃除、とっとと済ませちゃおうよ。」
ミワはニーナと一緒にハンナさんの手伝いを続ける。目の前の仕事に没頭する事で、自分が考えたことを忘れようと思った。
「そうよね、私はいつもの私。いつでも頼りになるミワ姉さんなんだから。」
ミワは自分に言い聞かせるようにつぶやき、仕事をひとつづつ片付けていった。




